Symposium "Physical-Biological interactions on variability of fisheries resources"報告

伊藤進一


 1997年12月16〜19日に米国ハワイにおいて開催された表記シンポジウムに参加しましたので、ここに報告致します。このシンポジウムは、NMFS(National Marine Fisheries Service)のJeffrey Polovina博士と筆者が、共同で開催したもので、狙いは魚類資源変動を物理−生物相互作用の観点から解明しようというものです。Jeffrey Polovina氏は、もともと数学分野の出身であり、統計学の知識をもとに、資源変動の研究をしてきました。しかし、彼の研究はそこに留まらず、長期海洋環境変動と資源変動の関係に発展し、その研究成果は世界的に高く評価され、Best Paper Fishery Bulletinに4度輝いています。最近の彼の研究では、TOPEX/POSEIDONという海面の高さを測る衛星データから海面流速を算出し、ロブスターの幼生の移動を追い、幼生の移動過程から資源変動を説明しています。カツオの産卵場推定を海洋大循環モデルを用いて行っている筆者とPolovina博士の研究スタイルは非常に似ており、両者の話合いから、もっと物理−生物相互作用の面からの研究を広めようという合意に達し、このシンポジウムの開催へと結びつきました。
 このシンポジウムでは、2日間を研究発表にそして将来の共同研究についての打ち合わせに2日間をあてました。シンポジウム及び研究打ち合わせには、NMFS,ハワイ大学を中心とした米国研究者に加え、日本からは栗田 豊,清水勇吾両研究員(東北水研)と柏野氏 (JAMSTEC),美山氏(京大)などの参加がありました。
 シンポジウムは、終始、友好的な雰囲気の中進められ、多くの成果があったと確信しています。その中から、幾つかのトピックスをあげておきます。まず、カツオ標識放流結果について小倉室長(東北水研)と共同研究をしているSibert博士によって、カツオ回遊が北緯15°を境に南北でかわるという結果が示されましたが、筆者のカツオ大回遊モデルの結果と一致しており、筆者のモデルの中で回遊を決めている「水温の低い方向へカツオが泳ぐ」という仮定が注目されました。また、アーカイバルタグを用いて、カジキマグロ等の回遊の研究を行っているBoggs博士から、アーカイバルタグのデータを水上に送信するシステムが完成しており、筆者の構想の一つであるリアルタイムタグ計画(アーカイバルタグのデータを海表面ブイに転送し、衛星回線を通し、リアルタイムで陸上にデータを転送するシステム)が実用化可能であるとの判断を受けました。さらに、東北水研の栗田,清水研究員からサンマ資源変動に関する発表がありましたが、日本のデータ量の多さと、定期観測の充実ぶり、そしてそのデータを活かした研究に、高い評価が集まっていました。
 総じて言いますと、米国側は衛星データの利用やアーカイバルタグなどの測器開発の面でリードしており、逆に日本側はデータ量,定期観測によるモニタリングシステム,魚類モデルの開発などでリードしており、相互の協力があれば、より一層充実した研究が行えるという感触を得ました。今回シンポジウムに参加した研究者は皆友好的で、今後、このシンポジウムを機会に共同研究に発展することを期待しています。すでに、3月にはPolovina博士を東北水研に招へいすることになっております。最後になりましたが、本シンポジウムの開催に尽力して頂いたPolovina博士,Hacker博士に感謝の意を示すとともに、外国出張の際にいつもお世話になっている企画連絡室と水産庁研究指導課の皆様に感謝の意を表し、報告を終わりたいと思います。
(海洋環境部海洋動態研究室)

Shin-ichi Ito

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