エゾアワビの種苗生産技術体系とその基礎となる生物学的研究

關 哲夫


 エゾアワビは,日本のアワビの漁獲の約半数を占め,毎年2,000トン以上漁獲される重要な磯根資源であり,種苗の人工生産と放流による増殖が行われている.しかし,漁獲は年々減少し放流の効果は必ずしも明らかでない.このため,アワビ種苗生産の技術水準を体系的に改善して種苗の質の向上を計ることなどが求められている.
 本研究は,受精直後から浮遊期,着底期,底棲期の段階について,形態上の特徴,行動生態および餌料藻類との相互関係を明らかにし,これらの知見を応用して種苗生産技術に必要な条件を以下の通り体系的に明らかにした.
 エゾアワビが受精してから被面子幼生としての形態を完成するまで外部形態上の特徴を観察し,発生段階を外部形態の特徴から判定して必要な処理を必要な段階に行なうことを可能にした.これにより,浮遊期の減耗要因をほぼ完全に取り除くことができた.
 水温と発生速度の関係を求め,初期発生期の生物学的零度はエゾアワビでは 7.6℃,クロアワビ,マダカアワビでは,8.5℃および9.0℃であることを明らかにした.これらの発生段階に達するまでの所用時間と水温の近似式に基づき,水温を調節して必要な処置を昼間に行なう作業の工程化を可能にした.
 被面子幼生が基質に接触してから底棲期の初期形態を備えるまでの間に12項目の形態上の変化と,探索,着底,定位の各行動を示すことを明らかにした.この結果,幼生を着底基盤に接触させるべき時期を正確に予測して着底させることが可能となった.
 エゾアワビ被面子幼生は,アワビ属の匍匐粘液に属特異的に着底すること,および,藻類の群落をアワビが摂食した跡も強い着底誘起効果を持つことを明らかにした.この結果,幼生を短時間に付着させる採苗技術が確立した.
 アワビの餌料板上に一層に繁殖する藻類群落はアワビの摂食下で増殖し,この藻類の摂食跡はエゾアワビの着底・変態を誘起すること,変態後の稚貝の生育には飼育板上に立体的に繁殖する藻類が重要であることを明らかにした.この結果,着底誘起作用をもつ基盤を稚貝の飼育の過程で創生し,着底稚貝の良好な成長を計る人工採苗技術を可能にした.
 過剰の銅および亜鉛イオンは,エゾアワビの精子,卵子の受精能力を失わせ幼殻の形成を阻害することを明らかにした. 銅イオンは50μg/L以上,亜鉛イオンは100μg/L以上でエゾアワビの発生を阻害することを示した.
(業績番号:548A)

参考資料

採取方法が異なるエゾアワビ粘液の着底誘起効果

エゾアワビの後期被面子幼生と浮遊生活から底棲生活への移行

資源増殖部 藻類増殖研究室長

Tetsuo Seki

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