浮企画連絡室長のアワビ国際学会研究功労賞受賞を祝して
河村知彦

 去る2月に南アフリカ共和国のケープタウンで開催された「第4回国際アワビシンポジウム」 (その詳細については、高見秀輝研究員の報告(冊子版では12-15ページ)を参照 して下さい)において、東北水研の企画連絡室長 浮 永久さんが、その長年の研究成果に 対して国際アワビ学会から研究功労賞を受賞されました。浮さんの研究が、世界のアワビ増養殖 技術の発展に大きく貢献したことを高く評価された結果です。このシンポジウムは、3年に一度 開催されていますが、今回の受賞者は同氏ただ一人でした。シンポジウムへの日本からの 参加者は同氏を含めて5名しかいませんでしたが、光栄にもその場に居合わせた残りの4名に とっても、浮さんの受賞は大変誇らしく嬉しいことでした。
 同氏は、東北水研増殖部(現在の海区水産業研究部)魚介類研究室、およびその後、 室長として異動された養殖研究所繁殖生理部発生生理研究室で長年にわたり、アワビ類の増養殖に 関わる研究をなさって来ました。同氏が、菊地省吾さん(元東北水研魚介類研究室長)らと 発表されてきた研究成果の蓄積が、現在、日本ばかりでなく、世界中で採用されているアワビ 種苗生産技術そのものと言っても過言ではありません。その全ての研究成果をここで紹介するのは 不可能ですが、代表的なものだけを以下に簡単に列挙します。
 エゾアワビの性成熟と温度との関係の解明は、水温管理による成熟の人為的制御を可能に しました。紫外線照射海水の産卵誘発効果の発見は、放卵、放精の制御を容易にし、採卵の効率を 格段に向上させました。アワビ類の栄養要求に関する研究は、現在も世界中で続けられている 配合飼料の開発、改良に大きな貢献を果たしています。海藻各種の餌料価値、餌料転換効率を 明らかにした研究は、アワビ漁場の評価の基準となり、藻場造成の指標として大いに役立って います。また、アワビ類の飼育設備についても数多くの開発、改良をされていますが、中でも 巡流水槽の開発は、種苗の生産効率を上げ、施設維持に必要な労力を大幅に低減しました。 同氏は、総説の執筆等を通じて研究成果の普及活動も積極的になさっていますが、特に 比較的最近にまとめられた冊子「アワビ類の種苗生産技術」((社)日本栽培漁業協会1995、 共著)は、アワビ類の種苗生産に携わる技術者にとってバイブルのような必読書となって います。
 アワビ類の養殖が、中国や南半球を中心とする世界各地で盛んになりつつある現在、 同氏の研究成果は少しも色あせることなく、益々、重要度を増しています。シンポジウムでも、 同氏の周りにはいつも新しい知識を吸収しようという外国の研究者、養殖業者が群がって いました。もちろん、これは同氏の輝かしい研究成果のためばかりでなく、同氏の お人柄にも依るところも大きいと思います。誰とでも気さくに話され、「パーティマン」の 称号を持つほどの世話好きな性格は、国籍を問わず誰からも愛されています。失礼ながら、 ものすごく流暢というほどでもない英語で、あれほどまでに自然に外国人と交わることが できる人を私は他に知りません。受賞式の行われたバンケットでのダンスパーティでは、 何となく後込みしていた私たち他の日本人をよそに、同氏が率先してダンスに加わって いたのが印象的でした。また一つ、同氏から重要なことを学んだような気がします。
 同氏が、長年の研究を世界中の同業者から認められ、非常に名誉ある賞を受けられた ことに心からお祝いを申し上げたいと思います。また、同氏たちが明らかにされてきた ことをベースに、現在、アワビ類の研究を進めている私たち若手(?)の研究者にとって、 今回の同氏の受賞は大いに励みになりました。若手研究者を代表してお礼申し上げます。 今後、同氏のなお一層のご活躍をお祈りするとともに、引き続き私たち若手研究者への ご指導、ご支援をお願い致します。

写真:Scoresby Shepherd 国際アワビ学会々長のサイン入り表彰状

(元 海区水産業研究部 沿岸資源研究室、7/1付けで文部省(東京大学海洋研究所)へ出向)


Tomohiko Kawamura