モーリタニア国水産資源管理開発計画調査の事前調査に参加して
北川大二

 平成11年6月29日から7月11日まで、国際協力事業団(JICA)のプロジェクトとして計画されている標記調査の事前調査団の一員として同国を訪問する機会があった。ここではモーリタニアの水産事情と研究機関について訪問中に知り得たことを紹介する

 モーリタニアと聞いて、どこにあるのか分かる人はあまりいないのではないだろうか。アフリカのサハラ砂漠の西端の大西洋に面しており、北はモロッコ、南はセネガルに国境を接している。国土は日本の約2.7倍あるが、その大部分が砂漠地帯で、国土の90%以上が不毛地帯で、人口はわずかに約230万人である。このように、国土の大半が耕作に適さないため、農業は小規模である。水産業は鉄鉱石を中心とする鉱業とともに重要な産業で、外貨収入の約60%、国家歳入の約25%、GNPの18%を占めている。
 モーリタニアの沿岸は16°Nから20°20’Nの範囲にあり、茨城県から青森県までの東北海域よりもやや狭い。沖合では寒流系のカナリヤ海流と北赤道反流の支流であるギニア海流により混合域が形成されるため好漁場となり、年間の漁獲量は40〜50万トンに達している。
 漁業は零細漁業、氷蔵トロール、船凍トロールおよび浮魚漁業の4つに大別され、このほかに漁業協定に基づき入漁している外国船漁業がある。このうち零細漁業はピローグと呼ばれる木造のカヌーに船外機を装備したもので、主にタコ壺漁、釣り、刺網を行っている。全体で約2,700隻あり、1997年の漁獲量は約16,000トンであった。また、氷蔵トロール船は87隻で、そのうち150〜250トン船が48隻である。冷凍トロール船は114隻で、250〜500トン船が86隻を占めている。これらの漁業は主としてイカ・タコ類を漁獲しており、1997年の漁獲量は28,000トン弱で、近年減少傾向にあるとのことである。浮魚漁船はおよそ50隻程あり、主に旋網で操業し、1997年の漁獲量は445千トンであった。このほか、外国漁船がモーリタニア政府との漁業協定に基づき、入漁料を支払って操業している。ロシア、ウクライナ、スペイン、ポルトガル、日本など十数カ国が操業している。日本漁船はマグロ漁船約30隻がモーリタニアの200海里水域で操業しており、年間約1,000トンを漁獲している。

 国立漁業海洋研究センター(Centre National de Recherches Oceanographiques et des Peches, CNROP)は、モーリタニア北端にある唯一のトロール船の水揚げ基地であるヌアディブにある。前身は1950年に創立された水産実験所で、1987年4月にモーリタニアにおける水産資源の管理と開発のために必須の科学的情報を提供することを目的に設立された。研究部門は、資源統計情報、資源生物環境、資源開発管理、品質管理衛生検査、研究情報管理の5部門が置かれている。
 資源統計情報部門は主に漁船の操業記録を用いた資源動態の解析、および聞き取り調査による零細漁業の動向の分析を行っている。資源生物環境部門は海洋環境特性の把握とともに水産資源の時空間的分布様式の解析のほか、魚類、甲殻類、頭足類の再生産、成長、加入等に関する研究を行っている。開発管理部門は漁獲データを用いた資源解析、調査船による資源調査とその評価に関する研究を行っている。品質管理部門は漁獲物の品質管理上の技術支援および水産物の各種検査と水質検査を行っている。ヌアディブではこの部門が唯一の検査機関であるため、EU諸国への水産物の輸出にはここでの検査が不可欠となっている。逆に、検査体制が整ったことにより輸出が可能となった。研究情報管理部門は図書刊行物の管理と刊行および海外の研究雑誌の受け入れと管理を行っている。
 調査船は1996年に日本から無償供与されたAl-Awam号(301トン)とAmrigue号(62トン)があり、それぞれ沖合と沿岸の調査に従事している。職員数は約140名で、このうち研究員と技官が70名、船舶職員が22名、その他が事務職員である。人口や漁獲量からみて、人数的にはかなり多いと言えるだろう。モーリタニアにおいてCNROPの重要性あるいは期待が極めて高いことが伺える。これは上記のように水産業が外貨収入の60%を占める重要な産業であるとともに、特に零細漁業の振興により雇用を創出するという政策があり、そのためには水産資源の持続的最大限の利用が必要であるとの考えのためである。
 今回の調査団のメンバーは、水産庁漁場資源課の鈴木真太郎さんを団長に、水研からは私、JICAからは横山 純さん、それに民間コンサルタントの土居正典さんと福井 襄さん、それに仏語通訳の安土和夫さんの計6名であった。当初、日本側は大陸棚水域(水深20〜200m)において底魚類を対象とした年2回の調査を考えていた。しかし、モーリタニア側の本プロジェクトに対する期待は高く、協議の冒頭に200海里水域全域(水深0m以深)の浮魚類と底魚類の両方を調査対象にしたいと提案してきた。水深20m以浅はAmrigue号、20m以深はAl-Awam号で調査をするというのである。しかも、それぞれ年4回の調査をしたいとの意向であった。これには調査団の全員が呆れてしまった。交渉上の駆け引きという面もあったのであろうが、モーリタニア側の主張は非常に強かった。しかし、計量魚探を使った浮魚の調査は特に浅海域では問題が多いことを私は主張し、調査は底魚に限るべきであると述べた。また、沿岸の調査船Amrigue号には計量魚探が搭載されておらず、計量魚探を新たに搭載することは予算的に困難であることを相手側に理解をしてもらい、浮魚の調査は行わないことで合意を得ることができた。
 しかし、底魚を対象とした調査を年4回実施するということについては、極めて強硬に主張された。JICAとしては1回の調査で、日本側のスタッフは3ヶ月滞在し、その間に調査はもちろんデータの解析も共同で行って技術の移転をはかる考えであった。このため、年4回の調査となると、日本人スタッフは2年間現地に滞在する事になってしまい、帰国して報告書等を作成する時間が取れなくなってしまう。もちろん予算的な問題もあったが、日本の春と秋にあたる季節の移行期は海洋環境の変化が大きく、このため魚の分布も大きく変化する可能性が高く、資源量を推定するには問題があることを指摘し、年2回の調査に理解を求めた。最終的に、今回のプロジェクトでは年2回の調査を行い、このほかにCNROPが独自に2回の調査を行うこととした。
 今回の協議はモーリタニア政府の漁業海洋経済省の資源管理研究局およびCNROPと行った。わずか数日の間ではあったが、この資源評価と管理のプロジェクトに非常に大きな期待を持っていることが伝わってきた。また、滞在中に訪問した漁業協同組合でもこのプロジェクトには期待を寄せていた。今後、調査を担当するコンサルタントが決まり、来年3月頃から本格調査に入ることになる。2年間の調査が期待した成果を挙げられるよう願っている。

(八戸支所 資源評価研究室)
参考写真
図1 モーリタニアの位置
図2 ヌアクショット近郊の漁村のピローグ船
図3 国際漁業海洋研究センター(CNROP)

Daiji Kitagawa

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