−黒潮小蛇行の発生周期性−


鹿島 基彦


 この3月に九州大学総合理工学研究科で博士号を取得し,4月から東北水研混合域海洋環境部海洋動態研究室でお世話になっております。九州大学では四国沖の黒潮について研究を行ってきました。
 日本沿岸に沿って流れる黒潮は,日本の気候,風土,海上交通,水産業などに大きな影響を与えています。特にその流路は沿海域の水質や潮位などに大きな影響を与えるので,その性質の把握は短期的な災害対策のためにも重要です。また,地球温暖化などの地球全体の環境変化を表す指標としても重要な存在です。海洋には地上気温の均一化をはたす熱の南北輸送という役割があり,特に中緯度では海洋は大気と同程度かそれ以上に重大な役割を果たしています。海洋の中でも北太平洋の果たす役割は北大西洋と同様に大きく,北太平洋の亜熱帯循環の西端で物質や熱の北上輸送のほとんどを担っている黒潮の熱流量を推定することは重要な課題です。それに先立って黒潮の流速構造を評価することが不可欠となります。
 日本南岸の黒潮流路は,紀伊半島から銚子沖の間を大きく蛇行する大蛇行流路と岸に沿って流れる非大蛇行流路の二つに大別されます。黒潮は水産生物の卵稚仔を輸送するばかりでなく,成魚の海遊経路となっています。そのため,黒潮流路の変動は資源の加入や漁場の位置など水産業にも影響を及ぼします。これまでの研究から大蛇行の発生原因と考えられる小蛇行がトカラ海峡東で頻繁に発生し,四国沖を通過することが知られています。小蛇行による四国沖の黒潮流路変動の経年格差を調べるために,係留流速計による実測流速と比較検証して,衛星海面高度計などから約9年間の黒潮流軸位置を推定しました。この流軸位置時系列に,各時刻における変動周期帯の強さがわかるウェーブレット解析を施すと,小蛇行発生には周期性があり,更に約110日周期もしくは約150日周期のどちらかで変動していることがわかりました(図1)
 黒潮続流から分離した低気圧性の中規模渦,もしくは続流域付近や伊豆海嶺などの海底地形の影響から発生した中規模渦が,ロスビー波として西進し,トカラ海峡東や沖縄南方で黒潮に合流して小蛇行発生の原因になると考えられています。伊豆海嶺を境にそれ以西と以東において,110日,150日の変動が存在するそれぞれの時期について,中規模渦の平均的な西方伝播の様子を見るために,海面高度偏差の時間ラグ相関を取ったところ(図2),110(150)日周期変動が存在する時期には,日本南岸沖を西進する中規模渦も110(150)日周期で伝播して黒潮に接触しており,中規模渦が黒潮小蛇行発生の主原因であることが示されました。また,110日周期の中規模渦の伝播は伊豆海嶺以東の続流域から四国沖まで,150日の場合は伊豆海嶺以西のみに存在し,中規模渦の発生場所や伝播ルートに違いがある可能性が示唆されました。
 これらの違いは,亜熱帯循環全体の変動とそれに伴う黒潮続流位置の南北移動に関係している可能性があり,地球温暖化との関連も考えられます。今後は,これらの黒潮について行ってきた研究を踏まえて,親潮の研究を行い,温暖化研究に貢献したいと考えています。
(東北区水産研究所特別研究員 混合域海洋環境部 海洋動態研究室)

Motohiko Kashima