宮城県沿岸域におけるAlexandrium属シストの分布
一見和彦

 近年、麻痺性貝毒の広域化が養殖産業における一つの大きな問題となっている。宮城県下においても、平成4年に石巻湾でカキから麻痺性毒が検出されて以来、石巻湾あるいは仙台湾を主に、ほぼ毎年二枚貝から麻痺性毒が検出されている。麻痺性貝毒は、二枚貝が麻痺性毒を産する有毒プランクトンを摂食し、体内に毒を蓄積することに起因する。東北海域における原因プランクトンはAlexandrium tamarenseおよびA. catenella(渦鞭毛藻)の2種であり、麻痺性貝毒発生時期も両者の増殖期に限られている。これらAlexandrium属は生活史の中に休眠期を持ち、増殖に不適な時期にはシスト(休眠胞子)となって海底堆積物中に存在していることから(図1)、堆積物中のシスト密度を測定することによって、その海域におけるAlexandrium属の生物量をおおよそ推定することができる。本研究では、宮城県沿岸域におけるAlexandrium属の分布を把握する目的で海底堆積物(表層2ないし3cm深まで)を採取し、堆積物中に存在するAlexandrium属シストを計数した。
 堆積物の採取は、気仙沼湾から仙台湾に至る計46定点(図2:●)で、柱状採泥器もしくはエクマンバージ型採泥器により実施した。またシストの計数はYamaguchi et al. (1995)の蛍光染色法に従った。
 結果を図2に示す。気仙沼湾から鮫浦湾まで北部沿岸における堆積物中のシスト密度は検出限界値以下(<7 cysts/cm3)であったが、局所的に長面浦において800 cysts/cm3という高密度のシストが認められた。石巻湾では検出限界値以下〜180 cysts/cm3のシストが認められ、分布の傾向として湾奥部では比較的少なく、湾東・西部および湾口部でシスト密度が高かった。仙台湾においてもシスト密度は比較的高かったが、松島湾では全定点でシストは検出されなかった。
 調査結果から、近年麻痺性貝毒が検出されている海域(長面浦、石巻湾および仙台湾)ではシスト密度も高く、シストの分布域と貝毒発生海域はよく一致していると言える。Alexandrium属がシストを形成するという性格上、棲息海域での土着性は強く、上記3湾では今後も麻痺性貝毒の発生する可能性が高い反面、シスト密度が検出限界値以下であった北部沿岸域ではAlexandrium属が大きく増殖する可能性は低いと思われる。現在宮城県沿岸は、生産海域区分(貝毒出荷自主規制海域)としてホタテガイは7海域、カキ・アサリは13海域に分けられ、貝毒に対する監視体制が敷かれている。本研究におけるシスト分布域の知見は、今後の麻痺性貝毒発生海域を予測する上での一指標となろう。
参考文献
Yamaguchi, M., Itakura, S., Imai, I. and Ishida, Y. (1995). A rapid and precise technique for enumeration of resting cysts of Alexandrium spp. (Dinophyceae) in natural sediments. Phycologia, 34(3), 207-214.
(科学技術特別研究員)

Kazuhiko Ichimi

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