東北水研ニュース

とうとうできた新組織

河野秀雄



 思えば長い道のりだった。もう記憶もおぼろげになりかけているが、確か平成5年に各水研に将来構想検討委員会が設置され、水産研究の将来構想について議論が開始されたと思う。当時私は水産庁研究課に、その後は中央水研に在籍していたため、当所の将来構想の検討に参加したのは、平成8年の半ばからであった。水産業を巡る最近の情勢、水産研究の背景の変化、水産研究の展開方向、当所の今後のあり方などを分析し、論議したものである。
 平成10年10月に当所は組織を一新した。組織改正の背景は、漁業資源関係について言えば、国連海洋法条約に基づくTAC(漁獲可能量)制度の導入により、精度の高いABC(生物学的許容漁獲量)の算出が海区水研の重要な任務になったことである。八戸支所はそれまで行っていた底魚と浮魚の研究に加えてサンマの資源研究を引き受け、東北太平洋海域(混合域)の漁業資源の研究に責任をもつことになった。
 八戸支所の組織は研究分野を縦に切った形の底魚資源研究室と浮魚資源研究室の2研究室体制から、横に切った形の資源生態研究室と資源評価研究室に変わった。これはただ単に切り口の目新しさを追求した結果ではない。資源研究の流れと出口を明確に意識することを支所に属するわれわれ自身に強く求める組織なのである。成果の受け渡し先を意識しない研究のための研究を排し、最終的な出口(水産業の振興)までの道のりが明確である研究を迫る厳しい体制であるとも言える。と述べると堅苦しいが、新しい組織と研究の流れをマンガで解説すればのようになろうか。
 さて、サンマの平成10年の漁獲量は14万トンで、前年の約半分となった。これは海況の変化だけでは説明がつかず、資源の減少のためでもあると考えている。いっぽう、先日決定された平成11年のサンマのTACは前年より3万トン増加して33万トンとなった。漁獲量が大幅に減少したという状況の中でのTACの増加に、違和感を感じている漁業関係者は多い。これは1つには、TACがABCのみならず社会経済的要因も考慮したうえ、漁業関係者の意見も聞いて決められるという事情が十分には説明されていないことによると思うが、もう1つは、当所を中心とする研究サイドが、主に平成9年までのデータによって、サンマの資源状況は平成9年までは悪くない、高位で安定している、との見解を出したためでもある。
 今のところ、ABCの原案作成からTACの決定までに、ほとんど1年という長時間を要している。漁期が終わるとデータをFRESCO(TAC体制に対応した資源データ・漁業データ管理システム)に登録。そのデータにより1月から資源評価作業を開始。2月に資源評価作業部会。3月にブロック別資源評価会議。8月に再度資源評価作業部会。同月に全国資源評価会議を開催して資源評価の方法とその結果(ABC)を最終的に検討。その後、水産庁内でTAC案が作成、検討され、中央漁業調整審議会での意見聴取を経て、11月に翌年のTAC決定となる。
 このように、TAC決定までに非常に多くのステップを要するため、TACの当該年の直近の調査データと漁業データを資源評価に組み込むことが非常に困難な状況なのである。今回の例で言えば、平成11年のABCを算出するのに主に平成9年までのデータに依らざるを得なかったという状況である。これはサンマのように単年性でそのため資源量が年々大幅に変動しうる資源の評価方法としては問題が大きいし、多くの年級を持つ底魚類の資源評価方法としてもかなり問題である。
 TAC制度は始まってまだ2年しか経っていない。資源評価の手法も、作業部会や評価会議などのABC検討会議の持ち方も年々変化し、手探りでそれらの改良を図っている段階である。このような状況にあって、私は八戸支所が責任をもつ底魚と浮魚の資源研究について、少なくとも以下の3つの方向を目指したいと思っている。
 1つは、ABC算出作業をスピードアップするとともにABCに係る諸検討会議を効率化して、なるべく当該年の直近のデータまで資源評価に組み込めるようにする、そのための努力である。直近のデータまで利用することに関しては、漁海況予報ではかなりうまくいっていると思うが、ABC算出に関しては大幅な改善の余地があると思う。
 2つ目は、とくに浮魚に関してであるが、漁期前調査の強化と、それによって得られたデータの漁海況予報とABC算出の双方への利用である。ABCが漁期直前に出されるのでは遅いということであれば、もっと以前に一度ABCを出しておいて、それを漁期前調査のデータで改訂したらいいと思う。これはTACの期中改訂につながり、漁業管理が若干煩雑になると思うが、得るところは大きいはずである。
 3つ目は、もっと長期的で重要な問題である。私は、水産行政や漁業界からの研究ニーズがどのように変化しようとも、資源研究部門が行うべき一連の研究の中で特別に大切なのが、資源のモニタリング手法の開発とそれを用いたモニタリングの実行であると思う。資源のモニタリングがなければ資源変動機構の解明はあり得ず、資源変動機構の解明がなければ資源管理はあり得ない。
 八戸支所では、底魚類に関して「底魚類の資源評価手法の開発」、「タラ類の資源評価と動向の把握」という課題においてモニタリング手法の改良を試みていると同時にモニタリングそのものも実行している。また、浮魚類についても「多獲性浮魚類の資源評価手法の確立」という課題においてモニタリング手法の開発を鋭意努力しているところである。資源のモニタリングは長年にわたる営々とした努力の積み重ねが必要である。しかし、先導的な華々しい研究でないことから予算の確保がしばしば困難に見舞われる。しかし、これなくしては資源研究に将来はない。今後も様々な工夫により資源のモニタリングが長期に渡って継続されるよう努力して行きたい。
 さて、もうスペースが残り少ないが、もう1つだけ重要な点を述べたい。5年がかりで水研の将来方向について論議を積み重ね、とうとう新しい組織ができたと思ったら、もう次の大波−行政改革−が押し寄せて来ている。しかし、水産庁研究所が独立行政法人になろうがなるまいが、職員の身分が国家公務員型になろうがなるまいが、私は、水産業を巡る情勢、水産研究の背景に大きな変化がない限り、水産庁研究所の今のこの組織がベストであり、同様に八戸支所についても今のこの組織がベストであると考えている。この組織を守るように努力して行きたい。
(八戸支所長)
八戸支所職員
Hidao Kono

目次へ戻る

東北水研日本語ホームページへ戻る