八戸支所、最近の10年と今後

河野秀雄


 八戸支所は昭和63年にそれまでの第1研究室、第2研究室という組織を改正し、底魚資源研究室および浮魚資源研究室の2研究室構成を採用した。この組織は平成10年の現在までちょうど10年間続いたわけである。ここでは、この10年間に八戸支所に付託された研究推進方向とその下で我々が行ってきたこと、考えたことを簡単に振り返り、あわせて八戸支所の今後の方向についても一言触れることにしたい。
 昭和63年に行われた研究基本計画の改訂と組織改正の趣旨は、資源研究分野について見れば、従来は主要資源の生態、現存量の把握、資源の変動機構の解明など資源動態研究を中心に実施していたものを、今後は主要資源の適正水準の把握、許容漁獲量の算出、漁獲努力量の漁期、漁場への適正配分など資源管理技術研究を中心とするように変えようというものであった。これはいわゆる「資源管理型漁業」を実現するために、水産研究所がその基盤を支える研究を行う必要があるとの考えに基づくものである。我々八戸支所は、それまで資源量推定の分野でいくつか持っていた課題を完了または中止し、代わりに資源評価・資源動向の分野で新たにいくつかの課題を掲げるとともに底曳網の適正目合の問題で課題を立てるなどして、基本計画と組織の改正に対応するように努めた。
 平成6年度に再び研究基本計画を改訂した。この改訂の主なねらいは2つあった。1つは水研の研究を資源、海洋、増殖の各部門の協力により推進するようなしくみに変えることであり、他の1つは地球環境問題に対応して海洋生態系の解明と保全に関する研究を我々の研究の柱の1つと位置づけることであった。この改訂においても資源研究部門の最終的な目的が資源管理・漁業管理技術の確立の置かれたことから、我々はそれを念頭において底魚および浮魚について「資源評価手法の確立」等に関する課題を設定し、他部門・他機関との連携協力を保ちつつ研究推進を図ってきた。また、海洋生態系の解明と保全の分野では、「沿岸域における生物群集構造の解析」や「海洋生物の遺伝的多様性の実態解明」について課題を設け、これについても他部門、他機関と協力しつつ研究を実施してきた。このようにして我々は平成10年までやってきたところである。
 このように述べてくると、八戸支所は水研の中の優等生のように思われるかもしれないが、実態はそうではない。八戸支所は平成2年度までは研究職10名を擁していたが、その後平成8年度にかけて研究員の人数が減り、現在は5名体制でなんとかやりくりしているところである。このような事情から、この10年近くの間、我々は支所に与えられた任務のうち最小限のものにしか取り組むことができないというもどかしさをいつも感じてきた。
 私は、水産行政や漁業界からの研究ニーズがどのように変化しようとも、資源研究部門が行うべき一連の研究の中で特別に大切なのが、資源のモニタリング手法の開発とそれを用いたモニタリングの実行であると考えている。資源のモニタリングがなければ資源変動機構の解明はあり得ず、資源変動機構の解明がなければ資源管理はあり得ない。幸いなことに八戸支所においては、底魚資源研究室では「底魚類の資源評価手法の開発」、「タラ類の資源評価と動向の把握」という課題においてモニタリング手法の改良を試みていると同時にモニタリングそのものも実行しつつある。また、浮魚研究室でも「多獲性浮魚類の資源評価手法の確立」という課題においてモニタリング手法の開発を鋭意努力しているところである。資源のモニタリングは長年にわたる営々たる努力の積み重ねが必要である。しかし、先導的な華々しい研究でないことから予算の確保がしばしば困難に見舞われる。しかし、これなくしては資源研究に将来はないと思う。今後も様々な工夫により資源のモニタリングが長期に渡って継続されるよう努力して行きたい。
 時代は急速に移り、世界の漁業はTAC体制下で行われるようになった。このため、最近、資源研究部門の最重要課題がABC(生物学的許容漁獲量)の算出ということになった。このような時代の要請を受けて、八戸支所の組織を近日中に資源生態研究室と資源評価研究室の2研究室に改正することになった。これは資源生態研究で得られた成果を資源評価研究室に渡し、資源評価研究の成果としてABCを算出するというこれからの資源研究の目的とプロセスを明確にするために行われるものである。この新組織において、八戸支所は従来から対象としてきた魚種に加えて、サンマ資源も研究の対象とすることになった。新組織の目的、体制および研究課題等については、組織改正後、本誌次号で述べることとしたい。
(八戸支所長)

Hideo Kouno

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