【研究情報】

先端技術を活用した農林水産研究高度化事業「現場即応型貝毒検出技術と安全な貝毒モニタリング体制の開発」(平成15〜18年度)

鈴木敏之


 最近,食の安全・安心への関心が高まる中,貝毒問題に対する消費者や漁業者・食品生産者の関心も高まりをみせています。また,漁業者・食品生産者サイドから貝毒の簡易測定キットの開発を望む声が出てくるようになりました。さらに,最近,欧州連合(EU)では,下痢性貝毒について,個別に基準値を設ける新規制基準を採択し,ヒトに対する顕著な毒性が認められないエッソトキシン群に対する規制緩和に向けて動き出しました。二枚貝の毒力検査は,厚生労働省が定めた公定法に基づいて実施されています。公定法は,生きたマウスの腹腔内に貝の抽出液を投与し,マウスの生死や死亡時間で毒力を判定するマウス腹腔内投与法(マウス毒性試験)です。マウス毒性試験は,貝毒検査において,世界的に主流となっていますが,近年,欧米諸国では生きた動物を使用する動物試験を可能な限り制限しようとする動きが広がっています。また,マウス毒性試験は,貝毒以外の化合物,例えば遊離脂肪酸なども検出するため,貝毒検査法としての特異性についても問題点が指摘されています。こうしたことから,動物試験に依存しない代替検査法の開発が各国で進められるようになってきました。さらに,マウス毒性試験では,エッソトキシン群を個別に定量することが容易ではなく,新たに採択されたEUの規制基準は,代替検査法への移行を加速させる可能性があります。
 これらの動きに対応するために,「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」の課題として「現場即応型貝毒検出技術と安全な貝毒モニタリング体制の開発」が採択されました。このプロジェクト研究は東北区水産研究所を中核機関として,中央水産研究所,瀬戸内海区水産研究所,東北大学,北里大学,大阪府立公衆衛生研究所,(財)日本食品分析センター,(財)日本冷凍食品検査協会が平成15年度から3〜4年間の研究期間で取り組みます。
 主要な研究目的は,
(1)下痢性貝毒及び麻痺性貝毒を簡便かつ迅速に測定できる簡易測定キットの開発
(2)生産現場で毒化した二枚貝の毒組成等のバックグラウンドデータの蓄積
(3)簡易測定キットを利用したより安全で効果的な貝毒モニタリング体制の開発,の3点です(図1)。
 期待される波及効果として,当面,キットを用いた生産現場でのスクリーニングの導入により,より安全な二枚貝の供給と生産者及び関連試験研究機関等における貝毒モニタリングの負担軽減が期待されます。また,将来的には食品の安全性のチェックや国内公定法を見直す際の基礎的な知見を提供できるものと思います。
 本プロ研を推進するためには,国内の多くの二枚貝生産現場で毒化した貝の試料が必要になりますが,平成15年度は道府県の水試,衛研等の多くの皆様のご協力により多くの研究用試料を収集することができました。得られた実験データにつきましては,ご協力いただいた機関に研究の節目節目でお返しいたします。今後ともご協力の程,よろしくお願い申し上げます。

研究推進会議での集合写真
(海区水産業研究部海区産業研究室)