アラメコンニャクイワシの近似種?
斉藤憲治*1・杉崎宏哉*2

 沖合の海山と思われる場所(水深約800m)から底曳で漁獲されたという大型の深海魚が 持ち込まれ,同定を依頼された。水産研究所の研究員なら魚の名前ぐらい大抵すぐに判るだろうと 思われがちである。しかし内情を明かせば,図鑑と首っ引きで調べているわけで,素人と大して 変わらない。
 この魚は鱗があらく(側線鱗51枚),エラブタが後ろに膜状に伸びている(写真下矢印)と いう際だった特徴を持っていたので,絵合わせから比較的容易にアラメコンニャクイワシ (Alepocephalus australis)ではないかと思われた。アラメコンニャクイワシは日本 近海からは,体長43.5cmの1個体が得られているだけで,もし本種なら日本からの2番目の記録と なる。
 しかし,写真の個体は体長103cmと大きく,体もやや細長い。念のため鰭条数を数えてみたら, 背鰭が16本(不分枝4,不明1,分枝11),尻鰭が16本(不分枝3,分枝13),胸鰭が 10本で,アラメコンニャクイワシ(背鰭18本,尻鰭17〜18本,胸鰭12本)より少ない。 また,主鰓蓋骨にあるという放射状の隆起もはっきりしない。
 そもそも深海魚はまとまって獲れることが少ないためか,研究自体も少なく,種内変異がどれ ぐらいあるのかはっきりしていないことが多い.この魚がアラメコンニャクイワシの種内変異の うちにはいるのか,よく似た別種なのかについてはさらに検討の余地がある。

参考写真
*1 海区水産業研究部 資源培養研究室
*2 混合域海洋環境部 生物環境研究室


Kenji Saito, Hiroya Sugisaki