【研究情報】

各部署の平成16年度の活動総括と平成17年度の方針


[所長]
地域における水研の役割を考える

 
 日頃から当所の業務の遂行につきましてはご支援・ご協力いただき感謝申し上げます。小稿では,所全体を鳥瞰して16年度総括と17年度方針を述べたいと思います。
 昨年,所等の前年度総括と活動方針については本ニュースに掲載しました。これは,一種のマニフェストであり,これに基づいて,機関評価をお願いしたところです。さて,昨年の方針は,1研究成果等の情報発信やブロック推進会議を通じた問題の解決等により,当所がブロックの中核機関として認知されること,2コスト意識と計画的で合理的な所運営,安心安全な所運営を図ること,3人材育成でございました。昨年度を振り返ってみたいと思います。
 1についてでございます。推進会議の本会議では「研究員の人材育成」について協議し,ブロック全体で人材育成を図る必要がある等のコンセンサスを得ました。しかし,ブロックの具体的な研究戦略等を検討する「部会」は,海洋環境関係が水産場長会賞を共同で頂いた他は,未だ,活動は不十分と考えています。
 次に,情報発信等です。これには,a所を知る,b所の業務を知る,c研究成果を知る,d所の利用の仕方を知る,等の段階があります。一般公開はaとbで,子供達に科学の面白さや興味を持ってもらうことです。昨年,初めて八戸で実施し凡そ500名が参加されました。本所でも約400名,佐藤塩竃市長さんも参加され,楽しんでいただきました。一般公開で判ったことは,漁業や水産業を標榜する街である塩竃・八戸の両方とも,大半が当所の存在や業務内容を知らないことでした。水産関係者向けにcとdの役割である「研究のあらまし」を発刊し,ブロックの水試等の全研究職員,行政,全漁協等に配布しました。難しいとのご意見もありましたが,研究内容,その研究がどこに繋がるのかが理解出来たとの評価をいただきました。私は「研究のあらまし」は地域と水研を繋ぐものであると考えており,平成17年版(2号)を発行したところです。
 2についてでございます。中身的には,健康増進法に基づく「分煙」対策,外国出張者に対する国際携帯電話の携帯,宮城沖地震対策等への対策です。前二つは実施出来ました。しかし,地震対策は,本棚等の転倒防止には本部からのご支援があり進んでいますが,耐震診断等,多くが課題として残っています。コスト関係では,水道光熱費や電話等の削減等が若干ですが進み,従来からの経常的な外部委託関係業務等にはメスを入れかけたところです。これらにつきましては,ひき続き検討したいと思います。
 3についてでございます。人材育成については,セミナーの実施,業務としてはラインの重視と各部課長等の指導性の発揮,研究職員業績評価と昇格関係の統一的対応等を指導してきたところです。セミナーについては,海洋環境部が日常的に実施し,海区部も何回か開きましたが,八戸支所はまだまだです。部課長等の指導性という点についても,重要な課題として残されています。
 次いで,17年度の方針でございます。期末を迎え,中期計画の達成のための貢献は勿論,次のことを方針化しました。第一は,ブロックの推進会議,特に,「部会」の強化です。地域の漁業や加工業等が非常に厳しい情勢にあり,地域の崩壊に繋がる可能性もあります。所では,地域の水産業を元気にする,地域に後継者を残すにはどうしたら良いのか等,私達の原点に戻り,議論をしているところです。これらの議論は次期の計画作成に重要で,地域の活性化に向けた中核機関として何をするかの視点からも重要です。所内に留まらず,今後,ブロックの水試等の皆さんとも議論をしていきたいと思います。これらの機能を担うのは推進会議とその「部会」であります。昨年に提起させていただいた推進会議の「部会」とブロック場長連絡会議分科会の統合を含め,ブロックの試験研究機関間の研究内容の相互理解を深め,ブロックの問題解決のための戦略が立て得るようにするために,「部会」の活性化・強化を図り,ブロックの課題に関して予算化に向けて積極的に取り組みたいと思います。この作業は人と人とを結び,共通の問題意識の形成ができ,人の成長を促す重要な役割を持つと考えていますし,これこそがブロックでの人材育成のひとつであると思います。
 第2は,部課長が先頭に立ち自ら考え,迅速対応するようにすることです。しばしば,議論の先送り,会議のための会議等が見られます。これのために,ラインを重視し,部課長会議,部課会等をはじめ,ひとつひとつの会議の重視,重要な事項の事前相談,起案文書等のきちんとした書類作成等が重要であると思います。この中で,コミュニケーションを大事にし,計画的で合理的な所運営を図り,超勤等をも減らしていきたいと思います。
 今年の方針は以上ですが,「言うがやさし」で,実際は,所員を始め,ブロックの皆様方のご協力・ご支援が必要であると考えています。今年も,ご支援・ご協力を宜しくお願いするところです。
(所長 中野 広)

[企画連絡室]
広報・普及活動とブロック内研究連携の強化


【平成16年度の活動総括】
 東北水研における平成16年度の総研究課題数は45で,内一般研究10課題,プロジェクト研究13課題,受託事業18課題,その他4課題でした。その他の中には,国際共同研究が1課題含まれています。研究業績としては,学会誌等掲載論文48編,その他報告書40編,口頭発表92題(内国際発表23題)と活発な成果の発信を行いました。また,共同研究12件,協同研究14件と他の試験研究機関とも連携を強めるなど,中期計画に沿って着実に業務を達成しています。
 平成16年度の企画連絡室の業務は,広報活動の強化を中心に次のとおり行われました。
 1.文書管理:約200件を受付処理しました。
 なお,処理状況は職員専用ホームページに掲載しました。
 2.広報・普及活動
 1東北水研ニュース:第67号(16年8月)と第68号(平成17年1月)を発行しました。2一般公開:平成16年8月29日に塩竃庁舎と若鷹丸を一般公開し,約400名の参加者がありました。3プレス発表及び取材への対応:北西太平洋サンマ長期漁況海況予報会議のプレス発表,カキの原産地識別開発技術研究についての放送局,新聞社からの取材など,主なもので計7件の取材・発表がありました。4見学者・訪問者:松島町立松島第三小学校の若鷹丸見学,韓国国立江陵大学校の訪問などがありました。5シンポジウム等への出展:アグリビジネス創出産学官シンポジウムおよび「みやぎ産学官研究成果発表会」に参加し,それぞれパネル展示・資料配付を行いました。6その他の広報・普及活動:所の研究内容を課題ごとに整理した「研究のあらまし」を作成・配布,要覧簡易版を作成・配布,庁舎ロビーに情報コーナーを設置,庁舎にパネル展示用レールを設置等を行いました。
 3.連携・協力の推進
 宮城県水産研究開発センター,気仙沼水産試験場と研究協力協定を,岩手県水産技術センターと包括的共同研究契約を締結しました。また,マリンピア松島水族館および八戸市水産科学館(マリエント)と業務協力協定を締結しました。他に,幾つかの大学と共同研究契約を締結しました。
 4.図書・情報活動
 文献複写依頼・受付約550件,相互貸借依頼・受付51件,図書雑誌のシステム入力件数約8,000件,製本処理約1,300件及び図書・資料受入約2,800件などでした。なお,ホームページアクセス件数は平成17年3月末現在で約29万件(1997年3月21日からの総数)になりました。

【平成17年度の方針】
所内外との連絡・調整や広報活動などの業務が一層円滑に進むよう努めます。
 1 ブロック内企画部門の連携活動強化:ブロック内試験研究機関の企画部門での協議等により,推進会議部会及び分科会等の活動の強化,ブロック内関係機関との連携の強化等運営の改善に努めます。
 2 ホームページ:体裁や内容等工夫し,具体的な改善を図ります。
 3 水研ニュース:読者へのアンケート等を実施し,より読みやすい体裁と内容に改善します。
 4 積極的な広報・普及活動:研究業務の成果を紹介する「研究のあらまし」の作成配布を昨年に引き続いて行い,読者の希望を取るなど,一層の改善に努めます。
 5 庁舎ロビーのパネル展示等:広報パネルのより良い掲示方法を検討します。
 6 一般公開:より多くの方々に参加して頂けるよう周知方法や開催方法を検討します。
 7 文書管理・図書管理等:従来通り円滑な運営を心がけ,総務課との一層の調整を図ります。
 8 研究企画調整:プロジェクト研究への応募,共同研究契約等の事務処理や所内外との調整が円滑に行われるように支援します。
 9 所内各種委員会:円滑な運営が行われるように務めます。      
(企画連絡室長 内田 卓志)

[混合域海洋環境部]
次期中期計画における海洋生態系研究の計画検討

 
【平成16年度の活動総括】
 海洋動態,生物環境,高次生産の3研究室が,一丸となって「生態系の構造と機能およびその動態の解明」の研究を推進しました。一般研究課題に加え,国際共同研究,所内プロ研,交付金プロ研,技術会議委託プロ研,環境省地球環境総合研究など8つのプロ研の主担当課題と3つの副担当課題,及び5つの水産庁委託事業課題を担当しました。研究員数に対して課題数が多いという問題はありますが,外部資金の割合が高い当部では避けて通れないと共通認識しています。特に,当部が全体の推進責任を負う技会「深層生態系」,交付金プロ研「海況予測モデル」,環境省「動物プランクトン」,及び技会「温暖化モニタリング」を重点的に進めました。結果として,Nature,Progress in Oceanography,Fisheries Oceanography,Journal of Oceanography等の学術雑誌に35編の原著論文を発表するなど予想以上の成果を上げることができ,成果のとりまとめは順調に進んだと判断します。特筆すべき成果として,海洋動態研究室が「統計的水温予測手法の開発と漁海況情報の高度化」で全国水産試験場長会賞,海洋動態研究室の研究員が,「黒潮-親潮前線間域における北太平洋中層水起源水の分布と循環の解明に関する研究」で日本海洋学会岡田賞を受賞しました。
 研究課題の進捗状況の点検は,日常的な情報交換を主体に進めました。具体的には,週に1度,可能な限り部内全研究員の情報交換会,月に1〜2回の海洋環境コロキウム,週に1度の「海洋循環と気候」セミナーを開催し,アカデミックな研究環境の醸成や壁を取り外した研究室間の情報交換に役立てました。2月の研究評価部会は運営上はうまく進行しましたが,「評価」という言葉にとらわれすぎて,課題点の実質論議が不十分であったのが反省点です。
 調査船調査は,部の重要事項として3研究室が共同して取り組みました。親潮・混合域を縦断するモニタリング観測線であるA-line観測をプロ研や一般研究課題の基盤と位置付け,物理・化学・生物の総合観測として維持・強化するとともに,大学等の他機関にも広く開放し,共通プラットフォームとして活用しました。また,2002年秋以降不調であった若鷹丸のADCPが2005年1月に水研本部の支援もあり再装備され,今後の活用が期待されます。モニタリングの重要性の共通理解はあるが,スケジュールや人員確保にかなりハードな状況は改善できていません。
 部の研究活動を維持し新たな研究展開を図るため,積極的に外部資金の獲得にチャレンジしました。特にH17年度科研費への応募を指導し,5件の課題(うち代表3件)を応募しました。各研究員が広い視野をも外部資金獲得の力量を培う必要があるため,学会や委員会活動を積極的に支援しました。しかし,特定の中堅研究者に集中しているのが現状であり,若手研究員の研究企画力の育成が重要な課題です。
 限られた人員で効率的な部の運営に努めました。2名の長期在外研究員とはメール等による密な連絡をとり,5名の特別研究員を含めた相互間協力で研究活性を維持しました。出張や乗船が多いため,定型的な報告や事務的連絡は,できる限りメールや共通サーバーを活用してペーパーレスを進めました。部内の共通サーバーの機能強化とその利用が効率的でした。良い研究環境を提供し良い人材を確保する観点から特別研究員の研究環境改善に努めたが,奨学金の免除職認定には至っておらず,特別研究員の待遇改善と将来確保が今後の課題です。また,報告書や評価資料等の省力・効率的作成に努めるとともに,所を上げて課題評価資料の書式改善のための意見を上げましたが,課題評価資料の煩雑さ等まだまだ問題が残っています。概して限られた人員により効率的な部の運営が行われたと判断します。

【平成17年度の方針】
 平成17年度においても,「生態系の構造と機能およびその動態の解明」をキーワードとし,我が国周辺海域および混合域(黒潮-親潮前線間域)において生態系を考慮した持続的かつ効率的な漁業生産を行うための施策検討に役立つ生態系研究を推進します。主として回遊性多獲性浮魚類の環境を対象とし,従として地域沿岸重要種の環境を取り扱います。調査船調査を大きな武器とし,広く共同研究等による連携推進を行います。部全体として,生態系研究拠点を目指し,部や研究室の効率的な運営を模索していきます。
 平成17年度に取り組む研究課題の内容や数は,前年度と大きく変わりません。プロ研課題については,「深層生態系」,「海況予測モデル」,「動物プランクトン」,及び「温暖化モニタリング」を重点的に取り組んでいきます。一般研究課題は,中期計画の終期に当たるため,5年間の成果と問題点のとりまとめを進めていきます。このとりまとめと平行して,次期中期計画の推進のために,一般研究として「北西太平洋の表層水塊の形成過程」,「低次生態系の構造・機能・環境変動に対する応答」,「外洋域におけるオキアミ類の海洋生態系における役割」に焦点を当て,5年間の計画を検討するとともに,交付金プロ研として,「海洋生態系のもつ多面的機能の評価」の立案を検討します。さらに,総合科学技術会議の第3期科学技術基本計画を見据えつつ,17年度で終了する「温暖化」プロ研や18年度で終了する「海洋生物」プロ研の後継課題の立案を進めること,海況予測モデルプロ研の成果を踏まえ事業化に向けた方向性とデータ流通管理に関する水研・水試内の合意形成を図ることが重要な取り組みであると考えます。
 研究課題の進捗状況の点検は,引き続き日常的な情報交換で進めていきます。具体的には,コロキウム,セミナー,中間検討を活発化させるとともに,週に1度は顔をつきあわせて状況報告を行いつつ,意見交換や問題解決策の検討を日常的に行うことが重要と考えます。研究評価部会の進め方については,「特別な評価の場」という意識を払拭し,課題点の実質論議の場となるよう再検討を行います。同時に,中期計画の最終年度であるため,成果や残された課題のとりまとめ方法について,研究室長ともに工夫を検討していきます。成果の公表は論文を第一とし,得られた成果の一般への広報に努力します。
 調査船調査は,北水研と共同してモニタリングを進めている年4回のA-line観測を維持しつつ,北西太平洋の表層水塊の形成過程を解析するための観測データ収集,低次生物生産過程,中深層性生物の生態に関する観測研究を行います。調査船の共通プラットフォーム化によって得られる研究情報の拡大のメリットは大きいため,今後も引き続きこの方針を継続します。
 東北ブロックにおける研究活動は,現体制の維持・強化を図るとともに,生態系研究や環境変動研究における連携の場を模索していきます。既存の海況解析グループにおいては,「資源管理に必要な情報提供」事業の交付金化による予算の流れの変化に関わらず,海況情報の流通や予報作成における連携を維持・強化する方策を検討します。共通の課題である,海洋観測網に関する国と県の役割についての共通理解形成が不可欠です。動物プランクトンや仙台湾ヒラメグループにおいては,単なる情報交換や試料交換で終わらず,お互いの業務上のニーズを理解し合った上での連携を進める必要があります。これら既存の研究グループの連携については,ブロック推進会議や事業連絡会議を通じて,地域の課題実態の把握や情報交換ラインの確保を図っていきます。さらに,沿岸資源の変動機構解明,生態系の多面的機能評価,外来種移入による生態系の攪乱,環境変動に伴う生態系構造の変化等の課題の検討を進めるためには,各県水産試験研究機関,大学,他独法との連携が不可欠であり,地道な情報交換から取り組んでいきます。今秋には仙台で日本海洋学会秋季大会が開催される。部一丸となり東北大学と共同して大会運営に当たっていきます。
 平成17年度は,フルメンバー(研究員9名,特別研究員6名,パート5名の総計20名)で,さらなる効率的な部の運営を目指していきます。特別研究員が部の研究活性を高めるという共通理解は形成されているため,引き続き待遇改善のための努力を行います。室長等の中堅研究者に業務が集中しないよう,若手研究員に首席調査員や所内委員等のとりまとめ役を積極的に務めるよう指導します。また,科研費への応募など外部資金獲得のためのチャレンジを推奨することにより,若手研究員の研究企画力の育成を進めていきます。既に構築された電子媒体による連絡や意見交換の一層の迅速化を図るとともに,引き続き報告書や評価資料等の省力・効率的作成に努め,様式の簡略化・効率化の提案を行っていきます。
 関係各位のご指導,ご協力をお願いします。
(混合域海洋環境部長 平井 光行)

[海区水産業研究部]
特色ある地域水産業の持続的発展への貢献

 
【平成16年度の活動総括】
 新たに,ヒラメの資源変動要因の解明,全国に分布するアマモの遺伝的な多様性の解析に関する委託調査課題を開始し,15年度より6つ多い24の調査研究課題に,資源培養,沿岸資源及び海区産業の3研究室が一丸となって取り組みました。スタッフは,沿岸資源研究室に主任研究官1名が補充され,また沿岸資源及び資源培養研究室に特別研究員を各1名採用し,より充実しました。
 主な研究成果としては,マガキ養殖場の餌料環境の動態把握を進め微小動物プランクトンも餌料に利用されているを示したこと,エゾアワビ稚貝に対して餌料価値の高い珪藻種を明らかにしたこと,ヒラメ着底魚の成長率と着底時期を耳石から推定する方法を見出したこと,国内及び韓国産マガキの遺伝的差異を明らかにしDNA検査による産地識別の可能性を示したこと,日本各地のワカメの系統関係をミトコンドリアDNA解析により明らかにしたこと,ホタテガイの下痢性貝毒成分の蓄積特性を各毒成分の投与実験により検証したこと,各種二枚貝の下痢性貝毒組成データを蓄積し開発中の貝毒簡易測定キットの信頼性を確認したこと,等があげられます。
 研究成果の社会への還元は,学会誌等への20編以上の発表にとどまらず,研究成果集の発行,産学官が集う成果発表会への出展など,多角的に行いました。そのなかで,マガキの産地識別に有効なDNAマーカーの開発は,新聞,テレビで報道され大きな反響があり,実用化への期待が高まりました。
 関係機関との研究協力・交流による研究の効率的実施に努め,5つの水産試験場と,マガキ養殖場の餌料環境の解明,エゾアワビの初期生態の解明,藻場分布の把握,貝毒モニタリング等に関する計8課題の,3つの大学とヒラメの系群構造の解明,エゾアワビの資源量変動要因の解明,藻場回復技術開発に関する3課題の共同研究を実施しました。また,部内の研究ゼミを再開して7回開催し,部内外の研究の相互交流と研究の活性化を図りました。若手研究者が応募した平成17年度科学研究費補助金申請課題が採択されたことも皆への刺激になりました。
 2月に行われた調査研究課題の評価会議では,外部委員から,切磋琢磨の様子が感じられる,昨年と比べより地域や現場に接近した成果が出ているなどの評価とともに,研究結果を現場へどのように還元するのか具体的な視野を持って研究を進めてほしいなどの貴重なご意見をいただきました。一人ひとりが16年度の活動を振り返り,17年度の取り組み方に思いを巡らせたことと思います。
 
【平成17年度の方針】
 ブロックの研究拠点として,関係機関との連携・協力のもと,ブロックの状況の把握とブロックの沿岸漁業,増養殖業における諸問題の解決に向けた研究の実施に努めます。研究の推進方向としては,沿岸の生態系,生物多様性を把握した上でそれらの管理方策を提案することを中心に考えています。
 17年度は,2つの新規課題を含め20の調査研究課題に取り組みます。継続課題では,ブロック水産業の現況を見据えながら,常に出口を意識して研究を進めます。新規課題「DNAマーカーによるマガキの産地識別」では,産地偽装問題の解決に貢献すべく,宮城県,広島県の協力を得て2年計画でその確立を目指します。研究成果は,学界発表だけでなく,さまざまな機会をとらえて広くわかりやすく公表することに努めます。
 ブロック推進会議の海区水産業部会,2つの分科会,大型海藻研究連絡会等を通じ,ニーズの把握に努め,ブロックに必要な事項を明らかにします。また,諸問題の解決のための研究課題化,チーム作りや研究資金の獲得のための取り組みを強めていきます。マガキのノロウイルス浄化対策に関しては,情報交換会を開催する方向で検討します。
 共同研究による研究交流と研究の効率化を一層進めるとともに,共同研究のより実質的な発展を目指します。また,技術移転を進めるため,貝毒分析,DNA解析等,各種の技術研修に応えて参りましたが,耳石解析等も加え今後も積極的に研修者を受け入れます。
 一人ひとりが高い目標を持ち,内外の研究者と協力しあって課題に取り組んでいきたいと思っております。今後とも,皆様のご指導,ご協力をお願いいたします。
(海区水産業研究部長 佐古 浩)

[八戸支所]
資源研究の一層の深化と世界に向けた成果の発信をめざす

 
【平成16年度の活動総括】
 八戸支所では東北ブロック海域における主要水産資源(浮魚と底魚)の永続的利用を図るために,資源調査および評価を行っています。浮魚に関しては,一般研究,水産庁委託事業,資源動向要因調査を通して,中層トロールと新規に開発した幼魚ネットによる調査により,サンマの幼魚・ジャミ・小型魚が北太平洋の東西に広く分布することを明らかにするとともに,サンマ太平洋北西部系群の資源評価を行い,わが国沿岸から西経165度までのサンマの資源量は約466万トンと推定し,未利用の膨大な量のサンマが沖合域に生息することを明らかにしました。また6〜7月に採集したサンマ当歳魚の耳石輪紋を観察しふ化時期は前年7月〜翌年4月に及ぶこと,サンマの筋肉中トリグリセリドの分析を通して,本種が他の浮魚類よりも餌環境が良好な親潮域を早く利用することを見出しました。カタクチイワシでは,中層トロールの漁獲効率を推定し,これを基に北西太平洋海域の現存量を試験的に推定するとともに,スルメイカの資源調査を実施しました。
 一方,底魚研究においては,一般研究,水産庁委託事業,プロジェクト研究,漁場生産力変動評価・予測調査を通して,ズワイガニ,マダラ,キチジ,サメガレイ,ヤナギムシガレイ,イトヒキダラ,キアンコウの7魚種について資源評価を行うとともに,スケトウダラについても調査・分析を行いました。特にズワイガニでは資源評価精度向上を図るため,金華山〜日立沖で若鷹丸による底魚類資源量調査に本種を組み込んで実施しました。東北海域における底魚類の優先31種の資源量をトロール調査により春季18万トン,秋季37万トン,それら主要種による餌生物消費量を春46万トン,秋85万トンと推定しました。この餌生物は表層由来の種が85%を占め,底層域における表層由来の餌生物の重要性を示しました。キチジを対象に耳石を用いて年齢査定を行い,各年級群の成長パターン,各年齢における資源尾数と体長の関係を調べ,加入が良い1999年級以降では資源尾数が多くなると成長が悪くなる関係を見出しました。さらにヤナギムシガレイの生殖腺の組織学的観察を行い,その発達様式や産卵期を明らかにしました。
 サンマの漁況予報に関して,当初予想したエトロフ島沖に漁期初めの漁場は形成されませんでしたが,概ね予測に沿った形で漁況は推移しました。
 10月11日に隣接する八戸市水産科学館の無料開放にあわせて,一般市民への支所公開を初めて実施しました。調査機材や東北近海の魚類標本の展示に加えて,写真パネル展示,調査風景のビデオ上映,インターネット体験コーナーなどを設けました。515名もの市民が支所を訪問してくださり,八戸支所の試験研究を知っていただく良い機会となりました。

【平成17年度の方針】
 浮魚研究では,まずサンマに関して,耳石透明帯と日周輪から得られた最新情報と従来の知見に基づき,本種の生活史に関する総合的な取りまとめ行う予定です。中層トロールによってサンマの資源量をモニタリングするとともに,中層トロールの漁獲効率の推定を他機関と共同で行い,データがほとんどない冬季に分布調査を実施する予定です。また厚岸栽培漁業センターに協力して採卵を成功させて飼育を軌道に乗せ,硬組織による成長・ふ化時期研究では2001〜2004年の当歳魚の成長を比較し,輪紋の間隔から成長パターンを推定するために必要な知見を集積する予定です。また胃内容物・餌環境調査では,漁期前に標本を確保し,摂餌に関するデータの充実を計る意向です。さらに,捕食者に関する総合的レビューを作成するとともに,瀬戸内水研と共同して小型浮魚類や大型の動物プランクトンなどに捕食されているサンマ稚仔を検出する技術開発を行う予定です。またマサバやマイワシの当歳魚・1歳魚の加入量水準の把握を行い,カタクチイワシでは北西太平洋海域の資源量を推定するとともに,スルメイカの来遊量に関して更に資料を収集する計画です。
 底魚研究では,前記7魚種を対象に着底トロールによる資源量推定調査を行うとともに,東北海域におけるズワイガニの脱皮時期の推定を試みる予定です。タラ類を対象に実験で求めた摂餌量と成長の関係を自然条件下に応用して摂餌量推定を試み,同所的に生息するオキアミ食者の資源量・摂餌量の年変化を調べ,海洋の餌生物環境がタラ類の生活史に与える影響を明らかにする予定です。またマダラの繁殖生態の年変動を調べ,トロール調査やコホート解析を用いて資源量を求めて産卵数の変動を明らかにする計画です。加えて,キチジの年齢別漁獲尾数データを用いて再生産関係の有無,再生産成功率を明らかにし,加入量および資源量変動の特徴を明らかにするほか,小型で小目合いのネットを用いて冬季にキチジ稚魚の採集を試みる予定です。
 サンマの漁況予報に関して,近年実施してきた中層トロールによる資源量推定の精度を高めることにより,来遊資源量や漁獲される魚体サイズの予報精度を一層向上させる意向です。
 今年度も一般市民に向けた支所公開を10月10日に計画しています。サンマやスルメイカなどの浮魚類,タラ類やキチジなどの底魚類に関する試験研究の成果を昨年度よりも更に分かりやすい形で市民に提供できればと考えております。
 以上の調査・広報活動のほか,今年度は,科学論文のより多くの出版を支所研究職員の目標としたいと思います。これまでも国内の学会誌等に成果を発表してきましたが,八戸支所が所有するデータは世界的にもみてもとても貴重です。このため,国内のみならず国外の科学雑誌に積極的に投稿することにより,多くの重要な成果を世界に向けて発信したいと考えています。
 今後とも,皆さまのご支援とご協力をどうかよろしくお願い致します。
(八戸支所長 長澤和也)

 
[総務課]
事務の仕事も経営感覚を

   
【平成16年度の総括】
 独法へ移行して4年目,中期計画と所の運営方針等に基づき職員の安全・安心な職場環境の確保及びコストを意識した効率的な業務の運営に努めました。メールの利用による電話・郵便料の節減,文書の点検と迅速な処理及び分煙対策,海外専用電話の購入をはじめ業務の遂行上必要な経費は確保し,一定の改善を行うことができたと思っています(主な事項は以下のとおり)。
 1 予算面では ,光熱水料の節約は今ひとつでしたが,物品購入は一括発注(まとめ買い)に努め,効率的に使用しました。
 2 文書類については企連室及び支所と連携し,接受から配布・施行までの迅速な処理及び起案文書の点検による文面の改善を図りました。
 3 職員の安全衛生面では,安全衛生委員会の開催及び産業医の指導・助言のほか情報資料の配布等を行いました。また,所内レクを通して職員の親睦と元気回復を図りました。
 4 海外出張時の安心・安全対策として国際専用携帯電話を常備し,出張者へ貸与することとしました(8月)。
 5 健康増進法に基づく受動喫煙防止(完全分煙)として,安全衛生委員会及び施設・機械整備委員会合同で検討し庁舎内全面禁煙を実施しました(6月)。
 なお,支所では15年11月に分煙措置済みです。
 6 セキュリティ対策面では長期来所者を含め全職員の名札着用を実施しました(6月)。支所では夜間・休日のセキュリティ対策として機械施錠を導入しました(5月)。
 7 玄関ロビー及び休養室等庁舎内の整備について,企画連絡室と連携し,パネル等常設展示ができるように,また休養室の壁・畳等を改修するなど室内環境を改善しました。
 8 庁舎の利用の現状把握と今後の効率的使用等に関するWG(略称:庁舎見直しWG)における検討について,所内のエネルギーコスト,地震対策及び作業の安全衛生上等の面から,居室・実験室等の整理整頓と効率的使用について,半年〜1年を目途に現状把握と当面の課題や中長期的な問題点の整理をすることとなり,10月に第1回WGを行って現状把握の取りまとめ方法などを検討しました。
 9 人材育成の一環として,業務に必要な危険物取扱者2名及び化学物質管理者講習1名の資格取得がありました。
 10 ホームページ(所内専用)及びネットワークの活用により,各種手続き・届出書類の様式,文書の登録,予算の配分・執行状況,旅費の支払(振込)状況等を掲載することによる周知と共有化を図り,事務の効率化及び経費の節約に努めました。
 
【平成17年度の方針】
 (1)課長・係長・係員のラインによる運営を基本に,課会等で周知伝達を行い,企画連絡室及び支所総務係とも日常的に連絡調整を図ります。
 (2)光熱水料等の節約,施設・設備の保守点検等委託業務の見直しを行うなど効率的な調達を図ります。なお,業務上必要な経費は確保するなど,少ない経費で多くの成果が上がるよう努めます。
 (3)安全衛生委員会及び産業医の健康管理相談等による職員のメンタル・健康管理面と日常のコミュニケーションを促進します。また,実験室等の作業環境の改善,庁舎の耐震診断,書庫類の転倒防止,非常時用品の整備など安心・安全面での対策を図ります。
 (4)分散・老朽化したプレハブ倉庫類,機械設備等の計画的な改修等を図り,庁舎見直しWGにおいては利用の現状等の取りまとめを行います。
 (5)少人数稼働船である若鷹丸の機器設備類の保守・修繕等について,船及び関係部署(調査船運航委員会を含む)で年次計画的な整備について検討します。
 (6)文書類の接受・施行など引き続き企画連絡室と仕分けを図ります。また,ネットワーク等を活用し,センター規程,関係規則,各種制度・届け出様式の周知を行って利便性に努め,事務効率化を図ります。
 (7)業務上必要な資格の取得及び各種業務研修への参加機会の配慮を行います。
 (8)所の運営に係る所内運営要領に基づく各種規程・要領等の改訂について,企画連絡室ほか関係部署と連携して整備を行います。
 今後ともご支援とご協力方,よろしくお願いします。
(総務課長 瀬川 幸人)

 
[若鷹丸]
調査観測の遂行,それに関連するマネージメントへの努力

 
【平成16年度の活動総括】
 1.若鷹丸は,船長ほか,甲板部8名,機関部6名,無線部1名,司厨部2名,計18名で運航に携わっております。
 2.当年度での調査航海は12航海に渡って実施し,その結果,総航海日数は173日,総航程は13,000マイル余に及び,燃料は約667KLを消費しました。これらの航海を調査名別に次に示しました。
 a 親潮・混合域低次生態系モニタリング及びプロジェクト“深層生態系”研究調査
 b カレイ類分布調査
 c ヒラメ卵・仔稚魚調査
 d マダラ0歳魚新規加入量調査
 e 深海域底魚類資源調査
 f 親潮・混合域低次生態系モニタリング及びプロジェクト“深層生態系”研究調査
 g ヒラメ卵・仔稚魚調査
 h キチジ0歳魚分布調査
 i 親潮・混合域低次生態系モニタリング及びプロジェクト“深層生態系”研究調査
 j 東北海区の底魚類資源量調査
 k ADCP(超音波式多層流速計)及び稚魚網(LC-2)トライアル
 l プロジェクト“深層生態系”研究調査
 航海によっては天候不順や破網事故等に起因して,いくつかの調査点,或いは調査項目を減じざるを得ない場合もありましたが,全体としては調査の所期の目的を概ね達成することができました。
 3.この他,12月から1月にかけて37日間のドック工事(一般修繕工事及び機関分割検査受検工事)を行いました。その中で大きな工事としては,水産総合研究センター本部のご尽力により,故障により使用不能であったADCPの換装工事ができたことが上げられます。平成16年度の運航日数は,航海日数と合わせて210日になります。
 4.停泊中の3月には,8000mウィンチ用ケーブルとMOCNESS(環境センサー付き多段開閉ネット)ウィンチ用ケーブル(4000m)を新替することができました。そして無線部においては,27MHzの送受信機を新規に導入しました。これによって操業中の漁船等との交信が一層容易になります。また,ここ数年来の懸案事項であった陸電用高圧電線の埋設工事を実施することができました。
 5.一般公開は8月に実施しました。また,この他に数回に渡って見学や視察をして頂きました。
 
【平成17年度の方針】
 1.本年度の運航計画は昨年度とよく似た内容になっていますが,業務遂行に当たっては,航海中,停泊中に係わらず安全を第一に考えて参ります。調査内容は,航海毎に大なり小なりそれぞれ異なっております。
 その運航に当たっては,気象・海象状況や調査点の経由順序を考慮することによって効率化を図り,時間的節約・燃費軽減に繋げたいと考えております。一方,調査観測作業においては,これまで同様漁獲物選別や魚体測定等,乗組員にできることには積極的に加わり,また観測方法等には創意工夫を懲らすことにより調査に協力し,貢献度を高めたいと考えております。
 2.広報活動は水研センターの指導のもとに積極的に参画します。一般公開や見学・視察においては来船して頂く方の年齢等の層に合わせて分かりやすく説明できるよう努力して行きます。
 3.安全衛生管理:安全・健康を損なうことは本人,家族に不幸な事態をもたらすことはもとより,関係者に迷惑をかけ,調査の遂行に支障を来すことになります。
 このためには,健康診断の結果に充分な対応するよう促進します。そして,受動喫煙対策を徹底し,禁煙サポートにも努力して参ります。また,地震・津波に対する警戒態勢は更に一層深めねればなりません。
 4.人材育成:昨年度は,SSO(船舶保安管理者),ワイヤロープ,玉掛け,クレーン等取り扱いの講習に参加し,乗組員の資質向上に努めましたが,本年度においても同様に行いたいと思っております。乗組員それぞれに自発的な行動を促し,調査に対する認識度をより強固にして行きます。このようなことにより,後進者に対する教育能力が更に高まるものと考えております。
 5.以上申し上げましたとおり,本年度においても効率化,合理化を図り,調査の完遂,経費節減に努めてまいります。これまでの本船の運航に当たりましては深甚なる感謝を申し上げますと共に,今後も皆様のご指導,ご協力をよろしくお願い致します。
(若鷹丸船長 船戸 健次)