岩手県南部における1996-1997年のイカナゴ稚幼魚の漁獲量増加要因
野澤清志*1・北川大二*2

 岩手県沿岸では、春季の4月から6月にイカナゴの稚幼魚(こうなご)を対象とした火光利用敷網漁業が行われており、春季の重要な漁業の1つである。その漁獲量は1977年以前は年変動が大きいものの平均1,500トン以上であったが、1981年以降は低調に推移してきた。しかしながら、1996年以降、その漁獲量は岩手県南部を中心に急激に増加した。本研究では、イカナゴ仔稚魚の分布密度の経年変化と、釜石魚市場で採集されたイカナゴの脊椎骨数の変化を調べ、岩手県沿岸域で好漁となる要因について検討した。
 岩手県南部海域において実施した仔稚魚調査によると、採集された仔魚は体長5mm前後で、これらは調査海域周辺で産卵、孵化したものと推定された。また、これらの脊椎個数を調べた結果、1995年級群から1997年級群へと次第に脊椎骨数62(第1番目の脊椎骨(Atlas)から数え、尾部棒状骨(Urostyle)を含めなかった場合)系群の割合が増加した。このことから、主に仙台湾とその周辺に分布する62系群が北へ分布域を広げたことが近年の漁獲量を高めた要因の1つと考えた。
 春季における東北海区の表面水温図によると、漁獲量が高水準となった1996・1997年は親潮系の南への張り出しが弱く三陸沖に暖水塊が存在しており、黒潮系の暖水が強勢であった。一方、低水準であった1993・1994年の海況は、高水準年とは逆に親潮系の南への張り出しが強勢で、黒潮系の暖水が弱勢であった。このことから、1996・1997年に生まれた62系群は黒潮系の暖水の影響を受けて、分布域を宮城県沿岸から北へ拡大した可能性が指摘される。
*1:岩手県企画振興部情報科学課
*2:八戸支所 資源評価研究室

Kiyoshi Nozawa and Daiji Kitagawa

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