「第7回有毒プランクトン国際会議」に参加して

山崎 誠



 標記の会議が昨年7月の12日から16日まで、仙台市の市民会館で開催されました。私たちの研究室の研究課題である「貝毒」と大いに関連する分野の国際学会がすぐそこで開かれるということで、増殖漁場研究室のスタッフはもちろん、わが東北区水産研究所から総勢9名が参加しました。会議の概要などを紹介しながら、貝毒に関連する有毒プランクトン研究の現状に触れてみたいと思います。

この国際会議の歴史

 私自身は「貝毒」に係わってまだ4年に満たない状況で、この会議の歴史やこれまでの内容について詳しいことを知りませんので、第1回から第6回までの会議のタイトルや開催年・場所などのを示しました。

 この国際会議で発表された内容は、時々のプロシーディング(会報)として書籍の形で公表されています。これまでのプロシーディングを見ると、その時その時の研究の焦点やレベルが判ります。
 ところで、「有毒プランクトン」と言われるものには、赤潮になるほど増え、魚や介類(エビやカニ、貝類など)の生息環境に悪い影響を与えたり、これらを直接殺したりするものと、魚や介類に食べられて、その体内に毒を残し、この毒が更に人間に害を与えるものとがあります。
 これまでの会議では、@赤潮や貝毒の原因になっているこの有毒プランクトンに直接係わること(大量発生と被害の事例や、水温や栄養塩とプランクトンの成長の関係を室内培養で明らかにしたり、野外で出現した有毒プランクトンの数の増減と環境条件の関係を論じたプランクトンの生理・生態に関すること)やAプランクトンや魚介類の持っている「毒」に関すること(プランクトンや魚介類から抽出したものをマウスに注射したり機械にかけて、毒の強さや成分を知り、魚介類の体内で毒がどんな状態で存在しているかを知るといったことや、この毒の分析方法の長所や短所・改良点を論じたものなど)について、多くの研究発表があったようです。
 今回の国際会議でも、これらの分野の発表が中心的でした(これらの分野は、専門的に細かく分けられてきていますが・・・・)。

「第7回有毒プランクトン国際会議」

 東北大学農学部の生理活性化学講座のスタッフ(安元 健教授・大島 泰克助教授ら)が、貝毒成分の構造決定などで国際的にも評価の高い研究を手がけておられ、この講座に国際会議実行委員会の事務局を置いての取り組みとなりました。
 今回の会議には、海外35カ国から154人、国内から130人の参加がありました(実行委員会からの公式発表)。アジアで初めて開催された会議に相応しく、日本を除くアジア10カ国から43名の参加があったそうです。研究発表の数は口頭発表60題ポスター発表155題などで、活発な討論が行われました。
 貝毒に関連した植物プランクトンの分野の研究発表では、麻痺性貝毒の原因プランクトンの一種であるAlexandrium tamarenseの出現と沿岸の海水の流れや河川水との関連に注目した発表が、北海道の噴火湾(ポスター発表)からのものの他に、南米ウルグアイやアメリカの東岸からもあり、それぞれの地方でどんな風にプランクトンの発生や数の増減を予測する方法を考えているのかを興味深く聞けました。
 また、プランクトンとバクテリアの共生についての北里大学の発表やバクテリアの作る毒の分析に関するイギリスの若い女性研究者の発表も、貝毒の起源をバクテリアに求める考え方を知る上で印象に残りました。
 さらに、東南アジアの国々では赤潮や貝毒による被害が増えており、市販の二枚貝などからも危険値以上の毒が検出されたり、人が死んだりしている中で、プランクトンの把握や毒成分の分析に熱心に取り組んでいる研究者の発表に、何か力になれることはないかと、使命感のようなものを感じさせられました。
 このほか、EUの結成に伴って、加盟各国の貝毒の分析手法を統一させようとの意図から、各国で採用されたり、これまでに明らかになっている様々な分析手法の評価を行った発表(これも女性でした)も、機械を使ったいろいろな分析方法に対する長短を知る上で印象的なものでした。

有毒プランクトンと貝毒

 現在、植物プランクトンが原因で起こる貝毒として、研究者の間で名が知られているものには、4種類があります。
 日本でも出現する下痢性の貝毒(下痢や腹痛を伴うもの)と麻痺性の貝毒(唇や手足の痺れを伴い、症状が酷くなると呼吸困難から死に至るもの)の他に、記憶を一時的に失わせるもの(酷いときには死に至る)と皮膚の知覚異常(痒みやチクチクがある)や手足の運動失調を伴う神経性のものの4つで、それぞれ何種類かずつ原因のプランクトンが明らかにされています。
 まだ、自然界のプランクトンそのものを操作することは困難ですので、その土地土地でプランクトンを食べた二枚貝や魚などの毒を測定・分析して、人間への被害を最小限度にくい止めるための対策を講じたり、貝毒の原因になるプランクトンの種類を明らかにして、その発生状況から貝毒の出具合を予測したり、人に害を与える機構や貝の体内での毒の働きを明らかにして、毒化を防ぐ方法を考えるなど、研究分野は多岐にわたっています。

国際会議の雰囲気

 東北・北海道ブロックの水産試験場や大学の研究者を始めとして、日本各地からの発表がたくさんありました(主に、ポスター発表でしたが)。日本語で討論できると思うと、少し気持ちが楽になります(勉強という点では少しマイナスですが)。
 この会議の印象的な雰囲気として際立っていたのは、これまでの紹介でお気づきかと思いますが、「女性の参加者・発表者の多さ」でした。口頭発表の他に、座長や会場からの質問者など、若手からおばさん(失礼)まで、とても活発な雰囲気で会議を盛り上げている様子が印象的でした。それから、国内の研究者で、水産庁の事業に絡んでいる大学や水産試験場の研究者の他に、「こんな人達も、関連しているんだ」と思わせる所からの発表(都立衛生研究所や埼玉の癌中央研究所など)のあったことも印象に残りました。

エクスカーションにバンケット

 さて、国際会議での楽しみの一つに、エクスカーション(小旅行)とバンケット(宴会)があります。国際会議中日の14日午後には、バスを仕立てて日本三景の一つ「松島」にエクスカーション、夜には仙台市内の「勝山館」でバンケットが催されました。
 エクスカーションでは、瑞巌寺の杉並木や“お薄”を楽しみましたが、行き帰りのバスの中で、アメリカやオーストラリアからの参加者と情報交換(オーストラリアの企業の参加者は、タンカーのバラスト水によってアジアや日本から有毒プランクトンが運ばれてくることに神経を尖らせているようでした。)が出来ました。バンケットでは、97年開催予定のスペインからの参加者や99年開催が決まったタスマニアの女性研究者などと同席でき、顔見知りになることが出来ました。バンケット終了後、帰りのバスの中で、「“カラオケ”に連れて行け」と催促され、外国人を20〜30人も引き連れて、アーケードをうろうろしたのも、良い記念になりました(人数が多すぎて、お目当てのものには行き着けませんでしたが・・・・)。

実行委員会

 このような国際会議を開催する上では、スポンサーが不可欠です(名前を連ねて貰って権威を高めたり、実際に経済的な援助を受けたりと、いろいろですが)。会議の事務・連絡費や会場費、外国からの参加者への旅費の補助や印刷・出版費など、一人35,000円の会費だけでは賄いきれず、国内の地方自治体や水産関係の諸団体・企業に賛助金を募り、赤字を出さないよう、実行委員会には大変なご苦労があります。また、国際会議終了後も、事後報告の作成やらの残務処理からプロシーディングの発行に向けた段取りなど、実行委員会の下に、大変な事務作業があったようです。まだまだ、継続中のようですが・・・・。
 今回の国際会議には、文部省や厚生省とともに、水産庁も「後援」し、実行委員会には、前南西水研赤潮環境部長本城凡夫さんや前東北水研資源増殖部長三本菅善昭さんが名を連ねられ、会議の成功にひと肌もふた肌もご尽力されたようです。
 さて、参加者は、次回1997年、スペイン大西洋岸ポルトガル国境から北へすぐの街、ビゴ(Vigo)での再会を約して、京都でのポストコンフェレンス(国際会議に参加した人達を中心としたミニシンポ)やそれぞれの任務へ戻って行かれました。

(資源増殖部 増殖漁場研究室長)

Makoto yamazaki

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