調査方法
東北海域におけるスルメイカは、夏秋季の盛漁期には、大部分が仙台湾以北の
水深100から300m程度までの大陸棚周辺海域に分布している。現存量を推定するために、
この海域の大陸棚から大陸棚斜面にかけて等深線を横切るような東西方向の測線を設定し、
計量魚探の周波数38kHzを使ってエコーデータの収集を行った。あわせて、魚種判別、ター
ゲットストレングス(スルメイカ1個体あたりのエコーの強さ:TS)の推定のために、
水中ビデオカメラを使った観察、釣獲試験、漁船操業位置の観察を行った。また、分布する
スルメイカの平均体長と体重を推定するために商業漁船の水揚げ物調査を行った。得られた
調査資料をもとに、収集したエコーデータからスルメイカの魚群反応を判別して積分(積算)し、
それをTSで割って分布密度を推定し、調査海域の面積および平均体重をかけて資源量(現存量)を
推定した(図1)。
調査結果
・TSの推定
分布密度推定の際に必須であるTSは、スルメイカについては知見が乏しい。そこで、
これまでに測定例の報告されていない実際の分布海域におけるスルメイカのTS測定を行った。
自然分布状態で測定されるTSは、実際に資源量調査する際の平均的な値と同様と考えられる。
また、自然分布状態での測定では、個体間距離の小さい複数個体のTSが複合したり、他の魚などの
反射体の影響により、測定値が過大になることが多いとされるが、本調査の測定では、水中ビデオ
カメラによる観察などから、スルメイカは密集した群形成はせずに個体間距離が大きく、測定に
影響を及ぼす魚類や他のイカ類の分布がほとんどなかった(映像)。測定を繰り返した結果、
商業漁獲物のサイズである18〜24cmの外套長とTSの関係を得た。推定値は、既往の報告にある
標本を使った測定例やモデルによる理論値と照らしあわせても、おおむね妥当であると思われた。
・分布密度、資源量の推定
得られた体長とTSの関係をもとに、商業漁獲物の平均体長から分布するスルメイカの平均TSを
推定し、分布密度を推定した。比較的多くみられたマサバやカタクチイワシなどの反応は、群形状や
分布層、群内推定密度、TSの違いからほぼ判別できた。
推定の結果、スルメイカは水深150〜250メートルの大陸棚斜面や、海底の起伏が大きい
ところで多い傾向があった(図2)。このように分布が多いところでは通常、
いか釣り漁船が操業しているのが観察された。分布密度の高いところは10〜20尾/100m2程度で
あった。主要漁場である三陸北部海域の測線における平均分布密度の経年変化は、いか釣り漁船のCPUEの
それと傾向が一致し、好不漁は分布量に因るところが大きいことがわかった(図3)。
推定された各測線の分布密度を調査海域の面積に引き伸ばし、推定平均体重をかけて調査
海域全体の資源量(現存量)を推定した。1999年8月下旬の仙台湾から尻屋埼の漁場域における
現存量は約3万トンと推定された。しかしながらこの値は、本海域における9月以降の漁獲量から
みて過小評価であると考えられた。原因としては、スルメイカの分布量が1996、97年よりもかなり
少なく、主漁場以外では魚群反応がはっきりせず推定できない場合が多かったこと、反対に
カタクチイワシの分布量がとくに多く、夜間はスルメイカと分布が重なり魚種判別が困難な
場合が多かったこと、があげられる。
今後の発展性と課題
本調査の結果から、計量魚探によるスルメイカの直接的な資源量推定は、現在、相対的な
手法が中心であるスルメイカの資源量推定精度向上に寄与し、資源評価や漁況予測にとって有効な
方法であると期待される。主漁場域のようにスルメイカが比較的密に分布する海域では、かなり
妥当な推定がなされているものと思われる。しかしながら1998、99年のようにスルメイカの分布量が
少ない場合、主漁場以外の海域では分布が疎らすぎて魚群判別が難しく推定が困難である。また、
カタクチイワシなどの小型魚類が多く、それらと分布が重なった場合も推定は困難である。この
ような海域では、操業漁船もないことが多いので、中層トロール漁獲試験などに基づく推定の方が
妥当であろう。
また、推定精度向上のためにスルメイカのTSの信頼性を向上させる必要がある。スルメイカ
生体のTSは測定例が少ない。魚類で比較的よく行われるケージに入れた生体の測定では、スルメ
イカは姿勢変化が大きくなり測定値が小さくなるものと推察される。自然環境下の測定では、
測定対象物の体長や姿勢、密度などの情報が明確ではなく、他の反射体の影響も入ってくるため、
測定値はあくまで推定の域を脱し得ない。自然分布状態の姿勢を反映した形で生体を姿勢制御した
測定例の蓄積が必要であろう。