「第17回国際海藻シンポジウム」に参加して
村岡大祐

 平成12年度の重点基礎研究外国出張により,南アフリカ共和国ケープタウンで開催された17th International Seaweed Symposium (第17回国際海藻シンポジウム)に参加した。当シンポジウムは2001年1月28日から2月2日にかけて開催され,47カ国350名(日本からは22名)が参集し,発表も239題(内ポスター発表103題)に及ぶ大規模なものだった。
 大会会場であるケープタウン大学は,テーブルマウンテンの麓に広大なキャンパスを持つ美しい大学である。参加登録を済ませた後,歓迎パーティが開かれた。大会本部が招待したミュージシャンが,この近海に繁茂する褐藻カジメの一種Ecklonia maximaの体を乾燥させた筒状の茎状部から即席の管楽器を作り,実に見事な演奏を披露してくれた。私も試みに吹いてみたが,かすれた音を出すのが精一杯であった。このようなリラックスしたムードのなか,世界中から集まった海藻研究者の交流が夜遅くまで続けられた。
 翌日,オープニングセレモニーに引き続きいよいよ本会が始まった。昨晩のリラックスしたムードから一変,真剣な議論が,講演会場で,ポスター会場で活発に行われていた。かといって近寄りがたい雰囲気では決してなく,私のたどたどしい英語での質問にも多くの研究者が丁寧に答えてくれ,国際大会初参加で多少なりとも不安を感じていた私を大いに勇気づけてくれた。発表内容は生態学から分子生物学,あるいは海藻工業分野などきわめて多岐にわたり,分野ごとに複数の会場に分かれてのセッションが連日続けられた。日本人研究者の発表も行われ,生理学,生態学分野等に加えて食品化学分野から多くの話題提供があり,近年の海藻抽出物に対する関心の高さを反映しているように感じられた。私自身は「紅藻オゴノリ属植物ツルシラモGracilariopsis chordaの傷害組織形成過程」と題してポスター発表を行った。寒天原藻であるオゴノリ属植物は一般に再生力が強く,この性質を利用した増養殖が広く行われているが,本研究は再生に伴う形態形成を組織細胞レベルで観察したものである。幸い本属植物を研究している研究者は多く,私の展示ポスターにも何人かの海外研究者が興味を持って下さり,お互いの研究についてのディスカッションを通じて,彼らと知り合いになれたのが何よりの収穫であった。海藻増養殖に関連したものでは,その他に動物との混合養殖や,海藻の栄養塩取り込みによる水質浄化などの話題提供があり,海藻が持つ環境修復能力の可能性にますます強い関心が寄せられていることを実感した。
 今回のシンポジウムでは,海藻を利用した商品の展示・販売が日本海藻協会(JSA)によって行われた。私も少しばかり販売のお手伝いをしたが,日本の海藻食文化に対する関心は高く,なかなかの盛況であった。あるアメリカ人研究者はコンブの佃煮を「ビーフジャーキーのようだ」と評し,お国が違うと感じ方もそれぞれなのだなと妙に感心した。ここでの収益は全て大会組織委員会に寄付された。
 大会の中日にはエクスカーションが行われ,私はロベン島ツアーに参加した。この島には,かのアパルトヘイト時代,主に政治犯収容のため最高警備体制の刑務所が作られ,前南アフリカ大統領であるネルソン・マンデラ氏も長きにわたって投獄された。現在この刑務所は閉鎖され,この国の圧制と人種差別の歴史を今に伝える博物館となっており,1999年には世界遺産にも登録されている。元受刑者の案内で島内を見学し,南アフリカの美しい自然とは対照的な暗黒の時代を垣間見た思いがした。
 大会期間はあっという間に過ぎ去り,最終日の閉会式ではポスター賞の表彰が行われた。日本大学の西出英一教授が見事この賞を受賞なさり,「次は是非若い人にがんばってもらいたい」とのエールに私達若手(?)研究者は大いに励まされた。大会の最後には次回の開催地であるベルゲン(ノルウェー)の紹介がなされ,3年後の再会を共に願いつつ,一週間にわたるシンポジウムは幕を閉じた。
 最後に,シンポジウム参加の機会を与えてくださった皆様に心からお礼を申し上げる。
(海区水産業研究部 資源培養研究室)
写真 シンポジウム会場となったケープタウン大学
写真 アフリカ大陸最南端の海

Daisuke Muraoka