「人と組織の活性化」

−管理職研修に参加して−

稲田伊史


 去る5月末に「人と組織の活性化」をメインテーマとする農林水産省試験研究機関の管理職研修に参加した。現在、東北区水産研究所では若手研究者を中心とした研究所の長期的な将来構想を練るための検討会が組織化されつつあり、また秋の水産業関係試験研究推進会議でも「部・支所における人材育成」に関する意見交換が予定されている。そこで上記の研修で得た内容も今後の種々の議論の参考となると思われるのでその概要を報告する。なお、研修への参加者は試験研究機関21機関46名で、その内水産庁研究所からは6名であった。研修の内容は特許やメンタルヘルスといった広範囲の講義もあったが、中心となったのは「人と組織の活性化」や「研究所における運営体制の問題」、さらに総合討論の中での「活性化のポイント」等の農林水産関係の試験研究機関における人材育成・組織活性化の問題であった。
 種々の講義の中で印象に残った点の1つは人と組織の活性の低下が生じる主な原因は個人と組織の価値観に乖離があるためで、活性化のためには共通の価値観をいかに共有するかという点がポイントであるという指摘があった。すなわち、いわゆる“やる気”が生じるのは共通の目標と方向の設定にあり、ケネディの“月へ行こう”との合い言葉でアメリカの科学者が短期間で大きな成果をあげた事例の紹介があった。このことに関連して農林水産関係の研究者は往々にして個人レベルの仕事はうまいが、集団研究は苦手であり、mono-channelの枠内研究に閉じ込もりがちなため、テーマ研究や省際研究に対応できないケースが多々みられる点が報告された。従って今後は研究推進の中核となる集団研究のリーダー養成が重要であり、若手研究者に思い切ってこの種の仕事をまかせることが必要と思われる。
 第2の点は中央と地方の人事交流が少ないという問題で、農業分野でも最近は地方へは人が行きたがらない傾向があるため、地方支場の活性が低下しつつあることが報告された。この点については、本来現場に近い方が組織が活性化しているはずであり、地方の特色ある仕事を積極的にPRする努力を行う必要があること、また新人をまず現場から体験させるという意味から地方で一定期間経験させる必要があるとの意見もあった。しかし、後者の意見についてはかえって新人が研究への魅力をなくしてしまう危険性があるとの指摘もあった。
 第3の点は若手研究者の資質向上の点で、林業では特に時間が長い(森林の成長に時間がかかる)という点と組織が大きいため個々の研究者の研究テーマが細分化され、産業研究として何のために研究しているかという出口が見いだし難くなっているという悩みが報告された。また農業分野でも、最近の研究分野が基礎研究と応用研究に、学術的と産業対応型に分離しつつあり、特に若手研究者は基礎をやりたがる傾向が強くなっている。このため研究と生産現場とのパイプがますます詰まってきているという問題も指摘された。これらの点は水産の分野でも同じような問題をかかえており、今後の人材育成の方向付けが重要なポイントとなるであろう。
 今回の研修では民間企業における先導的な研究管理手法を、今後国立試験研究機関でも参考にする必要があるという方向で講義内容が組まれていた。しかし参加した大部分の研修者は国研の研究マネージメントは研究目標が審議会答申等で決められていること、管理職の裁量権がほとんどなく、研究評価が甘い状況にあること、また研究施設が老朽化、陳腐化していること等のため、たとえ競争原理を導入しても地についた研究はできないし、研究者が逃げ出してしまうと感じているようであった。しかしながら企業の生き残りを賭けた先見性やいわゆる時代を見透すといった見識を国研の管理職も意識的に備える必要があるという点は参考とすべきであろう。
 最後に先日の新聞によれば国家公務員の新規採用者へのアンケートでは、理想の上司として「部下の意見を聞きながら一緒に仕事をするタイプ」が最も好まれるとの報道があったが、今回の講義の中でこういった「仲良し型タイプ」の上司のもとでは決して革新的な研究成果は出てこないだろうとの厳しい指摘があった。なお、農林水産技術会議の事務局長が挨拶の中で、管理職も持てる時間の1/3は研究を行い、研究を通じて人材育成を行うことが重要であるとの話があり、管理職は研究をすべきではないとの指摘を予想していた若手管理職には大きな励みとなった。

(八戸支所長)

Tadashi Inada

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