平成12年度北西太平洋サンマ長期漁況海況予報
(漁期後半の見通し)

平成12年10月12日
東北区水産研究所


1.漁期前半の漁業の経過
 2000 年のサンマ漁業は,7月8日10トン未満船による流し網漁業から始まった。7 月19 日からは知事許可の棒受網漁船(5 トン未満,5 トン以上10 トン未満漁船は7 月26 日から開始)による操業が開始され,大臣承認棒受網漁業は,小型船(10 〜20 トン)が8 月10 日,中型船(20 〜40 トン)が8 月15 日,大型船(40 トン以上)が8 月20 日から出漁
(1) 漁場形成(図1)及び魚体組成(図2
 漁場は,漁期当初(8 月上旬まで)には道東沖合20 〜140 海里(水温14 〜19 ℃台)に形成され,昨年及び一昨年と比較すると良好な漁況で推移した。特に流し網では肉体長29 〜32cm の大型のものが多く漁獲された。8 月中旬になって,漁場は道東及び色丹島沿岸に形成されたが,漁況は低調で魚体は中型主体(24cm 以上29cm 未満,84 %)であった。8 月下旬,漁場は道東沖合10 〜40 海里付近(表面水温14 〜17 ℃台)及び色丹島・択捉島の南方沖合15 〜120 海里沖合(表面水温13 〜17 ℃台)に形成され,漁況も好調となった。この時の魚体は大型魚(29cm 以上)が増加し,特に32cm 以上の特大魚の増加が目立った。これらの漁場は9 月上旬まで継続して形成され,漁況はさらに好転して,大型魚の割合も増えた(54%)。9 月中旬になると択捉島沖合の漁場は無くなったが,色丹島及び道東沖合の漁況は相変わらず好調で大型魚の割合はさらに増加した(58%)。9 月下旬になると色丹島沖の漁場は出漁漁船が減少し,道東沖合が主漁場となり,三陸北部沖合にも漁場が形成され始めた。
(2)漁獲量(図3)及び1網当り漁獲量(CPUE,図4)
 8 月上旬までの累積漁獲量は1,044 トンで前年を若干上回った(前年比117 %)。8 月中旬に入り漁獲量は上向き,8 月下旬に入って漁獲量はさらに増加した(8 月末現在前年比184%)。漁獲量はその後も順調に伸びて9 月下旬に至っており,9 月末現在,106,335 トン(前年比156 %)が水揚げされている。この水揚げペースは近年では1996 年漁期とほぼ同程度であった(1996 年は漁期終了までに約23 万1 千トンを漁獲)。
 1 網当り漁獲量(CPUE )は,8 月上旬は0.4 トンと前年並みの低い水準であったが,8月中旬には約1.2 トンに上昇し,その後も上昇して,9 月上旬には2.9 トンに達した。その後,9 月中旬には,わずかに低下して2.4 トン弱程度となったが,9 月下旬には再び上昇して4.5 トンに達した。これは,不漁だった前年・前々年の同期と比較するとかなり高く,1996年並であったが,1997 年には及ばなかった。
2.来遊資源の性状と動向
(1) 調査船調査の結果(図5
 東北水研用船北鳳丸,釧路水試所属北辰丸,岩手県水産技術センター所属岩手丸,茨城水試所属水戸丸,千葉水試所属房総丸,千葉丸,及び安房水産高校所属「わかちば」がこの時期にサンマ漁場域で浮き魚類の漁獲調査を行った。
 北鳳丸はさば類などの浮魚調査のため9 月14 日〜10 月9 日まで道東,三陸海域において流し網による漁獲試験を行った(図5)。この漁獲試験では多数のサンマが漁獲されており,過去4 年間の同海域の調査と比較したところ,サンマの漁獲分布は1998 ・1999 年より多く,1996 ・1997 年には及ばないことが明らかになった。
 北辰丸は8 月28 〜9 月8 日にマサバ・マイワシを対象とした流し網による漁獲試験,9月19 日〜27 日にサンマを対象とした流し網による漁獲試験を道東沖合域で行い, 1998 ・1999 年と比較してサンマが多く分布していること及びその分布密度は1996 ・1997 年には及ばないことを報告した。
 岩手丸は9 月12 〜13 日,18 〜27 日に三陸北部沖合及び道東沖合において棒受網による漁獲試験を行い,同海域での魚群分布を確認した。水戸丸は8 月21 日〜9 月6 日にかけて棒受網により東経150 度以東を含む広い海域でのサンマの分布を調査した。その後,9 月14 日〜25 日及び10 月2 日〜6 日に道東・三陸沖合を調査した。また,千葉丸は8 月16 〜9 月10 日に棒受網により東経150 度以東を含む広い海域でのサンマの分布を調査し,その後,9 月19 日から再び道東及び三陸北部沖合域の調査を行い魚群の分布を確認した。千葉丸及び水戸丸の調査により東経150 度以東の沖合域にも沿岸域と同様に特大魚を含む魚群が分布することが明らかになった。房総丸は8 月2 日〜9 月7 日まで北方4 島沿岸から道東沖合にかけての海域で棒受網による漁獲試験を行い,色丹島及び択捉島沖合に特大魚を含む中型主体の魚群が分布したことを確認した。その後,9 月12 日〜10 月2 日まで道東及び三陸北部沖合で再び調査を行い,三陸北部での魚群の分布を確認した。「わかちば」は9月4 日〜14 日及び9 月19 日〜28 日に道東で棒受網による調査を行い,魚群の分布を確認した。
(2)来遊資源量
 来遊資源量の指標と成る資源量指数(緯度経度30 分桝目における旬別平均CPUE の全桝目の和,本報告では暫定値)は8 月下旬には29.9 であったが,9 月上旬には52.8 となり,その後9 月中旬には31.1 と低下したが,9 月下旬には98.2 と再び上昇した。8 月下旬から9 月末までの来遊資源量指数(各旬の資源量指数の和)は212.0 で,前年比300%であった。これらのことから,前年の3 倍近い資源が漁場域に来遊しているものと推測された。
(3)肉体長組成と成熟度
 8 月下旬以降に行われた精密測定における雌の肉体長と生殖腺重量の関係によれば,32cm 以上に達している特大魚の72 %の生殖腺重量が0.5g を超えていた。このことから,今後は,特大魚は急速に成熟が進むものと考えられた。
3.漁期後半の予測
9 月末現在までの漁況の動向,調査船調査の結果,及び魚体調査の結果から漁期後半の漁況については下記のように予想された。
(1)資源の来遊状況
 棒受網漁業による漁獲量,調査船調査による漁獲分布,及び来遊資源量指数が前年を大きく上回っていることから,本漁期後半における来遊資源量は,当初の漁況予想と異なり,前年を大幅に上回るものと予測される。
(2)漁場位置
 表面水温は概ね平年並みに推移すると予測されているので,全般的にはサンマの南下も平年並みの経過となると推測される。10 月中旬には主漁場は三陸沖に移り,三陸沖暖水塊と親潮第一分枝の潮境には,安定した漁場が形成されよう。常磐海域に冷水域があるので,11 月上旬以後は,常磐沿岸にも漁場が形成されよう。
(3)漁獲物の組成
 漁期前半は特大魚(32cm 以上)の割合が多かったが,漁期後半は特大魚の成熟が進み,灯付が悪くなると予測されることから,特大魚の割合は減少し,中型及び小型魚が漁獲の主体となろう。
4.付記
 本報告は次の機関の協力によって作成された。
 北海道立釧路水産試験場,北海道立網走水産試験場,岩手県水産技術センター,宮城県水産研究開発センター,宮城県産業経済部漁業振興課,福島県水産試験場,茨城県水産試験場,千葉県水産試験場,千葉県立安房水産高等学校,静岡県水産試験場,(社)漁業情報サービスセンター,全国サンマ漁業協会,北海道区水産研究所,水産庁漁場資源課,水産庁沿岸沖合課
図1.2000年漁期前半の棒受網漁船CPUE(30分升目の平均)の推移
図2.2000年漁期前半の棒受網漁獲物の肉体長組成の推移
図3.過去5年間の旬別累積漁獲量の推移
図4.過去5年間の旬別CPUEの推移
図5.1997-2000 年の9-10 月の北鳳丸のサバ資源調査によって採集されたサンマの漁獲分布の比較。1997-2000 年の比較。
図6.8月下旬〜9月下旬の精密測定によるサンマの雌の肉体長と卵巣重量との関係
表1.2000年8月の海況及び現況(9月上旬〜下旬)
東北海区沿岸水温予報(2000年)
各階級の水温平年偏差の範囲
海況関係資料