離任の挨拶
お世話になりました
松尾 豊

 1900年代最後の年に11月1日付で辞令を受け取り、10年来住み慣れた塩竃を一人旅立ちました。東北区水産研究所の皆様には、平成元年5月29日付で異動して以来、公私にわたりお世話になってきました。紙面を借りてお礼を申し上げます。
 東北へ来る前、かっての南西水研に7年余居た身にとって、東北は謎の水研でした。話があってから、研報やニュースを見ても知らない人、知らない研究ばかりで不安を覚えたものです。唯、水研関係で佐野所長、プランクトン関係で横内さん(現西水研)、小谷さん(現瀬戸内水研)、学校関係で山下さんを知っているだけでした。
 広島から陸路北上し、朝早く丸山の8号棟前に着いたとき、霧の中に針葉樹と官舎が朧気に浮かぶ風景は高原の朝を思わせ、思えば北へ来たもんだと強く印象づけられたことを今でもハッキリと覚えています。また、広島の合同庁舎に比べ、緑が多いと感じました。
 東北区水産研究所海洋環境部生物環境研究室は、赴任当時、物質循環、基礎生産や植物プランクトン関係の観測機器、分析装置から実験器具に至るまで無い物ばかり、他の研究部・室から借りたり、少しずつ揃えたものでした。海洋環境部内の協力を得たり、各種プロジェクトに参加することにより、10年在籍した間に一通りの実験設備が整い、成果を上げることが来たのは何より海洋環境部の研究活動が盛んであったためと思います。
 東北海域は、ご存じのように、複雑な海洋構造であるため、東北の海を一言で言い表すことは出来ません。瀬戸内海とは内海と外洋の違いがありますが、変動は同じように大きいと感じます。また、亜熱帯から亜寒帯まで幅広い水塊が分布しているので、分布している生物も同じように幅広い種類が出現します。バイオコスモスプロジェクトの調査で、黒潮続流を挟んで南北にプランクトンネットを曳網していきますと、質、量とも水塊に応じて様々な変化を示し、海の広さが実感できました。暖水塊周辺では秋口、CTD観測中に戻り鰹が釣れたり、サンマが灯に寄ってきて観測が一段と楽しく、余計な力が入ったものです。
 海洋といえば、調査も大事な研究の一部です。お世話になった艦船は、わかたか丸(現若鷹丸)、北光丸、探海丸、開洋丸、若鳥丸(境水産高校)と多くはありませんが、思いではそれぞれの船毎にいろいろとあります。特に、わかたか丸は東北水研の船として新船建造まで関わることが出来、お世話になりました。異動して来て、初めてわかたか丸を見たときは、大学時代に乗船していた船を思い出し、懐かしく思われました。しかし乗船して船首に近い席で食事を食べる段になり、久しぶりの外洋の揺れには降参してしまい、せっかくの食事がのどを通らなかった事が残念です。何回か乗船するうちに、やっと慣れてきて何とか調査がこなせるようになったことは、昔の経験と乗組員の方の協力があったからでしょう。
 さて、わかたか丸でもバイオコスモスの調査として、3月に房総沖でシラスの調査を行っていました。時は、平成5年3月のこと、台湾沖に低気圧が出来、逃げ始めたものの、旧船の悲しさ、黒潮中では前へ進まず、低気圧に追いつかれ、3日間にわたり、最大で風力10の暴風の中で船を何とか支えてもらって切り抜けて、やれやれと前半の航海を終わり、これからはもっと迅速に逃げることにしようと思ったものです。ところが、後半の航海ではまたまた金華山沖で低気圧に追いつかれ、北北東の風に対して支えるため、船は金華山を目前にして、だんだんと陸から離れて行かなければならない状態となり、もうこれはアメリカまで流されるしかないのか、と覚悟を決めたものでした。何とか塩釜港に帰った後、直前に帰港したマグロ船がインタビューを受けているシーンがニュースで放映されると、もう少し早く帰れば取材してもらえたかなと考えるあたり、人間とは現金なものである、と変な気分になったものです。そんなわかたか丸も、補正予算のおかげで、暴風雨が来ても安心な船と生まれ変わることが出来、調査船としても一流の装備と乗組員を擁するようになったことは、関係者一同の努力のお陰と感謝しております。
 最後に、もう一つ東北水研で忘れられないこととして、レクリエーションがあります。特に、テニスは東北水研のみならず、他の水研から水産庁、OBまでいろいろな方と知り合うことが出来、テニスを縁として研究者、行政部局、OBのいろいろな話を聞けたことは、大きなメリットであり、楽しみでした。団体戦のメンバーとして、また、ミックスでも優勝を味あわせてもらったことはメンバーに恵まれたお陰です。現在は、レクリエーションの機会にはなかなか恵まれませんが、これからも研究でも、レクリエーションでも懲りずにお付き合いしていただきたいと思いますので、宜しくお願いいたします。
混合域海洋環境部生物環境研究室
水産庁研究指導課

Yutaka Matsuo

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