表紙写真の説明

高橋祐一郎


 初夏の東北沖合の航海中、たわむれに波間へ目をやると、数羽の海鳥が海に浮かんだ”大きな塊”の上で休んでいるような光景に出くわすことがあります。船を近づけると、鳥は危険を感じるのか次々と飛び去ってしまいますが、その塊は沈むこともなくゆらゆらと波間に漂ったままで、まるでそこだけ海の色が白っぽく抜けたようにも見えてきます。
 この正体のほとんどはマンボウです。うつろな目つきで横たわり空を仰ぐそのさまは一見死んで浮いているかのようですが、目を凝らして観察すると、ゆっくりと鰭を立てたり流れに留まるといった、生きている証を示してくれます。
 その姿形のイメージなどからか、一般的には珍しい魚と思われているマンボウですが、北西太平洋の沖合ではしばしばその姿を見かけることができます。マンボウの餌はクラゲやサルパのようなゼラチン質のプランクトンであることが知られており、これらが大量に発生する海域ではとくによく発見され、口を水面に出しながら流れてくるクラゲを捕食している光景がみられるそうです。
 船縁まであと数メートル、もうそろそろぶつかるぞというときになっても相変わらず流れに身を任せたままのマンボウの姿を見ていると、「もっと自分もこんな風に堂々として、悠々とした人生が送れたらな」などいう思いが、ふとよぎってしまいます。
 (写真のマンボウ(体長およそ150cmくらい)は、新寶洋丸による春季サンマ再生産および浮魚類北上魚群調査の航海中、1993年5月27日、北緯37゚00.0´、東経171゚59.5´の位置で発見し、撮影したものです。)

(資源管理部浮魚資源第一研究室)

Yuichirou Takahashi

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