黒潮,親潮および混合水域において擬似現場測定により得られた光−光合成曲線

横内克巳・友定 彰・松尾 豊


 海洋の基礎生産は,漁業資源を支える生物生産の出発点として水産学的に重要であり,また,その主な担い手である植物プランクトンが海洋表層の有光層において光合成により二酸化炭素を吸収することから,地球温暖化に関わる炭素循環を明らかにする鍵となる分野である.本研究は,東北海域において植物プランクトン現存量から基礎生産量を水域別に算出するための予備実験として,溶存酸素法により光合成速度を測定して,光−光合成曲線を求め,その季節変動特性を水域毎に検討したものである.1990年3月から1995年1月までの期間に東北海域の47測点において得られた光−光合成曲線をに示す.ここでは,クロロフィルa1μg当たりの酸素総生産量(GPB)と光合成有効光量子量との関係で表した.光−光合成曲線のパラメータは,各測点における測定結果からシンプレックス法を用いて求めた.最大光合成速度Pmax(μgC/l/hr)は,クロロフィルa濃度と同様な季節的変動傾向を示し,春と秋に高く,冬と夏に低かった.
 クロロフィルa濃度とPmaxとの間には,水域毎に有意な正の相関関係(P<0.05)が認められ,親潮水域,暖水域および冷水域で同様な回帰直線が得られたが,黒潮水域では傾きが小さかった.同化数PmaxB(mgC/mgchl/hr)は2.75〜15.71の範囲にあり,季節的には夏に最も高く,Pmaxの季節変動傾向と異なった.同化数は,親潮水域および暖水域において水温との間に有意な正の相関(P<0.05)が認められた.立ち上がり勾配αB(×109mgC・m2/mgchl/quanta)は,0.63〜128の範囲で大きく変動し,季節変動は暖水域において認められ,1月と3月に大きく変動した後,5〜10月に減少する傾向があり,春季増殖の前後で大きく変化した.強光阻害βB(×109mgC・m2/mgchl/quanta)は,ほとんどの測点において0.49以下であり,植物プランクトンが天然光下で強光阻害を受けずに光飽和状態にあったと考えられる.
 海域全体の基礎生産量を見積もる方法はいくつかあるが,クロロフィルa濃度から基礎生産量(光合成速度)を算出するためには,クロロフィルa重量当たりで表された光−光合成曲線が水域別に求められなくてはならない.今後は,立ち上がり勾配や最大光合成速度に焦点を絞った簡便な標準測定装置を開発することによって,通常のルーチン項目として観測を展開し知見を蓄積する必要がある.
(業績番号:553A)
横内:海洋環境部 生物環境研究室
友定:海洋環境部長
松尾:海洋環境部 生物環境研究室長

Katsumi Yokouchi,
Akira Tomosada,
Yutaka Matsuo

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