漁業調査船“若鷹丸”について(2)

長谷川峯清


 前稿では、本船の特徴を説明させていただきましたが、今回は、本船の実施可能な調査観測の全体像、運航に必要な搭載機器の取り扱い、各種機関モードの使い分け、調査観測機器の取り扱い、人員配置等について、計画から実際までの状況について概説します。ここでは船としての法律、規則上の構造、設備等については触れないことにし、業務に関する設備、機能等の説明をさせていただきます。なお、別稿において、本船の各担当者から、実際の運航に関係する詳細な報告と率直な意見を併せ掲載させて頂きます。

3.調査・観測環境

(1)観測作業

 調査・観測・漁撈設備を全て船尾甲板に配置することにより、同甲板全体を見渡せる統合管制室にて、作業甲板の死角を補填するための4台の監視カメラをモニターしながら、観測作業の安全を確認しつつ観測用・漁撈用ウインチの遠隔操作を行うことができます。
 同甲板には、船首尾方向の船体中央部に観測作業甲板を、船尾側にトロール作業甲板が配置されております。
 中央観測作業甲板では、漂泊状態での各種観測作業を行うとともに、海中設置機器の回収や刺網漁具の回収、小型のネット類の曳網を行えるように、右舷側に幅広の観測用舷門、ライン/ネット兼用ホウラー、CTD嵌脱装置付き観測用クレーンを装備しております。また同舷門の後方にいか釣り機3台を設置し、いか釣り調査に使用します。
 船尾トロール作業甲板では、表・中層及び着底各トロール、モクネスネット、ベントスネット等大型のネット類の曳網調査、海中設置機器や刺網の投入等航走状態での観測・漁撈作業を行えるように、船尾マスト(受動型減揺水槽の空気ダクトを兼ねている)、ギャロス(両舷にホイストを装備)、船尾観測用クレーン、転落防止油圧起倒式舷檣及びスリップウエイが装備されております。

(2)研究室と調査機器

 洋上に浮かぶ動く研究室としての機能を遺憾なく十分に発揮するため、水産研究に必要な幅広い調査内容と調査要求の多様化に対応し、目的と用途別に分離して使い易くした7つの研究室と、多くの調査機器が装備されております。
 また、洋上のみならず陸上においても研究を継続できるように、特殊な調査機器を装備したコンテラボ2個が用意されております。本船に搭載できるのは1個ですので調査内容に応じて積み換えて使用します。船内から必要な給電、信号線等を接続して使用されます。
  1. 研究室(ドライ)
     CTD、モクネスネット、XBT、ADCP(超音波多層流速計)、表層環境モニタリングシステム、計量魚探、水中分光光度計等の制御用コンピュータを配置し、観測時にはこの研究室にて各測器のデータ収集と処理作業が行なわれます。
     また、アーマードケーブルを使用している7,000mCTDウインチと4,000mモクネスネットウインチについては、CTD、モクネスネット及び水中分光光度計をそれぞれ流用できるように、使用ウインチの切り換えと信号取り込みの切り換えができるようになっております。
     研究室(セミドライ)側には電動自動扉が設けられております。これは扉の開閉による無駄な空間を省くために設けられております。
  2. 研究室(セミドライ)
     オートアナライザ、溶存酸素自動滴定装置、質量分析計等、観測により得られた海水の化学分析と、それに必要な純水製造装置、超音波洗浄器、乾燥器、真空凍結乾燥器、低・恒温培養装置、滅菌器、薬品保冷庫、試料保存冷凍庫等が装備されております。
     また、自然蛍光光度計、水中光量子計、クロロフィル吸光光度計、ポータブルCTD、セジメントトラップ、漂流系・係留系の水中測器類のデータ処理等、多少海水で濡れたものを取り扱う研究室になっております。
     さらに飼育室内で飼育中の生物の昼夜間の行動をモニターしながら記録解析する生物行動暗視観察解析装置、実体顕微鏡等を配置して調査内容の多様化に対応しております。
  3. 研究室(ウエット)
     CTD水中センサー、CTDオクトパス水中センサー及び同センサー移動用ホイスト式台車、表層環境モニタリングシステムセンサー部等が配置されております。
     船尾甲板側には電動シャッターが設けられ、研究室(セミドライ)側には電動自動扉が設けられております。これも扉の開閉による無駄な空間を省くためと、採水器を手に持ったまま研究室(セミドライ)に出入りができるように設けられております。
     CTD/CTDオクトパスに取り付けたキャラセル採水器から、分析用試水を試水瓶に採水する際に、雨天あるいは荒天時に雨水等の混入を避けるため、CTD水中センサー及びキャラセル採水器をこの部屋に格納した状態で採水するできるように、人間が移動できる空間を確保してあります。
  4. 飼育室
     調光式室内灯、±2゚Cの範囲で室温コントロールのできる空調機を装備し、階温飼育槽、オートサル、蛍光顕微鏡、生物行動暗視観察用テレビカメラ等が配置されております。
     また、生物を飼育する際に必要な海水を特殊な専用ポンプを使用して吸引し、研究用海水として供給する配管が施されております。出入口上部には「使用中」表示灯が設けられ、実験中の室内照明、室温管理に留意できるようにされております。
  5. コンテナラボ(HRPT)
     縦2,400×横1,600×高さ2,205mmのコンテナ内部に、高精度気象衛星受画解析装置及び空調機が装備され、研究室(セミドライ)から動力、照明、アンテナ信号線、船内LAN等の給電線及び船内自動電話線を供給接続できるようにされております。
     本コンテナラボは、調査目的に応じてコンテナラボ(DNA)と積み換え搭載できるようになっており、本船に搭載して衛星画像を受信する際にはコンパス甲板の「静止衛星(ひまわり)画像受信アンテナ」と共用優先受信し、本船から陸揚げして本所保管中の陸上で使用する際にはコンテナラボ上部に専用アンテナを取り付けて受信するようにしております。
  6. コンテナラボ(DNA)
     コンテナサイズ、給電方法等は(HRPT)と同じです。コンテナラボ内には、DNAシーケンサ、DNA合成装置、紫外可視分光解析システム、その他分析に必要なコンピュータ等の機器と空調機が装備されております。
     本コンテナラボは、調査目的に応じてコンテナラボ(HRPT)と積み換え搭載できるようになっており、本船に搭載してDNA分析試験を行う際には上記各機器をコンテナラボ内に設置して使用し、本船から陸揚げして本研究所保管中の陸上で使用する際には机上に設置して使用するようにしております。
  7. 標本処理室
     トロール調査等で採集された生物を大まかに種類分けして種類別の採集尾数と重量を測定するため、冬季や時化の際のみならず何時でも安全に測定作業ができるように、船尾作業甲板から油圧開閉式フィッシュハッチを介してその真下に接続配置されている、標本一次処理室です。生物学的な測定を行うものはこの部屋の横にある生物研究室に移動し、陸上に持ち帰る標本はここで冷凍パンに入れて標本冷凍庫に保管し、その他の不要な採取物は左舷側に設けられた投棄口から投棄されます。
  8. 生物研究室
     上甲板船尾右舷側に標本処理室に隣接して配置されております。標本処理室との境には1.2mの幅広の出入口を設け、中央に大型の測定台を取り付け、研究用海水蛇口を設けた流し台が装備されております。
     トロール調査やモクネスネット観測等で採集された生物を、船尾作業甲板から油圧開閉式フィッシュハッチを開放して標本処理室に降ろし、そこで選別した後に、必要に応じて標本の精密測定や、ソーティング等を行うための研究室です。
  9. 低温実験室
     生物研究室の奥に設けられた実験室で、DNA分析用組織標本等の処理、保管等の作業を行います。生物学的研究の多様化に対応するために設けられた実験室で、−80゚Cの超低温冷凍庫、特殊薬品保管庫、船内LANの端末装置等が装備されております。
  10. 標本冷凍庫
     上甲板船尾中央に標本処理室に隣接して配置され、ロビーが付属設置されております。標本処理室との境には900mmの幅広の出入口を設け、標本の出し入れを容易にしています。標本処理室の容積と冷凍能力は約15m3、−50゚Cと強力なもので、ロビーは約5m3、−20゚Cです。

     配置図a 配置図b

(3)観測機器

 水産研究に必要な幅広い調査内容と調査要求の多様化に対応した9台の観測ウインチと、2台のクレーン、3台のいか釣り機、ネット兼ラインホウラー等の他にも多くの観測機器・漁撈装置が装備されております。それらの仕様と概要を紹介します。
  1. 8,000m汎用観測ウインチ
     船楼甲板中央左舷側に配置され、ベントスネット、マルチプルコアサンプラー、IKMT、ドレッジ等に使用される汎用の観測ウインチです。
     ワイヤは、船尾マスト及び船尾観測クレーンに取り付けた610φの汎用滑車2個を経由して繰り出し・巻き込みが行われます。
     ウインチの操作は、ウインチ機側操作の他、統合管制室の観測ウインチ操作盤にて遠隔操作できます。この操作盤には、CTD/モクネスネット/8,000m各ウインチの操作を切り換えて操作ができるスイッチが設けられており、1台3役の操作ができるとともに、線長、線速、張力、海底高度のデータを液晶デジタル表示させています。また、これらのデータは船内LANに送られ、船内の端末装置及び各居室のテレビでモニターできるようになっております。
  2. 7,000mCTD観測ウインチ
     研究室(ウエット)の上部、船首楼甲板後部中央に配置され、CTD、CTDオクトパス、水中分光光度計等アーマードケーブルを使用してセンサーからの信号をリアルタイムで処理しながら観測を行う調査に使用される観測ウインチです。
     1/4u型モクネスネットの曳網及び水中分光光度計の観測にそれぞれ流用できるように、研究室(ドライ)に使用ウインチの切り換えと信号処理装置への取り込みの切り換えができるようになっております。
     ケーブルは、CTD嵌脱装置付き中央観測クレーンの嵌脱装置部に取り付けた430φの専用滑車を経由し、クレーンを所定の角度に維持した状態で繰り出し・巻き込みが行われます。
     ウインチの操作は、8,000m汎用ウインチと同様、機側操作の他、統合管制室の観測ウインチ操作盤(CTD/モクネスネット/8,000m切り換え式)にて遠隔操作でき、線長、線速、張力のデータは船内LANに送られ、船内の端末装置及び各居室のテレビでモニターできるようになっております。
  3. 6,000m汎用観測ウインチ
     船楼甲板の中央観測甲板左舷船首側に配置され、鉛直採集ネット類、鉛直観測装置類等に使用される汎用の観測ウインチです。
     ワイヤは3ストランドの非自転性の観測用ワイヤで、CTD嵌脱装置付き中央観測クレーンの第1ジブに取り付けた424.5φの専用滑車を経由し、繰り出し・巻き込みが行なわれます。
     ウインチの操作はウインチ機側操作のみですが、繰り出し、巻き込みに倍速機能が設けられており、繰り出し長の長い観測時には有効な機能として利用できます。このウインチの線長、線速、張力のデータも船内LANに送られ、船内の端末装置及び各居室のテレビでモニターできるようになっております。
  4. 4,000mモクネスネット観測ウインチ
     研究室(セミドライ)の上部、船首楼甲板右舷後部に配置され、4u、1u、及び1/4uの3種類のモクネスネットの曳網に使用されます。CTD、CTDオクトパス、水中分光光度計等アーマードケーブルを使用してセンサーからの信号をリアルタイムで処理しながら観測を行う調査に使用される7,000mCTDウインチと同様、モクネスネット専用の観測ウインチです。
     ただし、7,000mCTDウインチまたはCTD嵌脱装置付き中央観測クレーンにトラブルが生じた場合でも、CTD及び水中分光光度計の観測にそれぞれ流用できるように、研究室(ドライ)に使用ウインチの切り換えと信号処理装置への取り込みの切り換えができるようになっております。
     ケーブルは、船尾マスト及び船尾観測クレーンに取り付けた610φの汎用滑車2個を経由して繰り出し・巻き込みが行なわれます。
     ウインチの操作は、8,000m/CTDウインチと同様、統合管制室の観測ウインチ操作盤(CTD/モクネスネット/8,000m切り換え式)にて遠隔操作し、線長、線速、張力のデータは船内LANに送られ、船内の端末装置及び各居室のテレビでモニターできるようになっております。
  5. 1,000mケブラーロープウインチ
     船楼甲板の中央観測甲板左舷船尾側に配置され、基礎生産力の研究用に多量の海水をゴーフロー採水器により採水するときに使用される専用の観測ウインチです。この研究に必要な海水試水は、極力金属の影響を避ける必要があるため、ウインチドラムに特殊コーティングを施すとともに、使用滑車及びローラーは全てナイロン樹脂で造られております。また摩擦に弱いと言われるケブラーロープにはビニールコーティングが施されております。
     ロープは、CTD嵌脱装置付き中央観測クレーンの第1ジブに取り付けたナイロン樹脂製227.4φの専用滑車を経由し、繰り出し・巻き込みを行います。ゴーフロー採水器を取り付ける部分には相当な圧縮力と重量がかかり、繰り返し使用すると繊維の破断のおそれがあることから、使用航海毎に切り縮めて使用する予定です。
     ウインチの操作は、ウインチ機側操作のみですが、現在、音声ウインチ制御システムを装備する準備を進めているところです。このウインチの線長、線速、張力のデータも船内LANに送られ、船内の端末装置及び各居室のテレビでモニターできるようになっております。
  6. 左右分離型トロールワープウインチ
     船尾甲板後部両舷に左右に分離して配置されております。分離型の採用理由は少人数稼働に対処するためです。すなわち、トロール操業における作業工程の中で、漁網とワープの間にオッターボードを取り付ける作業があります。通常漁網側と、ワープ側の両方を接続する作業がありますが、分離型を採用することによりワープとオッターボードを常時接続しておくことにより漁網側の接続作業だけで済み、1工程減らすことができます。このほか随所に省力化、機械化が図られて少人数稼働に対処されております。
     ワープは、船尾ギャロスに取り付けたタングストッパー付き3ローラー型トップローラー(400φ、240φ×2)を経由して繰り出し・巻き込みが行われます。
     また、ワープは4,000m用意されており、水深2,000mの深海曳網ができるようになっております。漁撈試験では実際に2,034mの曳網に成功しました。今後未利用資源の開発も含め、深海域の生物調査要求が増大するものと思われます。
     本ウインチは、深海着底トロールのみならず、表層、中層、離底曳き等各種のトロール曳網調査に利用されます。
     ウインチの操作は、ウインチ機側操作の他、統合管制室のトロールウインチ操作盤にて遠隔操作できます。この操作盤には、左右ワープウインチ/左右ネットウインチ/左右ネットウインチシフター及びネットレコーダウインチの操作スイッチが設けられております。
     また、この操作盤には、自動投揚網機能が付加されていて、カラー液晶タッチパネルの操作によりワープウインチのコンピュータ制御ができるようになっております。このパネルには、自動投揚網情報の他、船尾ギャロスのトップローラに装備されたセンサーからの線長、線速、張力のデータも表示されます。
     これらのデータは船内LANに送られ、船内の端末装置及び各居室のテレビでモニターできるようになっております。
  7. トロールネットウインチ
     船尾甲板中央部に配置され、トロール漁網のコッドエンドまで巻き込むことができます。これも省力化、機械化の一端です。
     このウインチには1組のトロール漁網のみ巻き込むことができます。調査目的により表層、中層、離底、深海のいずれかのトロール漁網に巻き換え交換して使用します。
  8. トロール用3,000mネットレコーダウインチ
     船尾甲板中央右舷側に8,000mウインチに並べて配置され、主に表層トロール、及び中層トロール調査の際に、網口上部に取り付けるネットソナーまたは有線式ネットレコーダに接続して、ケーブルを船尾マスト及び船尾観測クレーンに取り付けたゴム巻シーブ360φの専用滑車2個を経由して、ワープの繰り出し・巻き込みに合わせて自動繰り出し・巻き込みが行なわれるオートテンション式のウインチです。
  9. ネット/ライン兼用ホウラー
     船尾甲板右舷船首側に配置され、刺網の揚網、係留系、漂流系の回収時にロープを巻き込むために使用されます。作業位置が船体中央部にあたるため、システム操船を利用して本船の動きを横から斜め前方に移動しながら回収作業を行います。
     ブルワークトップには取り外し式の、ラインホーラーとして使用する際の3方ローラーと、ネットホーラーとして使用する際の垂直ローラーが取り付けられております。
  10. ギャロス付き電動ホイスト
     船尾ギャロス頂部内側のスリップウエイ上に装備されており、トロール漁網の引き出し、網ペンネントの引き上げ、オッターボードの固定作業等用途の広い機器です。操作はギャロス下部に用意されたポータブル押しボタンスイッチで行います。
  11. CTDセンサー移動用ホイスト式台車
     研究室(ウエット)に配置され、CTD及びCTDオクトパス水中部を搭載して、研究室(ウエット)に格納または船尾甲板に引き出しの動作を押しボタンスイッチで行います。研究室(ウエット)の船尾側開口部は電動シャッターにより開閉し、この台車を船尾甲板に引き出した状態で、CTD嵌脱装置付き中央観測用クレーンをCTDまたはCTDオクトパスの真上に旋回操作させて同嵌脱装置により固定します。
  12. CTD嵌脱装置付き中央観測用クレーン
     船尾甲板右舷船首側に配置され、船尾甲板に引き出されたCTDセンサー移動用ホイスト式台車上のCTDまたはCTDオクトパスの真上に旋回操作させて、同嵌脱装置により固定した後舷外に振り出します。
     嵌脱装置にCTDまたはCTDオクトパスのフレームがしっかり嵌入すると、クレーン先端の黄色旋回灯が点灯します。嵌脱の微妙な操作はウインチの操作では難しいため、舷外に振り出した状態でクレーンの第2ジブを静かに伸縮することにより嵌脱させる方法を採っております。なお、嵌入限界を赤色旋回灯の点灯により操作者に注意喚起させるようにしております。
     このクレーンはCTD観測の他に、6,000m汎用観測ウインチ及び1,000mケブラーロープウインチのダビッドとしても使用します。6,000m汎用観測ウインチで使用する際には、同クレーンの第1ジブに取り付けた424.5φの専用滑車を経由し、繰り出し・巻き込みを行います。1,000mケブラーロープウインチを使用する際には、同クレーンの第1ジブに取り付けたナイロン樹脂製227.4φの専用滑車を経由し、繰り出し・巻き込みが行なわれます。
     7,000mCTDウインチと、6,000mウインチまたは1,000mケブラーロープウインチとの同時使用はできますが、6,000mウインチと1,000mケブラーロープウインチとの同時使用はできません。
  13. 船尾観測クレーン:HIAB-EFFER 25000-3S
     船尾右舷ギャロス上に装備されており、8,000mウインチ、4,000mモクネスネットウインチ、及びトロール用3,000mネットレコーダウインチのワイヤまたはケーブルを、船尾マストを経由させた後、船尾後方の洋上においてダビッドとして使用されます。
     このクレーンは上記ダビッドの使用目的以外に、トロール調査の際のコッドエンド吊り上げ、カイト展開のための吊り上げ、その他調査機材庫または漁具庫フラッシュハッチからの船用品の吊り上げ下げ、フィッシュハッチからの調査器具、標本等の吊り上げ下げ、食料品の積み込み等広い用途で使用されます。
  14. 油圧開閉式フィッシュハッチ
     船尾甲板のトロールネットウインチの船尾側、標本処理室天井部に装備されており、トロール調査やモクネスネット観測等で採集された生物を、冬季や時化の際のみならず何時でも安全に測定作業ができるように、標本処理室や生物研究室に降ろす際に開放して使用されるものです。
     また、調査の準備あるいは整理の際に、調査器具、標本等の積み込み・陸揚げの際に船尾観測クレーンを利用してこのハッチから出し入れしたり、食料を積み込む際にも利用されます。
  15. 油圧開閉式フラッシュハッチ
     両舷船尾ギャロスの船首側にそれぞれ装備されています。右舷側は調査機材庫、左舷側は漁具庫に接続されております。
     フラッシュハッチを採用することにより、甲板面と同一の高さに統一して出入港作業やトロール調査の際の作業性の向上が図られております。
  16. 転落防止用油圧起倒式船尾舷檣
     船尾スリップウエイ開口部に、作業者の海中転落を防止する目的で、船首側に倒れるように装備されております。
     トロール、モクネスネット、海中設置機器の投入作業等の際には倒して作業を行い、作業が終われば起こして固定しておきます。常に安全な作業性を確保するための装置です。
  17. 自動いか釣り機
     船尾甲板右舷側に3台装備されております。船体の風圧面積、水面下の圧流面積が大きいため、釣り糸の傾斜が大きくなり釣獲効率の低いことが予想されます。今後実際に釣獲試験を実施する際に何らかの対策を考える必要があります。

     配置図c 配置図d 配置図e 配置図f

(4)減揺装置

 本船の減揺装置は、上甲板船尾の標本冷凍庫の左両舷側に、船体の横揺れ周期を計測しながらコンピューターで必要な移動水量を算出して、移動水のダクト面積を変更させるダンパーを油圧で制御する「受動制御型減揺タンク」方式が採用されております。
 この減揺装置の他に、船底両舷ビルジ部には幅700mm×18mの長さのビルジキールが取り付けられております。また、船首尾中心の船底には13mの長さのソナードームが装備されていることもあり、これらによる減揺効果は非常に大きく、ほとんど横揺れは感じられないくらいで、調査・観測の作業性向上に役立っております。
 その代わりに船の長さが東北海域のうねりの周期に良く合うためか縦揺れが目立ちます。この縦揺れを抑えることは非常に困難で、針路を変更するか船速を変更して対処するしか方法がないのはハイテク船としては誠に残念な現象です。

4.居住環境

(1)個室化

 乗組員全員、調査員室2室及び士官予備室の3室、計21室を個室化し、調査員室1室はソファーベッド方式で通常1人で使用し2人でも使用できる方式とし、2人室は調査員室2室及び部員予備室の3室に抑えられております。
 また、床面積は最低でも7uという十分な広さが確保されております。

(2)居室室内装備の充実

 各居室には、袖引き出し付き机、高級椅子、テレビ・ビデオ、冷凍冷蔵庫、電気保温ポット、トイレットキャビネット付き洗面台、本箱、ワードローブ、物入れ、靴箱、高級内装材とカーテン等充実した備品が装備され、長期航海においても快適な船内生活が過ごせる設備が装備されております。
 職長級以上の居室は上甲板以上に配置され、舷窓とソファが追加装備されております。
 また、調査員室のベッドは、外国人調査員の乗船にも対応できるように他の居室のベッドより100mm長い2,100mmの長さが確保されております。
 機関部乗組員全居室には、機関延長警報盤が装備されており、機関データロガーにより感知された異常が警報音にて伝達され、何時でもトラブルに対処できるよう省人化対策が施されております。

(3)衛生設備

  1. 便所
     全てウオッシュレット付き洋式便器とし、船楼甲板×1、上甲板×2、第2甲板×1と各甲板に設けるとともに、船首楼甲板と上甲板にはシャワートイレ室を各1室設け、合計6個の便器が装備されております。洗浄水は雑用清水を使用して便管及び汚水処理装置の腐蝕に対する保護が図られております。
     全てを洋式便器として小便器を設けなかった理由は、小便器の汚水配管は詰まりやすく定期的に開放清掃する必要がありますが、洋式便器の汚水配管は小便管に比較して太く清掃間隔を長くすることが可能で、少人数稼働船の本船乗組員の作業を極力減らすことができるからです。
  2. 汚水処理装置
     国際航海に対応できるUSCG(アメリカ合衆国コーストガード)承認機器で、旅客船や新幹線にも使用されている実績の豊富な真空吸引方式と、糞尿を微粒子になるまで粉砕した後、塩素殺菌消毒して船外に排出する物理化学処理方式の併用型が採用されております。水産庁の所属船舶では初めての試みです。
     この方式は、洗浄水が通常の1/5以下で済むにも拘わらず、船内に臭気がこもらず常に衛生的で快適な船内生活ができるように配慮されております。
  3. シャワートイレ室
     船首楼甲板と上甲板に各1室ずつ設けられており、ウオッシュレット付き洋式便器、サーモスタット式シャワー装置、洗濯機及び乾燥機が装備されております。
     女性の乗船、外国人調査員の乗船にも考慮されております。
  4. 浴室
     上甲板中央右舷側に1室配置され、3〜4人が同時に入浴できる広さが確保されております。
     浴槽はステンレス製で、ヒーター付き浴水循環清浄装置が接続され、24時間何時でも適温の風呂が使用でき、快適な船内生活を過ごすことができるようになっております。
  5. 洗濯装置
     洗濯機及び乾燥機はペアで、各シャワートイレ室の他、浴室脱衣室に2組合計4組装備されております。
  6. 飲料水専用蛇口
     各居室のベーシンには、飲料清水と雑用清水の温水が配管され、レバー混合栓で好みの温度での使用ができます。
     雑用清水は毒ではありませんが、蒸留式造水機による蒸留水が混入しており、これを飲用することを避けるため、ベーシン下部で飲料水配管を枝分けしてベーシン上に専用蛇口を並列配置し、安心して快適な船内生活を過ごせるように配慮されております。

(4)公室

 本船にはサロンはありません。業務優先の思想から、使用頻度の低い空間は極力排除されているからです。公室としては、船長公室、会議室、事務室、食堂があります。
 船長公室では8名までの、会議室では12名までの会議・打ち合わせができます。
 会議室には、大型のテーブル、L型ソファー、高級椅子、ワールドワイドのテレビとビデオデッキ、ミニコンポ、OHP、海図差込式ホワイトボード、タッチパネル式船内LAN端末表示器、空気清浄機、絵画、鏡、備前焼の壷等が装備されて、高級感を持たせたサロン風の内装が施されております。
 事務室は、アーチ型の開口部で会議室に接続し、事務用パソコン、沿岸船舶電話及びFAX、カラーコピー、船内共視聴装置、書庫等が装備されており、更に会議室のためのパントリーとして流し台、冷凍冷蔵庫、電子レンジが設けられております。
 食堂には、4台の食卓とコーナーソファ及びテーブルが装備されております。また、レーザーディスクオートチェンジャー、ミニコンポ等が設けられており、本船定員29名全員が集合できる場所になっております。

5.統合管制室

 航海船橋甲板に設けられた本船の頭脳にあたる部屋です。
 甲板部、機関部及び無線部が1つの部屋で当直を行う本格的な高度機能集約型船橋システム(IBS)が採用され、調査業務においても船尾作業甲板全体を見渡せる同管制室後部のウインチ制御区画にて、4台の死角補填用監視カメラをモニターしながら、観測作業の安全を確認しつつ観測用・漁撈用各ウインチの遠隔操作と操船を行うことができます。
 この統合管制室は、船首側に航海・操船区画、右舷側に海図・観測区画、左舷側前部に無線区画及び後部に機関制御区画、船尾側にウインチ制御区画の5区画に分けられておりますが、仕切の壁は全くなく四周視界が確保されております。
 この視界を確保するために、分電盤、自動気象観測装置、無線装置等の背の高い機器については、高さを1,300mmに抑え、壁付け用の機器については集合分電盤に組み込むか、計器台の上または下部に、また、操作のいらないインターフェースや小型のスイッチ類は天井に埋め込み配置するなどの工夫をして装備されております。これらの数多くの計器類やコンソール、分電盤等の配置については、事前に造船所にてモックアップや3次元CADを作製して検討し、ほぼ計画通りに配置されました。
 また、統合管制室には全部で22個の大型の窓が設けられ、船首側と船尾側の全ての窓には熱線入りのガラスが使用され、外側には洗浄用清水・温水配管と電動ワイパーが装備されております。熱線入りのガラスの厚さは12mmと5mmの合せ強化ガラス、その他は10mmの強化ガラスが使用されております。
 船首側には、中央に幅1,200mm×1枚、1,140mm×2枚、その両側に755mm×2枚、1,205mm×2枚の計7枚が配置されています。
 船尾側には、左舷側に1,155mm×1枚、中央にはウインチ操作時の後方視界を良好にする目的で特に幅広の1,750mm×1枚が配置されております。
 右舷側には、縦長の幅750mm×高さ1,250mm×1枚、右舷斜め後方に幅630mm×高さ1,250mm×2枚の窓が配置され、観測機器の舷門及び海面付近の状況を観察しやすく装備されています。
 その他の角窓は高さが650mmに統一され、左右舷ともに各5枚が配置されております。

(1)航海設備

 航海計器及び航海支援設備として、磁気コンパス、ジャイロコンパス×2、自動操舵装置、音響測深機、ARPA付きレーダ×2(Xバンド、X/Sバンド各1)、超音波式速度計、水晶時計、GPS航法装置×2、ロランC航法装置、左右70゚までの大角度転舵が可能なロータリーベーン式舵取装置、シリング舵、深度表示器、航海情報表示装置(トータルナブ:電子海図使用が可能)、自動気象観測装置、波高計、気象衛星受画装置(ひまわり、NOAA)、システム操船装置、海図台、航海・操船コンソール、船内情報指示装置(船内LAN)端末パソコン等が装備されております。
 また、両舷ウイングには、船速、舵角、CPP翼角、バウスラスター翼角表示器が設けられております。
 航海・操船区画には当直用回転式固定椅子3脚が装備されております。

(2)機関設備

 少人数の機関部乗組員の作業低減を図る目的から、JG及びNKの機関区域無人化に適合する最新設備が装備されています。
 機関は2機1軸ディーゼル推進方式が採用され、歯車装置を介して4翼可変ピッチプロペラ及び油圧ポンプ装置(バウスラスター及び観測/トロールウインチ駆動用)が駆動されます。また、主機関及び主発電機関は低騒音対策仕様が採用されるとともに、防振支持をして振動の低減及び船体への固体伝播音の低減が図られています。
 機関の運転は、本船の操船目的に応じてモードを選択し、機関制御区画の機関制御盤に装備されたタッチパネル操作により、あらかじめ定められたシーケンスに従って主機関、CPP、補機の発停、弁の開閉をはじめ各種機器を遠隔制御するシステムである統合制御システムにより行われます。機関制御盤のカラーCRTにより各部温度、圧力、液面等の監視を行うとともに、機関データロガーに接続されている数多くのセンサーにより、異常を感知した場合に警報を発するシステムになっており、この警報は同時に機関部乗組員全室と公室の機関延長警報盤に感知された異常が警報音にて伝達され、何時でもトラブルに対処できるようになっております。
 以上のことから従来設けられていた機関部当直室が廃止されました。

(3)無線設備

 従来の無線設備に加え、1999年から完全実施されるGMDSS(全世界的な海上遭難安全システム)に対応した最新の設備が装備されております。この制度では無線室の他に航海船橋に設備の二重化が義務づけられているため、余分な配線量を減らすことも考慮し、従来の無線室を廃止し、統合管制室に二重化設備を設けました。
 本船との連絡は、沿岸船舶電話や衛星通信の電話、ファックス、データ通信を利用して24時間常時可能です。(詳細

(4)調査・観測設備

 統合管制室に装備されている調査・観測機器は次のとおりです。
  1. 航海・操船区画:バイオテレメトリー追跡装置。
     (受波器はソナードームに昇降式にて装備されている。)
  2. 海図区画:GPSブイ受信装置。
     (受信情報は専用パソコンを介して船内LANに取り込むことができる。)
  3. 観測区画:計量魚探副制御装置、海底地形探査装置、曳網漁法用ディスプレー装置、高出力魚探、カラースキャニングソナー、気象衛星受画装置(ひまわり及びNOAA)、各機器間接続インターフェース及びプリンター等。
  4. ウインチ制御区画:トロールウインチ操作盤、観測ウインチ操作盤、高出力魚探記録器、オッターレコーダ表示器、ネットレコーダ表示器、ネットソナー制御・表示器、船尾甲板監視カメラ制御器、深海用精密音響測深機、レーダアダプター、潮流計、システム操船装置、リモートパネル及びトラックプロッター等。

6.機関統合制御システム

 本船の機関統合制御システムにはいくつかのモードがあり、実際に運航する上で必要なモードと機関運転の状態、推進制御方法、システム操船時の機関運転状態、付加機能は、下記のとおりです。

(1)機関統合制御モードと機関の使い分け

 油圧ポンプ駆動用の主機の回転数は680rpmの定速回転で運転されます。油圧ポンプは4台あり、2台(2号、3号)はバウスラスタ、他の2台(1号、4号)は観測ウインチの駆動用です。トロールモードの場合は1号油圧ポンプは右舷ワープウインチ駆動用で、4号油圧ポンプは左舷ワープウインチ及びネットウインチ駆動用になっております。

(2)推進制御方法

 推進制御は、コンビネータハンドル制御とダイヤル制御に分けられます。
  1. コンビネータハンドル制御
     この制御方法は、各ノッチに対応したあらかじめ定められたコンビネータカーブ設定に従って、最良の組
    み合わせの主機回転数とCPP翼角がコンピュータで制御されます。
  2. ダイヤル制御
     この制御方法は、ダイヤルで主機の回転数を手動制御し、ハンドルでCPP翼角を手動制御します。

 ダイヤルによる回転数、ハンドルによるCPP翼角の設定は、コンビネータハンドル制御と同じ範囲ですが、任意の位置に設定できます。

(3)システム操船

 システム操船は、プロペラ、舵及びバウスラスタの3つのアクチュエータを利用して操船するためのもので、この場合、主機の1台は推進用、他の1台は4台の油圧ポンプ駆動用に使用されます。
 推進用のCPPの使用範囲は、1機推進時のコンビネータハンドル制御と同じですが、推進用主機回転数と油圧ポンプ駆動用主機回転数は680rpmの定速回転で運転されます。

(4)付加機能

ALC(Automatic Load Control)主機関への燃料供給量を計測しつつ、負荷が増大するとコンピュータ制御によりCPP翼角を下げる機能。
ASC(Automatic Speed Control)航海情報表示装置から送られてくる船速信号と、ダイヤルで設定した船速値との偏差を検出して、コンピュータ制御により主機回転数を変化させる機能。

7.船内情報指示装置及び調査データ処理システム

 上記の通り無線室を廃止することにより、そのスペースが船内に張り巡らした船内LAN通信回線の頭脳ともいえるホストコンピュータ及びサーバーの設置場所として確保されました。統合管制室の下の船首楼甲板に、電気機器室兼計算機室が設けられ、これらが設置されると同時に、多くのエレクトロニクス関連機器と機器間のインターフェース類が設置されました。
 本船の船内LANシステムは、イーサネット及び光トークンリングによるサーバー/クライアント・システムで、船内情報指示装置及び調査データ処理システムの2つのLANにより構成され、下記の機能を有しております。
  1. 約100日分の航海・調査機器データをネットワーク・サーバー及びホストコンピュータに収録できる。
  2. ネットワーク・サーバー及びホストコンピュータに収録されたデータは、ネットワークに接続された端末にて自由に検索でき、更に各端末に内蔵のソフトによって編集作業が容易にできる。
  3. 航海・調査機器及び端末に必要な航海データ、気象データを出力することができ、更に、各居室のテレビにテレビ共視聴装置を介してモニター画面の一部を放映し、端末のない居室でも情報が得られるようになっている。
  4. 電子メールによる各端末間での情報交換ができるとともに、各端末以外にもテレビ共視聴装置を介して各居室のテレビにて電子掲示板情報が得られる機能を有する。
  5. 船内に持ち込まれる本船装備品以外の航海・調査機器及び端末(マッキントッシュパソコンも含む)でも、イーサネットLANであるため容易に接続でき、航海データ、気象データなどのデータを取り出すことができる。
  6. インマルサットMを使用したデータ通信がリリースされたとき、陸上設備とのデータ(HRPTデータを含む)通信、FAX送受信ができるようあらかじめ設備されている。
  7. 端末画面上に航海データ、気象データ、ウインチデータなどを表示できる。
  8. ネットワークに接続されたプリンターの共用が可能になっている。
  9. 調査機器に出力する航海データは、光トークンリングLANにより直接出力されるため、リアルタイムのデータ通信ができる。
  10. 従来乗組員が手書きで作成していた観測野帳をWindows上のプログラムにより作成でき、乗組員の負担を軽減するとともに各端末のソフトにて編集作業も容易にできる。
  11. 本システムは、各端末に特定された個別のログイン名を入力することでLANにアクセスし、サーバーに装備された汎用ソフトを利用して個別のファイルを作成できると共に、ホスト若しくはサーバーに共有のファイルを作成保存する事も可能である。
  12. 船内情報指示及び調査データ処理システムは、それぞれ独立したLANシステムとしてブリッジ装置により接続されている。このような構成にすることにより、一方がダウンしても他方へ影響を与えないようになっている。もちろん相互にアクセスすることも可能である。

(若鷹丸船長)

Minekiyo Hasegawa

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