オキアミ資源研究とチームの結成と第1回資源研究会議の開催について

黒田一紀


  1. はじめに
     三陸〜常磐沿岸域で冬春季に漁獲対象となっているツノナシオキアミ (Euphausia pacifica Hansen)は、北太平洋に広く分布する冷水性種である。
     当海域におけるオキアミ漁は宮城県女川地方で1940年頃から行われていたが、1960年代までは漁期も短く、零細な漁業であった。そして1970年代以降、オキアミ漁業は三陸・常磐地方の岩手・宮城・福島・茨城県の沿岸一帯に拡大し、近年における年間水揚量は約3〜8万トン、生産金額は約15〜30億円と増大している。この背景には、1967年頃から遊漁の撤き餌および養殖餌料としての安定した需要の伸びがあり、今後もこの需要が見込まれること、さらに沿岸漁業として従事者も多い点から、オキアミ漁業はその重要性を増しつつある。
     また、オキアミ類は海洋生態系において、さけ・ます類、スケトウダラ・マダラなどの底魚類、カツオ・サバ・サンマ・スルメイカなど重要魚類の主要な餌料生物となっていることから、海洋生態系の消費系における基盤生物として、生物・生態学的研究および漁業に貢献できる資源生物学的研究を進める必要がある。
     既往の知見によれば、オキアミの漁況は親潮の動向に強く影響されている(小達;1979,1991)。また、漁場の形成状況や県別の水揚量の推移によると、毎年の漁獲量変動が大きく、かつ、好不漁が生じやすい漁業であるために、魚価の変動が大きい特徴をもっている。このように、オキアミ漁は多くの問題を抱えている漁業であり、その安定化のためには、自然科学面として漁況予測や資源量の評価を行う必要性と重要性を有している。

  2. オキアミ資源研究チームの構成と役割
    1. チーム結成の経過
       東北水研資源管理部漁場生産研究室では、動物プランクトンの生物生態と変動に関する研究以外に、1987年に起きたいわゆる「イカナゴ紛争」に科学的対処するために、1988〜1990年には東北ブロック各県水産試験場と協同して「イカナゴ研究チーム」を組織し、イカナゴの資源生物的研究を実施した。1991年にはイカナゴに関する研究課題を中断するとともに、オキアミの漁業生物学的研究を開始した。乱獲による沿岸資源の減少や遠洋沖合漁業からの撤退によるオキアミ漁業の重要性の増大、および協力体制を組織することに対する各県からの要望もあり、イカナゴの例にならって、調査研究の協力と漁業に貢献するために昨年度末に研究チームを発足させた。
    2. チームの構成と役割
       このチームはオキアミに関する調査研究について協議することによって、目的の達成のために協力することを目指している。具体的には、毎年の漁況の取りまとめと調査研究の紹介、展開、計画検討などを行い、協同調査や研究を行う。必要に応じて、研究会、研修会、見学会などを計画し、さらに課題研究に取り組むこともある。
       このチームは主体者と協力者によって構成される。主体者とは、青森、岩手・宮城・福島・茨城の5県水産試験場、遠藤宜成助教授(東北大学)、寺崎 誠助教授(東大海洋研)、東北水研漁場生産研究室である。
       主体者の主な役割分担は東北水研(窓口と調査研究、漁況予測、資源評価)、県水試(調査研究、漁業実態、漁況予測)、遠藤氏(調査研究面)、寺崎氏(対外関係、調査研究面)とする。 
       協力者(省略)とはオキアミの調査研究を進めるにあたり、様々な形で協力関係を進めていく候補者と位置づけている。

  3. 第1回資源研究会議の成果
     このような背景のもとに、去る7月14〜15日の2日間に亘り、第1回オキアミ資源研究会議を開催した。参加は水産庁(遠洋課)、青森・岩手・宮城・福島・茨城県水産試験場、東北大学、東大海洋研究所、漁業サービスセンター、(株)カタヤマ、中央水産研究所、東北区水産研究所などから50名に達した。
     この会議の目的は、オキアミについて自然科学面から生物・生態学的研究の進展をはかり、同時に漁業に貢献することであり、さらに流通から消費までの面にも一定の貢献をすることにある。
     以下にこの会議の成果についてとりまとめた。
    1. 今期の漁況と調査結果
       会議はまず今漁期(2〜6月)における漁況の経過とまとめ及び調査結果の報告に始まり、漁況のとりまとめについては漁業情報サービスセンターの「漁海況速報」に掲載する予定となった。
       今漁期の最大の特徴として、総漁獲量が最近の10年間の年平均漁獲量(56,400トン)の約2倍となり、過去最高の107,890トンとなったこと、さらに、1988年以降遅れ傾向にあった漁期に回復の傾向が見られたことがあげられる。
    2. 研究報告
       4題予定されていた研究報告は講演者の都合によって流通関係の一題が中止されたが、「ツノナシオキアミに関する漁業生物学の現状と問題点」と「オキアミ漁業の沿革と漁業実態」と題する研究報告が行われ、さらに「大型プランクトン・マイクロネクトンの採集方法」と題して採集方法に関する世界の最新情報が紹介された。 
    3. 今後の取り組み方針の検討
       調査内容と方法、特に採集方法や種同定と生物測定などについては今後も検討を加えるとともに、とりあえず現段階における基本事項に関するマニュアルを作成することとなった。漁況予測とその手法開発については、各県と水研の現状の紹介を受けて、今後早期に予測手法開発への協力の強化について方向を確認した。
       また、現在漁業が行われていない青森県からの要望があり、研究チームのメンバーに入ることになった。
       その他の研究情報として、現在日本国内で検討中であるGLOBEC(Global Ocean Ecosystem Dynamics; 海洋生態系力学研究計画)の紹介があった。これは、地球環境の変化が海洋生態系にどのような影響を与えているかを目指すものであり、生態系の中でも特に動物プランクトンが重視されていることから、オキアミ資源研究チームとしては今後とも大いに注目していく必要がある。また、中央水研(脂質化学研究室)から生態系における脂質研究、遠洋課から南極オキアミについて、(株)カタヤマからオキアミの加工利用の技術開発について、さらに東北水研から各水研におけるオキアミ調査研究の取組み状況についての紹介があった。
       漁獲統計の整備については、各県水試、水研、漁業情報サービスセンターの資料収集の現状の紹介に基づいて、今後漁業情報サービスセンターを中心としたネットワークの整備と公表体制について検討することとなった。
       オキアミ漁業の不安定性とその流通に関わる問題点が茨城水試から提起され、若干の意見交換が行われた。今漁期の総漁獲量が史上最高の107,890トン、生産金額は約34億円となった事実を重視し、需給関係から予想される価格面への影響に関する専門家による分析とそれに基づく検討が必要であること、次いで各県を横断する連絡協議会の設定について提言することとした。
       最後に、この会議の報告書は10月に発行すること、さらに来年度の協議会を7月中旬に岩手県と水研が担当して大槌町にある東大海洋研究所大槌臨海研究センターで開催する予定を了承して閉会した。
       なお、懇親会席上では東北水研所長から研究情報ニュース発行の提案があり、事務局としては発行に向けて検討するつもりである。また、15日昼食時には海洋水産資源開発センター作成の南極オキアミの紹介と(株)カタヤマのオキアミ加工技術紹介のビデオを映写した。1回目の会合としては成功裡に終り、この会議を開催するにあたり、御協力していただいた方々に心から謝意を表したい。

参加者写真
プログラム

(資源管理部漁場生産研究室長)

Kazuki Kuroda

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