わかたか丸臨時検査・外板切換え工事報告(1993年2月)

長谷川峯清


  1. はじめに
     わかたか丸は、昭和44年度に建造され既に23年を経過し、長期にわたる厳しい環境下での調査航海により船体の老朽化、設備の損耗・陳腐化が著しく、調査効率の低下のみならず安全運航が危惧される状態になりつつある。
     これらのことを踏まえて、平成4年度一般修繕入渠工事の際に、船底外板のサンドブラストおよび板厚計測を含め老朽箇所の特別修繕を行なった。その結果船底4箇所に破孔が、また25%以上損耗している部分が6箇所それぞれ発見された。同工事の際にはこれら損耗部分に応急処置としてダブリングを施し後日外板切換え工事を行なうことにした。
     ここでは、平成4年7月20日から30日間で実施した一般修繕および特別修繕入渠工事から、同年12月22日から50日間で実施した外板切換え工事・臨時検査までの経過を記し、わかたか丸の現状を報告するとともに、今後増加が予想される老朽船対策の参考に供したいと思う。
     工事実施にあたり、このための予算措置について研究課、船舶管理室の協力を仰ぎ、技術的には漁船課に助言を頂いた。また、本船の現状の上申、運航計画の変更等について、当研究所久米所長および職員各位に格別のご支援を頂いたことを感謝します。
  2. 老朽化保守対策(経緯)
     前記の通り、船体の老朽化の激しい本船の現状を上部機関に把握理解してもらい、早急に老朽化対策を施すために働きかける必要があった。
     幸運にも、わかたか丸は平成4年5月18日〜6月12日の間、当研究所海洋環境部が実施する科学技術振興調整費“海洋大循環”、“海洋開発”、“黒潮開発”に係わる調査があり、本船の航続距離の都合から燃油、清水、食料を当該航海中2回補給する必要があり、同部と協議して塩竃および東京において補給することにした。
     本船にとって東京寄港は、昭和53年度の船体延長工事後のお披露目以来14年ぶりのことで、今回の寄港は補給が主目的ではあったが、併せてこの機会にわかたか丸の現状を本庁の行政官諸氏に直接見てもらい、本船の現状を詳しく説明し、早急に代船建造に着手するとともに、代船が完成するまでの間安全に運航が出来るよう老朽化対策をお願いすることとした。寄港が決定してからは、本船の現状を紹介し老朽化対策に必要な資料を用意するとともに、日程等を決めるため、研究課藤橋経理係長と密に連絡を取りながら東京に向った。
     この6月4〜8日の間の東京寄港時には、研究課、船舶管理室および所長会議で上京中の久米所長の御尽力により、長官、次長、漁政部長、研究部長ほか多数の方々へのご挨拶や、船舶管理室主催の懇親会、大型バスによる本庁の関係者のための本船の見学ツアー(21名が参加)、そして研究課との代船建造作業の促進と現船の保守予算の打合せ等、短期間ではあったが密度の濃い行事をこなし、本庁の関係各課行政官諸氏が本船を見てその現状を理解してもらえたことは、この入港が大成功であり有意義な停泊期間を過ごすことができた。
  3. 平成4年度一般修繕および特別修繕工事
     平成4年7月20日からの工事で、船底外板の板厚計測後実施したサンドブラストの結果、冒頭に記したように、4箇所に破孔が発見され、また、25%〜50%以上損耗している部分が6箇所確認された。不良箇所は、毎年修繕工事を行なってはいるものの、舵機室船底外板内側、魚倉、コファダム、空調機下部船底外板内側等の船内の水はけの悪い単底部分や、内張りがあって錆打ち塗装等手入れのできない部分の損耗がひどく、安全運航を図るためにも早急に対策を講じる必要があった。
     同工事の際には、これら破孔および損耗部分5箇所に、応急処置として同じ板厚の鋼板を外側からダブリング熔接し、同年度内に損耗外板切換え工事を実施できるよう研究課、船舶管理室にお願いした。
     なお、この工事においては、上記サンドブラストおよび板厚計測工事の他、船首マストおよびレーダマストの部分切換え、水温計新換え、カラー魚探増設、便器の洋式化(ウオッシュレット装備)等の老朽化対策と、造水機の新設、洗面台の新設、投光器新設、衛星放送受信装置新設、食料保管用冷蔵庫新設、事務室を士官食堂に改造等船内居住環境の整備を行なうことができた。
     その後、研究課および船舶管理室のご配慮により、外板切換え工事を行うことが決まり、同年12月22日から50日間の予定で12枚の外板切換え工事・臨時検査を実施することになった。
  4. 工事施工
    1. 工事着手までの経過と工程
       12月9日に船底外板切換え工事落札ドックが決定してから、この工事のために日程が変更された平成4年度わかたか丸第13次航海第6回底生生物調査を、同月11日から16日までの6日間実施し、同月21日12:00塩竃港東北ドック鉄工(株)向け八戸を出港した。
       翌22日08:30同港に入港し09:00同社岸壁に着岸した。10:00から本所浜辺庶務課長、菅原用度係長立合いのもと工程会議が開催され、同日午後から工事が開始され、24日に乾ドックに入渠した。
       工事は船内養生から始まり、主機、補機、その他の機関室内の機器陸揚げ、魚倉冷凍コイルの取外し・陸揚げ、舵機室床板および鉛バラスト(2トン)の取外し・陸揚げ、切換え予定外板の内側居室床板、内張りおよび内作物(ベッド、ロッカー、机等)の取外し、居室床下単底部固定バラスト(屑鉄、セメント)撒し・陸揚げ、FO移動保管等の付帯工事に並行して船底外板の曲げ型どり、鋼板曲げ加工、切り取り、取付け、熔接、JG検査、塗装等が行なわれた。なお、復旧時に船首木製階段を軽合金製に改め、魚倉容積を多少増積する等の改造も併せて行なった。
    2. 工事要領
       船底外板切換え工事要領とその日程は下記の通り。
      1. 船底外板切換え準備(12/24〜1/27)
        入渠、船底水洗い、切換え外板チェック・マーキング
      2. 切換え船底外板曲げ型取り(12/25〜12/29)
        船底の曲線をできるだけ精確に型取りして、切換え用鋼板の曲げ加工に使用し、船体への取付け、熔接を行いやすくするために必要な工程である。ベニヤ板を船底の曲線に合わせて切り取り、柄を付けておく。
      3. 切換え船底外板切り取り(12/28〜1/13)
        船底外板板厚計測結果から損耗の進んだ薄化の激しい鋼板12枚を切換えることにしたが、その切り取り方法は次の手順によった。
        1. 切り取り船底外板周囲にペイントによるマーキングを行なう。
        2. フレームおよびストリンガーの位置を確認して縦横にマーキングする。
        3. 各フレームおよび各ストリンガーにより囲まれた部分を1区画ずつ、熔接部を一部残してガス熔断する。
        4. 残された熔接部は大まかにガス熔断した後、ガスおよびサンダーにより熔接面取り処置を行なっておく。
      4. 切換え鋼板曲げ加工(1/ 5〜1/14)
        曲げ型取り後作製した柄付きの曲げ型に合わせて、切換え鋼板を船底のフレームおよびストリンガーの曲線に合うように曲げ加工する。
      5. 切換え鋼板取付け、熔接、歪み取り(1/ 8〜1/20)
        1. 曲げ加工の済んだ切換え鋼板を、切換え部上部に吊りピースを仮付けして吊り下げ、徐々に船体に近付けながら熔接幅を残して不要の部分をガス熔断する。
        2. 取付けられた切換え鋼板をチェーンブロック等でフレームに密着させ、仮溶接して寸法の確認を行なう。
        3. 切換え外板と、フレーム、ストリンガー、ガーダー、および隣り合う外板とは、それぞれ外側、内側ともに二重の熔接を行なう。一度熔接してその熔接面をガウジングカーボンにより削ぎ取り、再度その上から熔接する。
        4. 切換え外板の部分的な歪みは、ガスであぶりながら水をかけながら鋼材の膨張収縮を利用して歪み取りを行なう。
      6. 運輸局検査官による切換え部確認および仕上がり検査(1/7、14、18、20)
        船底外板切り取りが終了した時点で、JG検査官が切換え部の確認を行なった。また、切換え鋼板の熔接が終了した時点で、JG検査官の立会のもと、熔接部に圧力をかけた放水を外部から行い、内部に浸出するか否かの検査を行なった。一方、タンクについては、完全に密封し大気圧よりも高い圧力空気を封入して24時間放置後、その圧力が維持されているか否かの検査を行ない、JG検査官が確認した。それぞれ検査は良好であった。
      7. 取付け切換え鋼板錆打ち塗装(1/15〜1/21)
        JG検査終了後切換え外板の錆打ち塗装を行なった。
    3. 発見工事
       予定された切換え外板切り取り工事施工中に、外観検査や板厚計測では見つからなかった、船体構造部材に発錆破孔箇所が幾つか発見され、船尾燃料油タンク船尾側隔壁にも歪みが生じていた。1月7日に実施された運輸局検査官による切換え部確認検査の際に、発見された発錆破孔箇所の切換えも行なうように指摘され、隔壁の歪みについては歪み取りを行なった後カーリング(補強材)を熔接取付けることを指示され、それぞれ追加工事として切換え、補強を行なうこととした。更に、外板切換え工事が終わり復旧工事の際に、船尾魚倉床板に発錆破孔箇所が発見され、これも追加工事としてダブリング処置を行なった。
  5. おわりに
     研究課が作成した水産庁所属船舶の代船建造計画によれば、今後建造予算が増額されない限り、建造後20年あるいは30年以上経過しなければ代船が建造されないことが予想されている。建造後20年以上経過した老朽船が、定常的な業務を引き続き継続しようとするならば、あるとき思い切った延命工事を行なう必要がある。
     船舶安全法上は定期検査の際には外板検査も指定されてはいるが、年度予算で運航される官庁船の場合、破孔・損耗が発見されたとしてもすぐに対処できないのが現実であり、検査を待つまでもなく事前に自主的に対策を検討しておく必要があろう。特に今回本船が経験した、船底外板の損耗による破孔のみならず、外板切り取り後発見された構造部材にまで腐食が進んでいることもあることに気を付けなければならない。
     本船の今回の船底外板切換え工事は、板厚計測による結果から切換え外板を決定したが、この計測自体が点の計測であり、面の計測ではない。計測点では元板厚でも数cm離れた点では損耗が進んでいるかもしれないのである。また、構造部材の損耗・破孔については外板板厚計測では見つからず、外板を切り取って初めて発見されるものである。本船の今回の工事でも、破孔損耗の進んだ外板および発見された構造部材の破孔損耗部分は切換えたものの、今回の工事では発見されなかった破孔損耗部分が他にあるかもしれないのである。このような老朽化の進んだ船舶に配置された乗組員と調査のために乗船する研究者諸氏の、正に命懸けの毎日が続くことを思うと、果たしてこれが正常な姿であると誰が言えようか。一日も早く代船建造が実現することを切望するものである。

(わかたか丸船長)

Minekiyo Hasegawa

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