―北海道南部周辺海域で漁獲されるマダラの資源評価に関する研究―


上田 祐司


 八戸支所には,今年の7月より研究等支援職員として勤務しています。以下に私の博士論文の一部を紹介させて頂きます。


はじめに
 北海道南部周辺海域で漁獲されるマダラGadus macrocephalusでは,1990年代に入り,低レベルの漁獲量が続いていたことから,本研究では,本海域に分布するマダラの資源状態の把握し,資源の持続的利用のための管理方策を提言することを目的とした(図1)


体重ベースの資源評価モデル
 本海域で漁獲されるマダラでは,コホート解析(VPA)を適用する上で不可欠な,漁獲物の年齢組成を得るための,経時的な年齢査定が行われていない。しかし,マダラの場合には,漁協等でマダラの体重が記載された水揚伝票が保存され,これにより漁獲物の体重組成を過去にさかのぼって入手することが可能である。
 そこで,体重ベースの資源評価モデルを構築した。資源量推定モデルである,体重組成に基づくコホート解析(WPA)では,漁獲死亡係数,自然死亡係数,体重成長遷移確率を用い,今年の体重階級別資源尾数より前年の資源尾数を計算する。資源量推定に用いるデータは,年別体重階級別漁獲尾数と自然死亡係数である。WPAモデルの一部を応用することにより,資源診断に用いられる加入量あたり漁獲量と加入量あたり産卵親魚量を体重ベースで算出することが可能である(YPRW,SPRW)。
 WPAによる資源量推定精度を検討するため,コンピュータ上で作成した模擬資源を用いて資源量推定シミュレーションを行った。その結果,漁獲物のうち体重が把握できる割合(抽出率)が20%以上であれば,WPAがVPAと同等の資源量推定精度を有すると判断された。
 実際の漁獲データは,シミュレーションで想定した以外にも誤差が混入していると考えられる。そこで, 既にVPAにより資源量推定が行われている噴火湾のスケトウダラ資源にWPAを適用したところ,両方法の推定値は近く(r =0.931),ここでもWPAの妥当性が示された。


マダラ襟裳西系群の資源評価
 北海道太平洋側海域で漁獲されるマダラ(襟裳西系群)の漁獲情報から,WPAを用いて1994〜2000年の資源量推定を行い,また,推定結果を基に,YPRWおよびSPRW解析により資源診断を行った。
 マダラ襟裳西系群の資源量は,1994年が最も少なく7,300tと推定された(図2)。1995年以降は資源量が増加し,1998年には10,000tを超え,2000年の推定資源量は14,000tとなった。年度が経るにつれ小型サイズの割合が増加し,1999年および2000年では,体重階級0-1kg,1-2kgに属するマダラの割合が50%以上だった。
 YPRWおよびSPRW解析において(図3),2000年の漁獲係数Fを0.47,漁獲開始体重Wcを0.5kgとしたとき,YPRWは1.2kg/Rとなり,最適値(1.8kg/R)より低い値であった。また,%SPRWは9%となり,理想とされる値(例えば20%以上)より低いことがわかった。YPRWおよびSPRWの等量線図から,現状より漁獲係数を0.3程度まで小さくすると%SPRWは増加しても,YPRWには変化が見られないこと,一方,漁獲開始体重を3.0kg程度まで大きくすると,YPRWと%SPRWがともに増加することが明らかになった。
 以上の結果より,北海道南部周辺海域で漁獲されるマダラの生物学的見地に基づく管理方策として,漁獲係数0.3,漁獲開始体重2kgを提言する。


今後の仕事
 今後,東北海域の底魚を中心に,漁業からの情報を生かした解析で,資源評価に貢献したいと思っています。よろしくお願いします。

(東北区水産研究所特別研究員  八戸支所 資源評価研究室)

Yuji Ueda