東北区水産研究所漁業調査船「若鷹丸」調査を終えホノルルから帰港


1.要旨
 東北区水産研究所の漁業調査船「若鷹丸」(692トン)が資源調査・海洋観測を終え、7月26日に塩釜港に帰港した(5月29日塩釜港出港)。今回の資源調査の目的は、(1)サンマ・イワシ等の仔稚魚の分布の定量的な把握,(2)サンマなどと餌を競合するマイクロネクトン(ハダカイワシ・ホタルイカなどの中層魚)の分布および生態系の中での栄養段階の解明であり、海洋観測の目的は、(3)仔魚の輸送過程を解明するためのフロント付近での流れの構造の把握,(4)気候変動に影響を及ぼす北太平洋中層水(水深200〜800m付近に分布する塩分の低い海水)の流動把握である。
 本調査では、特にOMTネットという新型の中層仔稚魚トロールネットを用いて観測を行った。このネットは網口が正方形(2mx2m)の金属製フレームであるため、ネットを抜ける水の量が定量的にわかる。従って、ネットによって採集した仔稚魚の数を水量で割ることによって単位体積(1立方m)あたりの仔稚魚の量を求めることができる。このような仔稚魚の定量的な分布調査を太洋規模の範囲で調査したのは、国内では始めてのケースであり、サンマやイワシの仔稚魚の分布と輸送過程の解明への貢献が期待される。
 また、今回、LADCP(吊下式音響ドップラー流速計)によって、北太平洋中層水の流動を直接観測することに成功した。ADCP(音響ドップラー流速計)は音波のドップラーシフト(救急車のサイレンなどが近づいてくるときには高い音に聞こえ、遠ざかるときには低い音に聞こえる現象)によって海中の流速を測る機器であるが、通常は船底などに固定して用いている。海中では音波が減衰するため、船底からでは100〜500m程度の深さまでしか流速を測ることができなかった。今回用いたLADCPはワイヤーで吊り下げた状態で水中に入れるため、より深いところまでの流速を測ることができる。今回の調査では、最大で6000mまでの流速を観測しており、中層水そして深層水の流速を広範囲に観測することができた。LADPの実用化は国内で初めてのことであり、今後、気候変動に及ぼす中層水の影響を解明する上で今回の調査結果が大きく役立つ。
 その他、世界最大級である4平方m多段開閉式ネット(モクネスネット)を用いたマイクロネクトンの観測を日付変更線から日本近海に至るまで行っており、サンマなどと餌を競合する意味で重要であるにも関わらず、水産資源としての価値が低いために解明が遅れていたマイクロネクトンの生態の解明に期待がもたれる。

2.説明・参考資料

3.発表者
東北区水産研究所所長中村保昭
水産庁東北区水産研究所海洋環境部部長 奥田邦明

4.本件照会先
水産庁東北区水産研究所(TEL 022-365-1191)
企画連絡室長浮 永久
海洋環境部 海洋動態研究室伊藤進一