通称「自然循環」は森林、農地から河川を通じて海洋へと移行する環境影響物質(窒素)の動態を把握するための
プロジェクトである。研究分野もプロジェクト名と同様に、森林、農地から河川、海洋と幅広く、研究課題ごとに4つの
テーマに分かれている。本研究室が担当する課題は海洋サブチームの課題の一つで、低次生産過程における窒素量の動態を
室内実験で把握することを目的としている。
研究期間は3年で、平成12年度〜13年度は植物プランクトンを対象として、14年度は動物プランクトンを対象として実験を
行うことになっており、今年度は以下の二点について現在検討している。1)分類綱の異なる主要なプランクトンの生長速度を
各種環境条件(温度、光照度、栄養塩等)下で測定し、各々のプランクトンについて各種環境条件と生長速度の関係(回帰)式を
作成する。2)海洋には様々な種類の植物プランクトンが生息しており、プランクトンの種類によって窒素同化能力も異なると
考えられ、植物プランクトンの現存量を測定する際には種組成も測定する必要がある。種組成を推定する方法の一つとして、
クロロフィルaを含めたすべての色素組成を測定する方法がある(植物プランクトンは分類により含有する色素が異なる)。
そこで、含有色素について諸説あるプランクトンの色素組成を調べるとともに、光条件が植物プランクトンの色素組成に
及ぼす影響について実験を行っている。2)の実験でラフィド藻Heterosigma akashiwoについて興味深い結果が得られたので
紹介する。
H. akashiwo(NIES6)を4日間培養した後(培養条件は照度8000lux、明暗周期14L:10D、培地F/2)、明期4回、暗期2回の
計6回(明期11時間、13時間、暗期10時間、明期4時間、明期11時間、暗期8時間の順)にわたり培地30mlずつを採取し、
N,N-ジメチルホルムアミドで抽出後HPLC(島津社製)で色素分析を行った。図より、H. akashiwoの含有色素は1.
クロロフィルc1+c2、2.フコキサンチン、3.ビオラキサンチン、4.アンテラキサンチン、5.ゼアキサンチン、6.クロロ
フィルa、7.β-カロチンであることが確認された。また、色素分布は光条件によって異なり、キサントフィル色素の
3.ビオラキサンチン、4.アンテラキサンチン、5.ゼアキサンチンに着目すると、明期から暗期になると5.ゼアキサンチンが
4.アンテラキサンチンへ、4.アンテラキサンチンが3.ビオラキサンチンへ変換されるため3が増加し、4、5が減少した。
暗期から明期になると逆に3.ビオラキサンチンから4.アンテラキサンチンへ、4.アンテラキサンチンから5.ゼアキサンチンへ
変換されるため、3が減少し、4、5が増加した。これはビオラキサンチンサイクルで、光条件により色素のエポキシ化、
脱エポキシ化がおこり、過剰な光エネルギーを熱として外部へ放出するためのメカニズムと考えられている。高等植物や
緑藻などで観察される現象だが、今回ラフィド藻にも存在することが明らかになった。
(海区水産業研究部 海区産業研究室)
- 参考図表
- 図. 明暗条件下のH. akashiwoの色素分布
- 参考文献
- Jeffrey SW, Mantoura RFC, Wright SW (1997)Phytoplankton pigments in oceanography, UNESCO, Paris.
- J.N.クレーマー, S.W.ニクソン(1987)沿岸生態系の解析, 中田喜三郎監修, 生物研究社, 東京.
- 宮尾(徳富)光恵・水澤直樹(1999)強光環境から身を守る植物の防御機構,化学と生物 :37,396-400.
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