タスマニア島CSIRO訪問報告

清水勇吾


 平成9年1月21日から1月29日にかけて、海洋環境部の友定彰部長(当時)、稲掛伝三海洋動態研究室長、横内克巳主任研究官、伊藤進一研究員とともに、オーストラリアのタスマニア島ホバートに出張し、CSIRO(The Australian Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation)の海洋研究部門(The Division of Marine Research)で開催された「赤道・中緯度域における海洋力学・生物学的過程のワークショップ」に参加した。平成8年度科学技術振興調整費重点基礎研究課題(以下、重点基礎と略す)「魚類の仔稚魚および幼魚期における分布と輸送に関する研究」の予算によるもので、目的は研究発表すること、および当該重点基礎課題に関してCSIROほか豪州側研究者と研究交流を深め、新しい研究協力体制をつくることであった。特にCSIRO海洋研究部門には赤道域の海洋環境やカツオ・マグロ類研究の専門家が多数在籍しているので、当該重点基礎課題の中でも熱帯水域でのカツオ稚幼魚の分布と輸送に重点をおいていた。
 出発日、東日本の太平洋側は大雪であった。成田空港も夜に吹雪になり、我々が乗るカンタス航空便の出発が1時間以上遅れてしまった。日本からタスマニア島へ直航便はなく、往路を成田〜ケアンズ〜ホバートという経路で予定していたが、飛行機の遅れのため最初の乗り継ぎ便に間に合わなかったのが響き、結局、成田〜ケアンズ〜ブリスベーン〜メルボルン〜ホバートと3回も乗り継ぎをした。到着予定時間を随分オーバーし、ホバートに着いたのは現地時間の夕方ころであった。
 翌朝、CSIROを訪れ、簡単な自己紹介のあと早速ワークショップが始まった。初日は赤道域中心のセッションで、日本側から4題、豪州側から3題の発表があった。「カツオ稚幼魚の輸送モデル」(発表内容は伊藤ほか(1996))および「表層トロールによって採集されたカツオ稚幼魚の分布と海洋環境との関係」(発表内容は清水・田邉(1996))についての発表は、豪州側のカツオ研究者の高い関心を集め熱心な討論と情報交換が行われた。また、伊藤氏が発表した「カツオ大回遊モデル」(図1)については、豪州側の共通の興味を持っている研究者から温度だけでなく溶存酸素量もカツオの遊泳に効くという指摘があり、それを機に“何が最もカツオの遊泳に効いているか”というテーマで共同研究がとんとん拍子にまとまった。私個人にとっては、ADCP(ドップラー流速計)を使って研究をしていることもあって、CSIROのS.Wijffels博士からCTDに小型ADCPをくっつけて海中に降ろし、従来より遙かに深くADCPで海の流れを測る方法(L-ADCPと呼ばれる方法)について、そのノウハウや人脈を教えてもらうことができ非常に有益であった。その夜、本ワークショップのコンビーナーの一人であるG.Cresswell博士のご自宅のパーティに招かれ、タスマニア島のすばらしい海鮮料理を堪能させていただいた。タスマニア島は南緯41〜43度にあり、北半球の北海道と同じくらいの緯度と面積である。食卓に上る海産物の中にはサケやカキなど日本でもおなじみのものがあり、調理法は違っても違和感をあまり感じなかった。
 ワークショップの2日目は中緯度域中心のセッションであり、豪州側から3題、日本側から6題の研究発表があった。このセッションで研究発表を傍聴したり、私自身研究発表して思ったことは、海洋学的にオーストラリア東岸と日本東方沖はよく似ているということである。オーストラリア東岸においても、低緯度側には暖流の東オーストラリア海流、高緯度側に寒流の南極周極流が流れており、両海流系の前線付近には暖水渦や低温水の低緯度側への貫入などが見られる。しかし、似ているということは違う部分がある、ということの裏返しである。東北沖とオーストラリア沖の海を比較しその類似点と違いを見つけ、なぜそうなるのか、という見方で今後の研究に取り組むのも面白いのではないか、と思った。
 タスマニア出発の日の午前中に、CSIRO海洋研究部門の施設などを見学させてもらった。日本と違い、研究者へのサポート体制が非常にしっかりしているという印象を受けた。研究棟と別に研究をサポートする技術者がいる大きな施設があり、新しい観測機器の開発や測器のメンテナンスなどにいつも気を払っている様子であった。日本の場合、観測機器が故障した場合などは研究者が修理したり業者と連絡しなくてはならないが、CSIROの研究者は観測のことに専心できるので非常にうらやましく感じた。
 本出張を通じてCSIRO海洋研究部門に共通の興味を持った多くの研究者の知り合いができたことは、非常に大きい成果であった。これは、本ワークショップの形式が大きすぎず、自由に討論し合いながら一人40分かけて発表を行う、という形を取っていたことにも大きく依っているように思えた。大きい国際学会には大物研究者も多数来るであろうが、親しくなるためにはかなりの努力がいるはずである。本ワークショップのようにじっくりと現地の研究者と語り合うことのできる小規模な研究集会にも大きいメリットがある。
 帰国後しばらく経って、CSIRO海洋研究部門のG.Cresswell博士とJ.Young博士からそれぞれ「オーストラリア東岸と日本東岸の中規模渦の比較研究」「水色衛星データを用いた基礎生産力の推定」という題で、日豪科学技術協定に基づくJoint Science and Technology Consultative Committeeに対する共同研究の応募をDIST(オーストラリアの科技庁のようなところ)に申請したい、という申し出があり、快諾して結果を待っている。また、別の用件で3月に来日したCSIROのG.Meyers博士がわざわざ東北水研に立ち寄ってくれ、研究交流を深めた。Meyers博士も期待していたが、同様のワークショップが再び開催されることを待ち遠しく思う。
 最後に、本ワークショップに多大なご労力をさいてくださったG.Cresswell博士をはじめとするCSIRO海洋研究部門の皆様、および、このような機会を与えてくださった関係諸氏の皆様に感謝いたします。
参考文献
清水勇吾・田邉智唯(1996):熱帯水域におけるカツオ稚幼魚の分布と輸送,1996年度水産海洋学会研究発表大会講演要旨集,P42-43.
伊藤進一・田邉智唯・野中正見・竹内謙介(1996):カツオ稚幼魚の輸送モデル,平成8年カツオ資源会議報告,P240-241.
(海洋環境部 海洋動態研究室)

Yugo Shimizu