サンマの繁殖生態に関する基礎的研究:卵・精子の微細構造

原 政子、栗田 豊、渡部諭史、渡邊良朗、沖山宗雄


 日本産海産魚類の繁殖生態に関する基礎的研究の一環として、電子顕微鏡を用いてサンマの未受精卵と精子及び精子変態過程の細胞の微細構造を明らかにした。
 未受精卵は、長径1.8mm、短径1.2mmの楕円形纏絡卵で、動物極側に約20本(基部の太さ10〜15μm)の付着糸が集合し、これらとほぼ直角の位置に一本の付着糸(基部の太さ26μm)が伸長していた(図1)。卵門は付着糸に囲まれた動物極の中央に位置していた(図2)。卵門の開口部は直径9μmでやや隆起し、卵門管は開口部の直下で一旦内径を増し、内部に向かい緩く渦巻きながら細くなっていた。卵膜は内外2層の構造で8.5μmの厚さであった。
 精子の全長は平均42.3μmで、頭部は釣鐘型で内部の核内顆粒は点状に濃縮していた(図3)。鞭毛は頭部の終末から伸長し、軸糸構造は9+2型の一般的な構造であり、その周りには波動膜が観察された。鞭毛の基部にミトコンドリアが輪状に取り巻いて中片部を形成していた。
 以上のような観察結果から、サンマを含むダツ目魚類卵は、纏絡卵や多様な形態の付着糸を持つものが多く、サンマ科 Scomberesocidae(Cololabis,Scomberesox, Nanichthys, Elassichthys)の4属では、サンマ属(Cololabis)のみが長い付着糸を持ち、他の3属とは異なっており、それらは系統的関係よりも、生態的特性を反映していると考えられた。
 また精子について、既往の報告を含めてダツ目5種の精子頭部と比較すると、メダカOryzias latipes、トビウオの一種 Fodiator acutus、卵生サヨリの一種 Arramphus selerolepisが球形であるのに対して、胎生サヨリの一種Hemirhamphodon pogonognathusは細長くへら状に特化していたことから、ダツ目精子の頭部形態は多様化しているが、サンマは2つのタイプの中間的な特徴を持っていると考えられた。

原、渡部、渡邊、沖山:東京大学海洋研究所
栗田:資源管理部 浮魚資源第一研究室

Masako Hara,
Yutaka Kurita,
Satoshi Watanabe,
Yoshiro Watanabe,
Muneo Okiyama
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