表紙写真の説明

稲田伊史、小原清弘


 スケトウダラ(Theragra chalcogramma) の年齢は耳石偏平石の縦断面上の輪紋から読みとられるが、高齢魚になると縁辺域の輪紋の間隔が狭くなるため読みとりが困難となる場合が多い。左の写真は標準体長522mmのスケトウダラの耳石薄片の顕微鏡写真で、透明帯と不透明帯が交互に見られる輪紋を形成していることがわかるが、どの輪紋が年齢を代表するものであるかを判定することが難しい。
 ところで、魚類の耳石の主成分はCaCO3であるが、その他の微量元素(K,Sr,Na,P,S)も含まれている。そこで電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて同じ個体の耳石断面上の沈着元素成分の定性分析を実施し、各元素の分布状態を知るためステージスキャンによりカラーマッピングを行った。中央の写真はP(リン)の元素分布で、透明帯に沿って濃く沈着している(黄色く写っている部分)ことがわかる。逆に右のC(炭素)では不透明帯に濃く沈着する(赤く写っている部分)傾向があることが読み取れる。こうして耳石上の微量元素の分布パターンを分析し、類型化することにより通常の光学顕微鏡下の輪紋の年齢を決定することが可能となる。EPMAは工業製品(例えばセラミックや集積回路)の分析によく用いられているが、今後生物分野への応用も大いに期待されている。

稲田伊史:八戸支所底魚資源研究室長
小原清弘:島津製作所京都分析センター

Tadashi Inada and Kiyohiro Obara

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