【研究情報】

第53回東北海区海洋調査技術連絡会の開催報告

筧 茂穂・伊藤進一・平井光行


 
 東北海区海洋調査技術連絡会は,東北海区において調査船を用いて海洋調査研究を行う4機関,第二管区海上保安本部,函館海洋気象台,海上自衛隊大湊地方総監部,東北区水産研究所が一同に会し,省庁を越えて,相互に技術的情報を交換し,東北海区の海洋の実態を認識し,その変化を予知するための研究発表と討議を行うものですが,その会も53回を数え,平成15年度は東北区水産研究所の幹事にて開催しました。
 会議は平成16年1月22-23日に,東北区水産研究所会議室にて開催され,本会会員である函館海洋気象台,第二管区海上保安本部海洋情報部,海上自衛隊大湊地方総監部防衛部,東北区水産研究所の他にも,仙台管区気象台,海上保安庁海洋情報部,海上自衛隊横須賀地方総監部,青森県水産総合研究センター,岩手県水産技術センター,宮城県水産研究開発センター,福島県水産試験場,東京大学海洋研究所,漁業情報サービスセンターなどから計28名の参加がありました。
 冒頭,東北区水産研究所長中野広の挨拶において,東北海区海洋調査技術連絡会の発祥が紹介されました。それによると,53年間の歴史以前に,当該4機関の共同作業の実施が農商務省水産局の中心的な働きかけによって,明治42年度に実施が決定され,明治43年度から実施された「漁業基本調査」が本会の基本となっています。当時は,「内輪の経費と船舶をやりくりして,帝国大学,中央気象台,水路部(昔の海軍水路部),地方水試,水産講習所が連絡し調査方法を決めた」そうです。また,三宅泰雄先生の記述によれば,この調査は「多数の調査船を用い,組織的,計画的に大規模な海洋調査を行ったことは外国にも例が無く,漁業の調査のためであったが,副産物として黒潮,親潮等の構造,日本海における海流の模様等が明らかになり,海洋学に大きく貢献した」と記されています。このように長い歴史の中で,海洋調査関係機関として連携を図ってきた東北海区海洋調査技術連絡会のネットワークを活かして,現在も有益な情報交換,協力体制が敷かれています。
 第53回の連絡会では,平成15年度に東北海区で行われた4省庁による海洋調査の概要・観測結果の報告がまずなされ,親潮第1分枝の南下が春以降強まり,そこから波及する冷水域の影響などを受けて,東北海区が低温傾向にあったことが報告されました。
 続いて,海洋調査関係機関による調査・研究発表が11件行われました。この中では,予測手法の開発として,第二管区海上保安本部から沿岸域の流速場の精密観測による流況パターン解析とその結果を利用した漂流予測モデルの開発の紹介,福島県水産試験場,宮城県水産研究開発センター,東北区水産研究所の共同研究として開発した経験的水温予測モデルの予測精度に関する報告が行われました。
 終了したプロジェクトの研究成果として,東北区水産研究所が事務局となり,気象庁,海上保安庁,大学,海洋科学技術研究センター,水産総合研究センター等が参画した科学技術振興調整費「亜寒帯プロジェクト(SAGE)」の研究成果が紹介されました。その他,函館海洋気象台PH線での長期動物プランクトンデータ解析結果や,日本海洋データセンターにおける海洋データ整備状況などが報告されました。
 また,農林水産技術会議委託プロジェクト研究「モデル・データベース協調システムの開発」の中で開発したインターネットを通じた海況情報提供システムが漁業情報サービスセンターと東北区水産研究所から行われるとともに,水産総合研究センター交付金プロジェクト研究として東北区水産研究所を主査場所として実施する海洋予測モデル開発の構想について報告されました。
 最後に,平成16年度の海洋調査計画について4機関から計画を報告し,討議しました。その中で,41°30′N付近の観測を函館海洋気象台,海上自衛隊大湊地方総監部,青森県水産総合研究センターが同時期に行う予定であったため,討議を行い,観測が重複する月は担当者間で連絡を取り,観測旬をずらし,できる限り効率的に観測を行うことが申し合わされました。
 このように盛りだくさんの内容が報告・討議され,東北海区での海洋調査関係機関の活動度の高さが再認識できましたが,同時に相互の協力体制を再点検し,より効率的かつ有益な海洋調査研究を進めていく重要性を改めて感じました。当日は,東北ブロックにおける海況への関心が高いこともあり,報道関係者の取材も受け,テレビ,新聞による報道もされました。
 次回は海上自衛隊大湊地方総監部防衛部が幹事となりますが,今後とも,地域の期待に応えつつ,日本および世界の海洋研究ニーズに応えられる調査研究を,4機関協力のもとで推進して行きたいと考えています。
 最後になりましたが,会議にご参加,ご協力して頂いた皆様に感謝の意を表します。

会議参加者全員による記念撮影
(混合域海洋環境部海洋動態研究室)