若鷹丸の機関

種市敏彦


1.機能と特徴(機関写真


(1)機関発生音の低減化
 今後21世紀に向けて漁業調査・研究に最も重要な調査機器となることが予想される音響機器の精度向上のため、騒音、振動及び水中放射雑音の低減化を図る必要がある。
 このことを実現させるために、機関、空調機、冷凍機、ポンプ類等の騒音発生源、振動発生源については低騒音型機種が採用されるとともに、騒音、振動の低減に有効と考えられる機器には全て防振支持が施され、かつ、これらの機器への配管は全て防振管継手と防振支持が施されている。また、機関室、バウスラスター室、空調機室、ソナースペース等には大量の制振材が施されるなど、騒音、振動及び水中放射雑音の低減化のために十分な対策が施されている。
 また、プロペラのキャビテーションノイズが音響機器にあたえる影響をできる限り減らすために、キャビテーションの発生が最小限になるようにCPP翼角(Controllable Propeller Pitch)及び回転数が設計・設定され、音響機器の精度向上のための振動・騒音の大幅な低減化が図られている。
(2)省力化と自動化
 航海船橋甲板の統合管制室に、航海・機関・無線・漁撈・観測等の諸設備が配置された高度機能集約型船橋システム(IBS)が採用され、機関部はその機関制御区画において機関当直を行うことになった。同区画には、主機の発停を含む各種の機関遠隔操作が行えるコンソールが装備され、2名の機関部当直者により諸制御作業を行っている。
 なお、本船は、JG「機関区域無人化船」に適合するとともに、NKのM0(エムゼロ)に準じ、各部にわたり大幅な自動化、省力化、遠隔操作化が図られると同時に、そのためのモニタリング装置及び安全装置が備えられている。
(3)機関制御方式
 主機関、発電機及び主要補機などの関連機器を総合的に最適制御し、効率的な運航モードを可能とするスタンバイシーケンスによる統合制御システムが装備されている。
 このシステムにより、機関及び推進装置については、調査・観測あるいは漁撈作業時において、長時間にわたる微速航行、円滑で広範囲の速度制御、迅速な前後進切り替え等の高度な操縦が可能になっている。
 機関操縦装置にはデーターロガーが装備され、統合管制室の航海コンソール、機関制御コンソール及び機関室内の機側操縦盤において監視及び制御が可能となっている。また、配電盤区画においても監視及び一部制御が可能である。
(4)タンク制御
 水及び油の各タンクは、統合管制室及び配電盤区画にて集中制御操作でき、リアルタイムでモニタリングしながら水、油の注排・移送を行うことができる。
 雑用清水、飲料水及びサニタリー水は、自動発停装置を装備したポンプと圧力タンクにより供給され、飲料水系統には殺菌装置が装備されている。
 船体付燃料タンクから船体付燃料油サービスタンクへの移送は、燃料油サービスポンプによって行なわれ、燃料タンク間の移送には燃料油移送ポンプが使用される。
(5)保守整備及び予備品管理
 船内に装備された機器の保守整備及び予備品管理の効率化、省力化を図る為に、機関部及び甲板部共に「保守整備支援システム」及び「予備品管理支援システム」が装備されている。

2.主要機器の概要

(1)推進装置(写真
 推進装置は、2機1軸中速ギヤードディーゼル主機関、電子制御クラッチ組込み型減速機及び可変ピッチプロペラ一式が装備されている。
 推進装置の制御は統合管制室の機関制御コンソール及び航海コンソールから遠隔にて行うことができ、各種操船モードに応じてあらかじめ定められたシーケンスに従って機関部統合制御システムにより制御される。
(2)統合制御システム
 このシステムは、統合管制室機関制御区画に装備された機関制御コンソールにて制御することができる。操船のための各種モードは、「停泊」「スタンバイ」「航海」に分けられ、特に「航海」モードは主機関2台を推進用と油圧ポンプ駆動用とに使い分け、いろいろな組み合わせによる選択使用が可能になっている。このシステムにより大幅な省力化が図られている。
(3)付加機能
 推進装置には、自動負荷制御装置(ALC)及び自動速度制御装置(ASC)並びに回転、翼角のコンビネーター制御装置が装備され、設定及び解除は統合管制室機関制御区画にて行う付加機能が装備されている。

3.主機関及び減速機の主要目

(1)主機関:要目
 機関は、防音対策が施されるとともに、防振ゴムを介して船体に取り付けられている。
(2)減速機:要目
 減速機は、防音対策が施されるとともに、防振ゴムを介して船体に取り付けられている。
 この減速機に油圧ポンプ駆動装置が装備され、観測機械及びバウスラスタ駆動用の4台の油圧ポンプを一定回転数で運転するためのすべり装置付油圧クラッチが装備されている。油圧ポンプはどちらの機関でも駆動でき、プロペラ軸が停止中でも使用可能の構造となっている。
(3)プロペラ軸
 プロペラ軸は、コンビネータハンドルにより、予め設定されたCPP翼角と主機回転数に合わせて軸回転数が定められている。
 すべり装置付油圧クラッチによる運転の場合、40〜255rpmの回転が任意に得られ、音響機器の観測等に有効である。
 プロペラ翼は、船体形状に適合した効率のよいものが採用され、静的、動的バランスが良好で、有害なキャビテーションが発生しない形状となっている。
(4)推進器:要目

4.バウスラスター装置

 本船船首部に、油圧駆動バウスラスター装置が1基装備されている。

5.発電装置

 発電装置は、一般電力給電用として主ディーゼル発電機2台が装備され、機関部配電盤区画及び統合管制室の機関制御コンソールにおいて遠隔にて発停できる。また非常用発電機1台が装備されている。
 主発電機は、負荷変動に応じて発電機の待機、停止及び並列運転等を自動で行うことが可能である。
(1)主発電装置
@主発電機関要目
A主発電機要目
(2)非常用発電装置
@非常用発電機関要目
A非常用発電機要目

6.補助機器類

(1)油圧装置
 油圧装置は、観測ウインチ・トロールウインチ・バウスラスタ駆動用の主機関駆動油圧ポンプによる1系統と、揚錨装置・船首係船機・バウスラスタ扉開閉用、船尾係船機・ハッチ扉・起倒式舷檣・CTDクレーン駆動用、船尾クレーン駆動用の3系統の電動油圧ポンプによる計4系統が装備されている。
(2)冷却装置
 機器の冷却は、腐食等に対処するため清水による分割式セントラルクーリング方式が採用され、セントラルクーラー3台(低温2台・高温1台)、冷却海水ポンプ、高温冷却清水ポンプ(機付)、低温冷却清水ポンプが装備され、主機関、減速機、主発電機関、空調装置、冷凍機(糧食庫用及び標本庫用)、油圧装置等の冷却が行なわれている。
(3)空気圧縮装置
 機関始動、雑用及び制御圧縮空気装置として主空気圧縮機2台、主空気槽2基、手動式補助空気圧縮機1台及び補助空気槽1基が装備され、制御空気及び雑用空気はそれぞれ主空気タンクより供給され、制御空気管系統には除湿装置が装備されている。
(4)燃料油装置
 燃料油清浄装置として、燃料油精密こし器が2基装備されている。
(5)潤滑装置
 主機関、減速機及び発電機関等の潤滑は、各機器に付属する潤滑油ポンプによる強制潤滑方式とし、主機関、減速機付ポンプの他に電動機駆動予備ポンプが装備されている。また、潤滑油清浄装置として、潤滑油精密こし器主機関用2基,主発電機関用2基計4基が装備されている。
(6)ビルジポンプ
 ビルジ排出用として、ビルジバラストポンプが装備され、予備として雑用兼消防ポンプが装備されている。通常の機関室ビルジの処理は、油水分離器用ビルジポンプにより油水分離器を介して油水を分離した後、水だけを船外へ排出できる。
(7)廃油処理装置
 廃油処理装置として、廃油タンク及び廃油焼却炉が装備されている。
(8)造水装置
 機関室内に機関廃熱利用真空蒸発式造水装置1台が設置されている。
 造水能力は15ton/dayで、塩分濃度は10ppm未満となっている。
(9)温水装置
 機関室内に機関部機器の暖機、室内暖房、給湯用、造水装置の予備加熱源用として温水ボイラー1基が設備されている。
(10)空気調和装置
 空気調和装置は単一ダクト定風量式とし、居住区系統と業務区域系統との2系統に分割装備されている。
(11)冷凍装置
 食庫冷凍装置の保冷温度は、魚肉庫は、−25度、野菜庫は、5度、ロビーは、−5度となっている。
 標本冷凍装置は、スクリュー式1台とし保冷温度は、標本庫が、−50度、ロビーが−20度となっている。

(若鷹丸 機関長)

Toshihiko Taneichi

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