小学校講演奮戦記
高見秀輝

 平成13年9月4日,塩竈市立第一小学校の一学年を対象に海の生き物についての講演を行った。一学年の授業には生活科という科目があり,そのなかで地域の身近な自然を理解する目的で「塩竈の海の体験」というカリキュラムが組まれている。生徒たちは,実際に近くの海辺に出かけて海辺の生物などを観察するのだが,その事前学習としての講演を依頼されたのである。
 普段,小学生と接する機会のほとんどない私にとって,一年生にどの程度の内容の話をすれば良いのか皆目見当がつかなかった。早速,本講演を企画・担当された先生に電話し,小学校一学年の学力レベルを伺ったところ,ひらがなは読めるがカタカナはまだ習っておらず,また,生き物に興味を持っているごく少数の子供を除いて,生物の生態に関する知識や分類の概念などについてはほとんど白紙状態であるとのことだった。「いったいどんな話をすればよいのか?」と途方に暮れていたところ,幸いにも,昨年同じ講演に当研究所混合域海洋環境部の高橋一生氏が招かれていたことを思い出した。高橋氏は,ノートパソコン,プレゼンテーションソフト,液晶プロジェクターを駆使して講演を行ったのだが,その際に使用されたファイルをご厚意によりコピーさせていただいた。氏の作成されたファイルをみると,この辺の浜辺で身近に見られる生物の紹介や,海辺を観察する際のポイントなどが非常にわかりやすく紹介されており,小学校一年生でも退屈しないような工夫が随所になされていた。私はこのファイルを参考にして,というかほとんどパクって講演内容の構想を練った。
 当日,講演会場である小学校の図書室に通され,準備をしていると約60名の子供たちが元気よく入室してきた。自己紹介を簡単に済ませて,いよいよ講演の始まりだ。プロジェクターから最初の画像が映し出されると,好奇心に満ちた視線が一斉にこちらに向けられた。しかし,子供たちの集中力が持続するのはせいぜい10分程度である。画像が新たなものに代わった最初のうちは,興味深く話を聞いてくれるのだが,そのうちだんだんと私語が多くなり,収拾がつかなくなる。いきなり立ち上がって側転をし出す児童まで現れた。担任の先生は,そのような子供たちをきつく注意する様子でもなく,近くに寄り添ってそっと諭すだけである。私が小学生の頃は生徒への体罰が公然と行われており,隣の友人とちょっとおしゃべりしただけですかさず平手がとんできたものだが,昨今の教育現場は大きく様変わりしたようだ。子供たちの注意を常にこちらに向けさせるためには,話の内容を細切れにし,集中力が持続する範囲内で話の山場を設定しなければならなかった。また,海の生き物に関するクイズコーナーなどを設けて,実際に生徒たちが考える時間を与えるよう努めた。当然のことながら,子供たちの私語をうち消すだけの大きな声で話さなければならない。また,簡単な言葉を選びながらの説明が必須となるが,これが意外と難しかった。たった45分の講演であったが,終わった後にはぐったりしてしまった。講演後,子供たちから多くの質問を受けたのだが,中には「海はどうやってできたの?」と小学一年生相手に答えるにはちょっと難しい問いを投げかける子もおり,不覚にも,このときばかりは学会発表で全く想定していなかった質問を受けたときのように緊張してしまった。
 講演が終わって数日たったある日,実際に海に行って体験学習してきた子供たちから,かわいらしい絵入りの手紙が届いた。なかには判読するのに相当苦労するものもあったが,打ち上げられた海藻に群がる虫(ヨコエビの類か?)に注目したこと,講演のなかで出てきたイシガニをひたすら探しまわったこと,浜辺の砂粒に混じった微小貝の貝殻を見つけたことなどが活き活きと綴られていた。つたない私の講演が自然を観察する際の新たな視点のきっかけになったようでほっとした。

参考写真:講演の様子

(海区水産業研究部 沿岸資源研究室)

Hideki Takami