谷口和也

現所属東北大学教授農学部(生物海洋学講座)(平成8年6月1日〜)
前所属東北区水産研究所 増殖部(後に資源増殖部)(昭和51年11月)
東北区水産研究所 資源増殖部 藻類増殖研究室長(昭和63年6月)

 平成8年6月1日付けで東北大学農学部へ転任いたしました。水産研究所在任中は、東北ブロックの水産試験場はじめ関係機関の皆様、漁業協同組合の皆様、並びに研究所の先輩・同僚諸兄には暖かいご指導ご鞭撻を賜り、心から感謝申し上げます。海に浮かぶ島々には松がよく似合っています。四季折々の美しい景観を見せる松島湾を眺めて暮らした日々が今はとてもなつかしく、貴重な経験をさせていただいたと思っております。
 陸上の景観が植物たちの姿によって決められているように、海中の景観も海の中の植物海藻や植物プランクトンによって決められています。それは、通常低次生産と呼ばれる海藻や植物プランクトンが太陽エネルギーを用いて生産する有機物によって地球上すべての動物の生活が支えられていることと無縁ではありません。でありながら、あるいはそれ故に、植物は動物にとって単に餌や棲み場としてしか理解されてこなかったような気がします。海の中の植物は、30億年ほどまえに炭酸ガスを吸収し、酸素を大量に放出することによって現在の地球環境を形造ったにもかかわらず。
 植物は動物に食われるために、あるいは棲み場を提供するために生まれてきたのではありません。私たちヒトがそうであるように、彼らもまた自らを維持、繁栄させるために様々な努力をしていることを理解すべきです。沿岸岩礁域においては、海中林は親が少ないところに子ができるというギャップダイナミクスによって地球上最高の生産力を維持していますし、食う−食われるの関係ばかりでなく、海藻が生産する化学物質によるケミカルシグナルによっても、海藻と海藻、海藻と海藻を食う動物(植食動物)、さらにそれらを食う魚など高次の捕食者を含めて密接に結びつき、固有の生態系を構成しています。海藻やプランクトンが持っている生存のための努力を明らかにする研究をより一層押し進めるべきであると思います。
 生態系は、それを構成する種固有の生存のための努力、相互のせめぎ合い、あるいは助け合いの複雑な絡み合いの結果安定的に維持されています。その仕組みを明らかにすることが安定した漁業生産を持続させるために必要です。このことは、地球温暖化が現実のものとして危惧される現在、個別の生態系研究にとどまらず、人間活動、陸域、大海洋、気象などを含めた地球的視野に基づいた学際的研究を構築すべきことを教えています。
 このような視点は、環境収容力を理論的基礎とした「マリーンランチング計画」を経て生存戦略を中心に据えた生態系研究である「バイオコスモス計画」の中で教えられ、培われました。私は農林水産省の中で育てられたことに深く感謝するとともに、大変誇りに思うものです。若い研究者の活躍に期待しています。
 今後は、大きな可能性を秘め、未来を造る学生たちが自分たちと同様に多様な個性を持つ生物の姿、健全に維持される生態系の生き生きとした姿をできるだけ理解するよう最大限の協力をしていきたいと思いますし、自然に対して豊かな感性を持った若い仲間として社会にどんどん送り出したい、と決意しています。
 今後とも、ご指導、ご協力のほどどうぞよろしくお願いいたします。
Kazuya Taniguchi

目次へ