アワビ類稚貝のエネルギー収支

(英文:Energy Budget of Laboratory Reared Juvenile Abalone Haliotis discus and Haliotus discus hannai

山崎 誠


 アワビ類は沿岸域の重要な磯根資源(浜値でキロ当たり1万円を超えることがあります)として、最高時には日本全体で年間6,500トン近い水揚げがありましたが、ここ十数年間ずっと減り続けています。そこで、人工稚貝をたくさん生産して放流し、資源を回復させようという試みが行われていました。1970年代に日本の比較的北に生息するエゾアワビで人工採苗技術が確立され、クロアワビなど比較的西南に生息するアワビ類でも積極的にその技術が導入されていましたが、特にクロアワビの種苗生産は不安定で、さらに、放流したものが漁獲量の増加に反映されるほどには効果が上がっていないという状況でした(現在も状況はあまり変わっていませんが・・・)。また、当時勤務していた西海区水産研究所のある長崎県のお隣佐賀県では、エゾアワビを導入しようと模索していました。
 そこで、アワビの稚貝は放流されてから十分な餌に遭遇できているのだろうかという点に焦点を置き、放流時のアワビのサイズで年間どれくらいの餌を必要とするのかを明らかにする目的でこの飼育実験を始めました。論文では、1986年から1987年まで、塩蔵ワカメを餌としてクロアワビ2才貝とエゾアワビ1才貝を飼育して、そのエネルギー収支を明らかにしました。まず、与えた餌の量と残った餌の量・糞の量を1回約10日間にわたって毎日のように測定し、摂餌量と排出量を明らかにしました。これを2カ月に1回計7回行い、熱量計で計測したワカメと糞のカロリー当量から年間の摂取エネルギー量を算出しました。また、実験開始時と終了時に稚貝を数個体ずつ解剖し、体の各部位の増重量とカロリー当量を測定し、両者から年間の成長量をエネルギー単位で明らかにしました(体の各部位の年間の増重量の把握にはある数学的な処理が施されています)。以上の手法によって、年間の摂取エネルギー量はクロアワビで50kcal、エゾアワビで43kcalで、排泄量は両者とも9kcalでした。年間の成長量は、クロアワビで4cmから5.5cmに成長する間に蓄えたエネルギー量は7kcal、エゾアワビでは7〜8kcal(殻の成長変化は3.3cmから5.3cm)という値を得ました。飼育実験という限られた条件での値ですが、この結果をもとに野外での餌を巡る競争や餌となる海藻自体のアワビとの遭遇の問題、アワビの海藻に対する嗜好性など生態学的な諸関係を明らかにすることで、環境収容力の評価に近づくものと考えています。
資源増殖部 増殖漁場研究室
(注:本文は英文です)
kiren@myg.affrc.go.jp

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