海洋モデル解析実験棟完成
渡邊朝生

 昨年10月より建設が進められてきた海洋モデル実験棟が平成13年3月に完成しました。水研への坂道を上るとき真っ正面に見える背の高い2階建ての建物がそれです(写真)。1階部分は電動ホイストを備えた高い天井を持った倉庫となっており、若鷹丸の観測資材、混合域海洋環境部の研究資材が収納され、その右手奥には研究所の中枢となる電気室が設置されています。2階の研究室部分には、精密機器保管調整室、データ保管室、分析実験室(それぞれ設計施工時の仮称)の3部屋があり、精密機器保管室については海洋動態研究室の新しい研究室として、データ保管室は海洋解析室として使用されます。また分析実験室については、生物環境研究室がクロロフィル等の分析に利用する予定です。海洋動態研究室については3月19日に引っ越しを完了、また、1階の倉庫部分には3月21日に塩釜倉庫に保管していた観測資材等を搬入し運用を開始しました。
 若鷹丸の定繋港が塩釜に変更されて以来、若鷹丸で使用する船用品、観測資材について、塩釜倉庫に保管場所を確保してしのぐ状況が続き、船用品、研究資材倉庫の確保が緊急の課題となっていました。また今回実験棟に移転した海洋動態研の旧室は、観測資料の山に埋もれ、LANケーブル、電源ケーブルが空中を行き交い、コンセントは蛸足配線だらけという状態になっていて、とても東北海区の海洋研究をリードする研究成果を次々と出しているとは思えない研究環境となっておりました。これらの改善が研究所としての最優先の施設整備要求として認識され、何度かの申請を経て、農林水産技術会議において平成12年度の施設整備として認められたわけです。その後、平成12年2月に実行協議書を作成し工事を担当する東北地方建設局との協議を開始、4月から6月にかけて仕様の詰めを行い、9月に入札、着工、そして独立行政法人への移行に合わせるように平成13年3月に完成、東北地建からの引渡しに至った次第です。新モデル実験棟建設にご尽力いただいた、水産庁、農林水産技術会議、東北地方建設局の関係各位に御礼申し上げます。また建設実現のためご協力いただいた研究所の皆様に感謝いたします。
 建物の仕様について水研内、そして東北地建との協議の中で最も議論されたのは、建物を水研の敷地内にどう配置するかということでありました。598m2の示達面積を最大限に活用でき、しかも水研敷地を有効に使用するための配置をどうするかが課題となったわけです。さらに、倉庫内に移動式のクレーンを設置する必要から、1階部分では外回り以外に柱のない構造となり、建物の奥行きを深くすると2階部分を支えるための柱と梁をより太く、より強固なものとしなければならず、基礎部分も含め建設費用がかさむという事情も加わりました。このため、古い倉庫と同じ向きで水研右手の小山を背にして建物自体を幾分細長くする案も検討されました。最終的に「海を扱う研究者が山を見て研究はできない」との研究者サイドからの強い要望を入れていただき、現在見るように、窓から海を望む配置にしていただくことができました。その結果、2階の窓から松島湾を遠望できる見晴らしのよい、しかも静かな環境下で研究業務に専念できております。
 さて、建物名の「海洋モデル解析実験棟」でありますが、これは現在の海洋研究が、海洋観測研究とモデル研究とを車の両輪として進んでいることを反映したものとご理解いただければと思います。ただ、当海洋動態研究室では若鷹丸をはじめとした調査船による混合域の海洋観測研究を主としていて、モデル研究については、まだ発展途上の段階にあります。今後、モデル研究を謳った施設名に値する混合域の総合的な海洋研究の中心施設となるよう努力することをお誓い申し上げ、海洋モデル実験棟完成のご報告とさせていただきます。
(混合域海洋環境部 海洋動態研究室)

Tomoo Watanabe