表紙写真の説明


 エゾアワビの歯舌を走査型電子顕微鏡で観察した。歯舌とは,斧足類を除く軟体動物各群に見られる帯状の摂餌器官で,表面はヤスリのような構造をしている(写真a:殻長2.6mmのエゾアワビ稚貝の歯舌)。
 我々の研究室では,アワビ類の食性解明を目的として研究を進めており,これまでにエゾアワビの主な餌料が成長に伴い変化することがわかった。変態直後のアワビは,着底基質上の藻類などが分泌する粘液状の物質を主な餌とする。殻長0.8mmほどになると,付着力の強い付着珪藻を基質から剥ぎ取って食うようになり,殻長5-10mmほどに成長すると,海藻を主な餌料とするようになる。
 アワビは,口腔より歯舌を突き出し,食物を掻き取って摂餌する。歯舌の形態はアワビの成長に伴い,粘液などをすくい取るのに適した刷毛のような構造から(写真b)基質に固着する珪藻などを削り取るのに適した熊手のような構造(写真c: 矢印は餌料とした付着珪藻Cocconeis sp. の上殻)へと変化することがわかった。さらに,殻長2-3mm以降の稚貝では,中央の歯(写真d: R)とそれに並ぶ2対の側歯(写真d: L1, L2)に比べて外側の3対の側歯(写真d: L3-L5)が長く発達してくる。アワビが食んだ後の海藻葉体表面を観察してみると,これら3対の側歯に削られた跡がくっきりと残されている。エゾアワビの食性変化は歯舌の発達と密接な係わりをもっていることがわかった。
(海区水産業研究部 沿岸資源研究室)

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