カツオはどこからやってくるの?

田邉智唯



 カツオは太平洋の熱帯域から温帯域にかけて広く分布し、季節的に数千キロもの大回遊をする高度回遊性魚類の一つとして知られています。その漁獲量は、太平洋全体で年間100万トンを越えており、まき網や竿釣りなどの漁業により多くの国々が漁獲対象としています。日本近海では、太平洋岸の各地方沖に春頃から来遊し、その主体となる群がいわゆる「初ガツオ」として市場に出回っています。
 ところで、この「初ガツオ」たちはいったいどこで生まれ、どこで成長し、どこを通って日本にやってくるのでしょうか。残念なことにこれまでの研究では、これらの疑問に答えるには多くの謎が残されていました。その代表的な一つがカツオの稚魚期から幼魚期にかけての生態です。そこで浮魚資源第2研究室では、1992年度より「南方海域におけるカツオの初期生活史の解明」と題して、これらの疑問に対する答えを見出すべく研究を開始しました。

本研究の目的は、以下の3点にあります。

  1. 中層トロール網を用いたカツオ稚・幼魚の採集法を確立する。
  2. カツオの初期生態の解明を図る。
  3. 定量採集によりカツオの資源評価のための基礎情報を提供する。

 そして、本研究の中核をなすのが「西部太平洋熱帯水域におけるカツオ稚幼魚の分布調査」です。これまでパラオ共和国とミクロネシア連邦共和国による国際的支援と調査船但州丸および青海丸の技術協力のもと、毎年10月下旬から12月中旬にグアム島を中心としたパラオ・ミクロネシア周辺の熱帯海域において、カツオ稚・幼魚の分布調査を実施してきました。1995年度までの4年間で合計402回のトロール曳網を行った結果、6143個体ものカツオを採集することができました(参照)。
 標本の体長は7mm〜172mmと幅広く、生活史では稚魚期に入った段階から幼魚期に及んでいます。これまでの報告によれば、カツオの稚・幼魚を直接大量に採集した例はなく、今回の結果により長い間どこにいるのかさえ確認されていなかったカツオの稚・幼魚が、ようやくその姿を明かし始めた感すらします。
 また、稚魚期から幼魚期における生態に関しても、新たな知見が蓄積されつつあります。分布水域は、南北および東西のきわめて広い範囲にわたっており、親魚の産卵場の広さを反映しているものと考えられます。ただし、調査水域内のどこにでも一様に分布しているのではなく、年によっては分布域に明らかな偏りが認められました(参照)。4年間の調査結果を総合してみると、カツオ稚・幼魚は北緯11度より南、すなわち北赤道海流域の南部から北赤道反流域に多く出現しました。したがって、この海域が少なくとも10月から12月にはカツオの稚・幼魚の重要な成育場であることが確認されました。
 鉛直的には、カツオは0mから200mまでの範囲で出現しました。主な分布水深は、カツオが40-100mであったのに対し、マグロ属は0-60mと浅い傾向が認められました。この差異は過去の報告によれば仔魚期にも同様の傾向があり、両者の生態的差違を反映しているものと考えられます。CTDによる水温観測結果から、カツオの出現水温が主として20−27℃であるのに対し、マグロ属では主に26-29℃でした。したがって、カツオはマグロ属に比べて稚・幼魚期における適水温範囲が広いものと考えられます。
 本研究は、現在さらに詳しいデータを得るための調査を継続しつつ、稚・幼魚の分布特性に関するデータ解析と標本を使った耳石解析試験等を中心に進めています。これらの結果が出てくることにより、これまで未知であったカツオの稚魚期から幼魚期における分布と海洋環境との関係や初期の生き残りおよび成長が明らかになっていくものと考えられます。カツオの生活史を解明することは、資源の動向を把握するためにきわめて有意な基礎知見となります。現在、国際的にみてもカツオだけでなく多くの魚種において正確な資源評価を行う必要性が高まってきており、そのためには基礎的な生物情報の蓄積が急務となっています。今後このような情勢も踏まえながら、「カツオはどこからやってくるの?」という素朴な疑問に対して明確に答えることができるようカツオの生活史の解明を図りたいと考えています。

資源管理部 浮魚資源第二研究室

Toshiyuki Tanabe

目次へ