研報58掲載論文の紹介

II 動物プランクトン生物量と橈脚類の群集構造

小谷祐一・黒田一紀・瀧 憲司



 東北区水産研究所資源管理部漁場生産研究室と東北大学農学部生物海洋学講座が,1993年4月から1994年2月に「宮城県女川沖におけるツノナシオキアミとその生息環境に関する共同調査」を実施した。本報告では,動物プランクトン生物量と橈脚類の群集構造の季節変化について明らかにした。
 調査期間中において,サルパ類やクラゲ類を除いた動物プランクトン生物量は,いずれの定点においても4月に最も高い値を示した。そして,6月に急激に減少した後は漸減し,12月に最も低い値を示した。翌年2月には,いずれの定点においても増加した。動物プランクトン生物量の構成比において,サルパ類が優占した12月のSt.11を除いて,橈脚類はその22〜92%を占めていずれの季節および水深においても優占した動物群であった。
 また、橈脚類群集の季節変化について模式図に表した。すなわち,春季には沿岸性種が表層域においてその分布域を拡大するとともに,底層からの親潮系水の張り出しによって外洋性・冷水性種が沿岸域に運び込まれる。夏季から秋季にかけて,表層域において黒潮系水が沖合から沿岸に張り出して外洋・暖水性種が沿岸域の表層に分布するようになり,沿岸・冷水性種の分布域が縮小する。しかし,底層には外洋・冷水性種が生息する。晩秋から冬季にかけての鉛直混合により,沿岸・冷水性種,外洋・暖水性種,外洋・冷水性種による混合群集が形成されるが,Metridia pacificaを除く多くの外洋・冷水性種が消滅する。その後,休眠卵から孵化した沿岸・冷水性種の加入,底層からの親潮系水の張り出しによる外洋・冷水性種の沿岸域への搬入が始まるものと推察された。

(業績番号:536A)


小谷祐一:南西海区水産研究所
黒田一紀:八戸支所長
瀧 憲司:資源管理部 漁場生産研究室


Yuuichi Kotani
Kazunori Kuroda
Kenji Taki

目次へ