研報58掲載論文の紹介

東北海区水温等値線図の新しい作成方法について

−不規則分布点より等値線図を描く方法−

清水勇吾・伊藤進一



 東北水研海洋環境部では毎月の東北海区の水温等値線図を作成し、各種予報会議などに活用している。従来は、研究者が手描きでこれらの水温図を作成してきたが、描く人によって図が異なる(主観が入る)こと、時間・労力がかかること、などの問題があった。水温図作成に計算機を導入することは、水温データの客観解析を行うためや迅速なデータ処理のために必要不可欠と考えられる。現在、統計学的に最も有効な内挿法としては「最適内挿法」があるが、この手法を用いる場合には空間的な相関スケールが既知である必要があり、東北海区水温図には即導入できない。
 本研究では、海洋学でよく用いられる数値フィルターの一つである「ガウシアン内挿法」を改良した「可変型ガウシアン内挿法」を開発し、観測密度の疎密が激しい東北海区のデータ収集状況に合うようパラメタライズした。この新しい方法は、観測密度によって変化する内挿水平スケールを用いたガウシアンフィルターによって格子点の内挿値を求め、見たいスケールの海洋現象を抽出する方法である。
 図1に本アルゴリズムによって描かれた水温図と従来の手描き水温図の一例を示す。両者を比較すると、大まかなパターンは合っているが、極値水温などに違いが見られる。これは本アルゴリズムが手描きの方法と違い、平滑化した格子点データセットを作ることが原因である。誤差の検証を行った結果、本手法の丸め誤差・予測誤差は1℃前後で、箱型平均や単純ガウシアンより精度が高かった。この方法によって、複雑な東北海区の海況を箱型平均法や単純ガウシアン法より上手に表現できる。
 まだ解決すべき課題が残っているが、本手法によって格子点水温データセットを作ることは、今後様々な定量客観解析に利用できるほか、ネットワークを用いた水温図の迅速な流通などにも利用できることが考えられ、今後の東北海区の海洋研究の発展に期待ができる。

(業績番号:537A)

清水勇吾,伊藤進一:海洋環境部 海洋動態研究室
Yuugo Shimizu
Shin-ichi Ito

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