第6回PICES年次総会に出席して

伊藤進一


 1997年10月14〜26日に韓国釜山において開催された第6回PICES(North Pacific Marine Science Organization)年次総会に出席しましたので、ここに報告致します。釜山は学生のときに、一度訪問しており、今回が2回目でした。学生のときには、若気の至りで(今も若いけど)、韓国の学生と飲み比べをして、記憶をなくした思い出がありますが、今回は、公費出張そして初めてのPICESということもあり、釜山の風土さえ、違うように感じました。PICESに参加して、まず思ったのは、PICESは決して学会ではないということです。
 PICESはあくまでも政府間組織であるということを強く印象づけられました。というのも、PICESのメインは、研究発表でなく、種々の項目におけるmeetingなのです。私は、研究発表の他に、REXワークショップとモデルタスクチームmeetingに出席しましたが、もしこれらのmeetingに出席せずに、研究発表だけしていたらかなり印象が違っていたと思います。
 もともと私がPICESに出席したのは、FISとBIO committeeが共同開催した"Model for linking climate and fish"のセッションでの発表を依頼されたのがきっかけでした。セッションの内容にも興味を持ちましたし、また平成9年度科学技術振興調整費重点基礎研究「海況変動と沿岸生態系動植物群集の変動との関係の解明」の成果を発表するいい機会であったので、参加を決意しました。
 研究発表としては、1)"An estimation of spawning grounds of skipjack in the tropical western Pacific using an OGCM"と2)"Intermittent intrusion of the internal tidal waves in the Sanriku coastal bays and its relations to the offshore circulations"の2題を発表しました。前者1)は、中層トロールによるカツオの稚幼魚のサンプリング結果から、産卵場を推定したものです。このとき、海洋大循環モデルの計算結果からカツオ稚幼魚最適温度の等温度面上の流速を求め、その流速場を用いて、サンプリング点から稚幼魚の動きを逆算し、産卵場を求めました。後者2)では、三陸リアス式海岸の小湾の一つである大槌湾での逆潮現象の発生に対する沖合水の影響について発表をしました。「逆潮」とは、湾内で上層と下層の水の流れが逆向きになる現象を指しており、この現象が起きると定置網の引揚げ作業が困難になることから、漁業者の間で知られるようになったとOkazaki(1990)に記述があります。この逆潮の発生原因を調べた結果、親潮系の冷水の三陸沿岸への差込によって、湾内の水温躍層が持ち上げられたときに発生することが解明されました。この逆潮の発生に伴う、水温変化と海水交換が湾内生態系に大きな影響を与えていると考えています。以上の2題について、筆者自ら発表したほかに、共同研究として、"Cold-core anti-cyclonic eddies east of the Bussol' strait" (Yasuda I., S. Ito and Y. Shimizu)を安田氏(東大)が発表しました。
 とここまでは、普通の国際学会と何のかわりもないものなのですが、その他にREX(Regional Experiment)ワークショップとモデルタスクチームmeetingに出席しました。REXはBASS(Bas in Scale Study)同様、CCCC(Climate Change and Carrying Capacity)のプログラムの一つで、今回のワークショップでは、全体会議での各国のPICES-GLOBEC関連の研究の進捗状況の報告、分科会での各項目における討議と、その全体会議での報告という構成になりましたが、全体的な印象としては、米国を除きどの国もPICES-GLOBEC関連の予算がやっとついて、走り始めたという感を受けました。その中で、日本からは、北大のHUBECと農林水産技術会議の一般別枠研究「太平洋漁業資源」が紹介されましたが、世界的にも日本の研究進捗状況と予算規模が注目されているのを感じました。モデルタスクチームでは、今まで1年間の活動報告として、海洋物理モデルのインベントリーの作成が報告されました。このインベントリーをWWW上で公開する予定になっています。また、今後の活動として、インベントリーに生態系モデルも加えてWWW上で公開すること、米国で生態系モデルのプロセス比較実験のワークショップを開くこと、第7回年次総会に合わせて動物プランクトンまでのプロセスのモデル比較を行うシンポジウムの開催を企画すること、の3つが合意されました。両meetingでの筆者の発言は、普通の国際学会や研究打ち合わせなどに比較し、少なかったと自分でも反省しています。何故かというと、PICESの常識がわからなかったのです。PICESに初めて参加した私にとって、PICESの中で皆が目指すもの、それに対する日本の取るべき態度が整理されていない上に、さらに一科学者として取るべき態度と水産庁に所属しているものが取るべき態度の区別への迷いがありました。今まで、参加した国際学会はすべて一科学者として、自分のそして水産研究所の成果を発表すればよいだけでしたが、PICESではそれ以上の重圧を感じました。その中で、私にかけていたものは、PICES-GLOBECという大きな組織の常識と流れであったと思います。これだけ情報の氾濫している世の中で、すべての情報に耳を傾けるのは困難と思いますが、それでも、重要なものを取捨選択し、常に流れを掴んでいる必要があると強く感じました。入省してから2年半、背伸びを続けてきたと思いますが、まだもう少し背伸びが必要かと反省させられました。
 最後になりましたが、このような若輩者の私に取って、水産庁自らPICESに本部を開き、重要な議題に対し常に注意を払う体制ができていたことは、非常に心強いものでした。事務局長の玉井さんを始め、多くのアドバイスを頂いた皆様に感謝の意を述べて、報告を終わりたいと思います。
(海洋環境部海洋動態研究室)

Shin-ichi Ito

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