東北水研ワークステーションシステムについて

安田一郎


  1. はじめに −ワークステーションて何?
     1991年3月末にワークステーション(WS)が導入されて以来、はや1年が経とうとしています。この1年の間に、曲がりなりにも皆様に使って頂ける(であろう)ようなシステムになって来ました。そこで、これを機会にWSをこれから(そのうち)使ってみようかなと思っている方々、今後WSを導入しようと考えている場所等の多少の参考になればと、今までの導入の経緯や今後の計画等について書いてみることにしました。何であんなものを買ったのだ、と思っている方々にも多少の理解をして頂きたいと希望を抱きつつ、この紹介記事を書いています。
     まず、WSとは何か、というところから始めましょう。コンピュータ業界でいうWSとは、゛パソコン並に小型で、UNIX(ユニックス)というオペレーションシステムで動いている、パソコンよりも高性能のコンピュータ゛というように認識されています。UNIXとは、パソコンのMSーDOSと同じくいろいろなコマンドを翻訳してコンピュータに実行させるプログラムです。
     MSーDOSと大きく異なることは、MS−DOSでは現在パソコンの前に座っている人の一つの仕事しか出来ませんが、UNIXでは、WSの前に座っていない人の仕事も、WSの前に座っている人の仕事も同時にこなすことができます。その上、ウィンドーをいくつも開けば、その数だけ仕事が同時に出来ます。例えば、ワープロをやりながら、図をかかせながら、プログラムを実行させる等ということが出来る訳です。
     WSのもう一つの良いところは、強力な通信機能です。本館の天井付近に、黄色いケーブルがはわせてあります。このケーブルはイーサネットといって、ケーブルにWSやパソコンをつなぐと、別な部屋にあるWSに附属しているソフトウェアやハードディスク、プリンタ等を使うことが出来るようになります。パソコンではハードディスク、プリンタをケーブルの届く範囲内で各個人がそろえなければなりませんが、WSではある種の端末機(SLC)を買ってケーブルにつなげば、イーサネットでつながっているコンピータ資源をすべて使えるようになります。このために、高価なソフトウェア・データベース・プリンタ等の機器を共通に整備してゆくことができます。
     ここで、コンピュータの歴史を振り返ってみましょう。1970年〜1980年代前半にかけては、大型計算機が主流でした。大型計算機の下には数百台もの端末機がつながっていました。その形態は、現在当所にもある農林水産研究計算センターにつながっているE端末に見ることが出来ます。この形態は、大型コンピータの能力を遠隔地から使えるという魅力があります。しかし、端末に附属している機器が限定されており、当所のような小さな場所には小さなプリンタ位しか配備されず、図や大量のデータを入出力できるものがありませんでした。そのために、手軽に使うことが出来ず、その使用は主に文献検索に限られていました。筆者等は流体力学のシミュレーションを実行するのに、ない旅費を研修に結び付けてねん出し、筑波に出かけて計算や作図を必死にやったものです。
     1980年代になると、パソコンが猛烈に普及し始めました。各個人が自分用のシステムを作り、手軽に操作できるという利点があったためです。パソコンの機能も年々飛躍的に伸びましたが、反面次のような疑問も起きてきました。「こんなに高機能なのに、一人だけが独占してしか使えないのは非効率ではないか。」また、パソコンだと、プリンタやプロッタ等の機器やソフトウェアをパソコン毎に整備せねばならず、その点でも非効率になってきました。
     これら、大型計算機とパソコンの良い点を両方持ち、且つ、今迄のコンピュータ資源を無駄にしないシステムが、WSとその間をつなげるネットワークです。ネットワークで各コンピュータを連結することによって、パソコンの問題点を解消し、また、周辺機器の整備を容易にするという点で、大型計算機端末の問題点を解決しています。ネットワークに手持ちのパソコンをつなげればWSのシステムを使ってデータのやりとりや仕事をすることができますし、今までのプリンタを使うこともでき、既存のコンピュータ資源を活用できます。大型計算機と電話回線を通じて連結することも可能になるわけです。これらが実現すると、パソコンを使ってワープロやデータの入力をし、それを、WSの高機能のソフトで解析・図示して、別な部屋にある高性能のプリンタに出力する。また、WSでプログラムを作成、テストランをした後、大型計算機を使って高速で計算させ、出力データをWSに入力して図化する。あるいは、文献検索やアメダス等の計算センターのデータベースを各研究室から使用する、といったことが手軽に出来るようになります。

  2. WS導入の動機
     これまでWSの長所を書き並べてきましたので、コンピュータに馴染みの深い方は買えるものなら(予算に見合うなら)、導入したいと思うかもしれません。WSの価格は昨今の半導体技術、通信技術の進歩のおかげで、最近どんどん安くなっています。UNIX、ハードディスク、カラーディスプレイ等を持つ、それだけで使えるもので200万円台、SLCと呼ばれ他のマシンのハードディスクとソフトウェアを借用するもので約70万円、と価格的にパソコンの最上位機種とそれ程変わらなくなってきました。WSの計算速度・機能・拡張性を考えると、10年前の大型機並の仕事が2、3百万の予算で可能になるのですから、決して高い買物ではないと思います。
     便利さや価格はさておき、私たちは、WSを何の研究に使おうとしているのでしょうか。また、WSはどんな仕事に向いているのでしょうか。まずは、身近な海洋環境部の研究から始めましょう。
     最近CTD,ADCP等海洋測器が進歩し、また、人工衛星によるリモセンデータ等、扱うデータは膨大になってきました。太平洋全域を対象としたWOCE(海洋大循環実験計画)等、グローバルな研究テーマも増えてきました。従来のように、調査船で観測したデータを解析するという仕事に加えて、人工衛星のデータ、既存の様々なデータを組み合わせ総合的な解析を行ってゆくことが、長年未解決の課題を明らかにするのに必要となっています。特に、海洋大循環研究の場合、極端にいえば全世界のデータベースを処理する必要があり、こうした仕事は、パソコンでは無理があります。また、東北海区の海面水温は平年に比較して何度高いか、等の問い合わせに即答するためには、データベースの整備、解析ソフトの整備が必要なことはいうまでもありません。
     今述べたWSの得意な仕事を短くいうと、“大量データの一括処理・図示”ということになります。
     次に、資源管理部の仕事に目を移してみましょう。資源管理部には漁獲統計であるとか、漁場データ等長年の広域にわたる数値データがあります。これまでこれらのデータの入力は電算会社に外注し、解析も外注していました。しかし、いろいろなアイデアや仮説を検証し、踏み込んだ解析をするとなると、身近にデータベースを持ち、高速で処理できるWSが必要になってきます。
     一例として、筆者と渡辺良朗室長とが現在行っている「サンマ漁場と親潮前線位置」に関する研究を示したいと思います(図1)。この図は、146°Eから155°Eまでの親潮前線の緯度の南北偏と、サンマ漁場の距岸距離との関係を示しています。親潮前線が南偏している年には、漁場は全体として沖合化する傾向があることを示しています。このような計算はWSの最も得意とするところです。また、2つのデータの間の相関等各種統計量の計算・図示にはSASという統計パッケージがありますし、データの入力・集計にはWS上で使用できるLOTUS1ー2ー3があります。このように、研究の過程ででてきたアイデアや仮説を既存のデータで検証してみる、といったことに今後整備するデータベースとWSは強力な武器となる、と考えます。
     さらに、海洋の流体力学シミュレーションや資源の数理生態モデルの開発・検証などにもWSは絶大なる威力を発揮することは間違いないところです。現在筆者らは海洋大循環3次元モデルの導入と開発を検討しており、これら理論モデルと実際の観測データを組み合わせてゆくことにより、大きな進歩が期待されます。
     最後にもう一つ、WSの重要な機能があります。それは、WSの優れた通信機能です。WSを電話回線を通じて、適切な外部ネットワークに入ることにより、国内は無論のこと、国外のUNIXマシンとデータのやり取りを行うことが出来ます(現在整備中)。例えば、外国の研究者と友人になって電子メールの住所を教えてもらっておき、研究のアイデアを思いついたときに、既存の研究の有無等のアドバイスの依頼をしておくと、その日のうちに、答が返ってくるといったぐあいです。これは、国際会議の直前に問い合わせをする時等に絶大な威力を発揮すると思います。また、共同研究者との間での論文の改訂やデータの交換の時にも、郵便よりもずっと迅速にやりとりが可能です。

  3. 機種選定
     WSの導入の計画を建て始めた1990年11月頃、WSグループ(著者を含む海洋環境部の面々と大関技官)の中には、筆者を始めとしてWSやUNIXに詳しい人間はいませんでした。どんな会社の、どんな機種がよいか、価格や機能等わからないことが多く、WSを取扱っている会社の人を呼び、話を聞くところから始まりました。コンピュータ屋さんの話は専門用語が多く、話の途中で、ΟΟプロトコルだとか、××ウインドーだとか、用語の説明をしてもらいながら、こちらも勉強しながら機種の選定をしたのです(はっきり言ってえらく時間がかかりました)。
     一口に、WSといっても、各社からいろいろなマシンが発売されていました。主な会社は、SONY、HP(ヒューレットパッカード)、SUN、富士通、XEROX、IBM、NEC等です。これらの会社のマシンはUNIXが少しずつ異なっており、一度導入すると、後々まで付き合うことになるため、機種選定には慎重になりました。

    次に、各社の特徴を列記します。
    HP船に積んでも保障してもらえる程、堅固。
    WSの老舗。
    反面、価格高。
    当所にあった機械をネットワークにつけるために数百万かかると聞き断念。
    SONY政府研究機関向ディスカウントがあり比較的低価格。
    日本でのシェア良好。
    国産なので壊れにくく、日本語対応良好。
    代理店の面倒見良好。
    IBM・
    NEC
    資料が手元になく、始めから考慮外。
    SUN世界中で最もポピュラーなWS。
    当時最速。
    価格は、交渉していくうちにSONYとそれ程変わらなくなる。

     価格と予算との関係と、代理店の面倒見の点でSONYとSUNに絞られ、今後最もポピュラーになるだろうという事で、SUNに落ちつきました。SUNの機械を扱っているのは、富士通、XEROX、東芝、松下等で、XEROXは、そのマシンをARGOSSという名前をつけて販売していました。価格は、富士通とXEROXを比較したところ、ややXEROXの方が安く、面倒見も良かったのでXEROX社から導入することにしました。また,XEROXは、東北大理学部のNOAA画像解析システムの開発に関わっており、今後の画像解析システムの導入に有利との観測もXEROXを選んだ理由の一つになりました。
     機種を選ぶに当たって、私たちが重視した判断基準は次の順になります。

    1. 価格と性能のバランス
    2. 普及度(普及しているマシンには、良質かつ低価格のソフトウエア、周辺機器が相次いで発売されるので、将来を考えると安上がりになる。) 
    3. 代理店の面倒見の良さ(我々はコンピュータについて素人であり、つまらない質問にも丁寧に答えてくれたり、システムについて適切なアドバイスをしてくれないと困る。)

  4. 機器構成とネットワーク
     最終的な(1991年3月時点)機器構成は、次のようになりました(図2参照)。主なものとしては、UNIXシステムを持ちネットワークにつながっているすべてのマシンのサーバとなるメインのマシンとしてARGOSS5250(500MBハードディスク、32MB−RAM、計算速度28.5MIPS、カラーディスプレー)1台。SLC(8MB−RAMハードディスクなし、12.5MIPS、モノクロディスプレー、システムやハードディスクは、ARGOSS5250のものを使うが、ハードディスク、システムの追加可能)2台。プリンタとしてポストスクリプト対応OKIマイクロラインPS801、キャノンレーザーショット各1台。海洋環境部に既存のPC9801DAを端末と同様の機能をもたせ、ネットワークにつなげるための、ボードとソフト(これは、MSーDOSアスキーファイルをWSに移動させたり、逆の事をしたりすることを念頭においた)。その他、ワープロや図書きのソフト、電話回線接続のためのインタフェース(トレイルブレーザー)、ネットワークのためのケーブル(LAN)や、機械を接続するためのレシーバー等々です。
     所内に、どのようにLAN(ローカルエリアネットワークの略)を張るかは、松尾室長に設計して頂きました。LANの始まりは、海洋環境部長室で、そこから廊下を通り、生環研、動態研(SLC1台)、解析室(ARGOSS5250、PC9801DA,PS801とレーザーショット(パソコンと共有))を経た後、2階に上り、計算機室(筑波と接続することを念頭にいれた)、資源管理部の各室を通り、資源1研(SLC、レーザーショット各一台)で終わっています(機器構成とネットワークの概要を図2に示しました)。ケーブルの両端はかなり余裕があるので、今後、庶務課や他の部屋にもケーブルをのばせるようになっています。このケーブル張りは、塩釜市内の電気屋に依頼しました。
     平成3年度になり、資源1研の予算で250MBのハードディスクを追加しました。また、3年度中に海洋環境部予算で1.3GBのハードディスク、CD−ROM(読みとり専用光ディスク装置)、MOーディスク(読み書き両用光ディスク装置)が新たに追加になる予定で、ますます機器は充実してきました。
     また、今後、所内LANを増殖棟にまで拡張する(予算や必要性との関係で確実ではありませんが)計画や、筑波の大型計算機と接続する計画もあります。

  5. 整備された、あるいは計画中のソフトウエア(WSで何ができる?)
     現在までに導入された、あるいは、計画中のソフトウエアとそれで何ができるかを以下に列挙します。
    ウインドーシステム:幾つもウインドーを開くことにより、ウインドー毎に独立の仕事が出来る。
    ・オープンウインドー(ARGOSS5250、SLCで使用可)
    マウスを用いて操作できる。日本語でメニューが出る。
    ファイルの編集等、多機能で便利なウインドーシステム。
    ・Xウインドー(PC9801DA)
    使用可能言語:自分でプログラムをつくって計算させる場合。
    ・FORTRAN
    ・C
    ・残念ながらBASICは今のところなし。
    グラフィックス:グラフや図を描くためのサブルーチン群、現在のところFORTRANかCでプログラムを描かないと図は出てこない。近々、SASを用いても可能になる予定。
    ・GKS
    ・NCARG
    米国大気研究センターで開発された、等値線、折れ線グラフ、地図等を作成するサブルーチン群。
    フォートランでプログラムを書く必要あり。
    プロッターを使うような感覚で使える。
    (1991年5月 東水大、大脇博士に依頼して導入)
    統計計算:相関、クラスター分析、時系列解析等の統計計算。
    ・SAS
    統計計算用パッケージ。
    計算結果をグラフ化してレーザープリンタに出力することも可能。
    資源管理部がリースしている(大関技官が対応)。
    今後、農林水産計算センターと接続することによりSASの全機能をWSから無償で使用できるようになる。
    デスクトップパブリシング:ワープロ、お絵描き、卓上出版用のソフト、出版物や論文等自分で丁裁を整えて出版するときに使う。ポストスプリプトプリンタにより美しい印字(フォントも豊富)が可能。
    ・SUN WRITE
    日本語ワープロ、清書用ソフト。
    ・SUN DRAW
    図を書くときに使うソフト。
    ・SUN PAINT
    絵を書くときに使うソフト。
    絵の具の筆のような使い方ができるらしいが、筆者は使ったことがない。
    表計算:集計やデータベースの製作等。
    ・LOTUSー1ー2ー3
    言うまでもなく代表的な表計算ソフト。
    近々導入予定。
    電子メール:UNIXにその機能が附属されている。電話回線、JUNET(大学関係ネットワーク)を通じて、全国のUNIXマシンとメール、データの交換可能(現在整備中)。
    その他の個人製作ソフト(筆者製作)
    ・CTD断面図プロット
    CTDデータベースから任意のデータを引用して、水温・塩分・密度・酸素・地衡流等の断面の等値線図をレーザープリンタで出力する(NCARG使用)
    ・平面図プロット
    地図と共にCTDデータベースから、各水深・各等密度面上のデータをプロット、レーザープリンタで出力。
    ・サンマ漁場データベース
    1971年〜1990年の月別、30’毎の漁獲量データベース。
    資源管理部・渡辺室長と作成。
    ・サンマ漁場経年変動解析プログラム
    サンマ漁場の年々の距岸距離変動を解析するプログラム。
    ・準地衝流2層モデル
    中規模以上の海洋現象を再現するのに適当な海洋の流体力学シミュレーションモデル。

    今後の予定
    ・NOAA−AVHRR画像解析システム
    東北大学で受信している画像データの表示・解析ソフトと画像データベース。
    日々の可視・熱赤外の画像データを迅速に処理可能。
    沖合だけでなく、沿岸付近のモニターにも有効。
    ・UNIRAS
    プログラムを組むことなしにマウスだけで好みの美しいカラーのグラフや3次元までの図を出力できる。
    海洋環境部では当面必要ないが、他部で導入してくれると有用なこと論を待たない((株)理経で取り扱い)。
    ・各種データベース
    CTD、漁獲統計、漁場、水温、人工衛星、フェリーデータ、親潮前線、黒潮位置、海上風等海上気象データ。
    ・3次元海洋大循環モデル
    海洋の大循環シミュレーションモデル。
    水分・塩分・流れを流体力学的に計算。
    卵稚子の輸送拡散のシミュレーション等も可能。
    ・海洋構造解析プログラム
    水塊分析、ADCPデータ処理、インバース法等の各種解析プログラム。

  6. 問題点
     今までWSの長所ばかりを列記してきました。WSはパソコンよりも優れた計算機で、多くの仕事をさせることができます。反面、高機能・多機能であるがゆえの欠点があるのです。その欠点をよく把握していないと、とんでもないことになりかねないのです。
     まず一番恐ろしいことは、誤った操作をすることにより、システムが壊れ、ハードディスク中のデータやプログラムが破壊されることです。このようなことは、結構頻繁に起こります。一番の原因は、パソコンを扱うような感覚で、本体やハードディスクの電源を切ることです。WSはネットワークにより他のマシンとつながっており、マシンは何もしていないようにみえて、実は、マシンの間で様々なプログラムが動いているのです。例えば、ハードディスクを読み書きしている最中に電源が切れたら、ハードディスクに傷害が生じてしまうのは理解できるでしょう。そこで、合言葉は“ワークステーションの電源は切らない、無闇に変な操作をしない”です。停電や落雷の危険があって電源を切る必要があるときは、システム管理者を呼んで下さい(現在、筆者と大関技官が担当しています)。
     どんなに注意していても、誰かが変なことをしたり、落雷、突然の停電等、予期せぬ事で大切なデータやプログラムが失われる可能性があることを良く認識して頂きたいと思います。これを避けるためには、定期的にテープに自分のディレクトリ全部を記録するのが賢明です。“tar cvf /dev/rst0 ディレクトリ名”と打てば、ディレクトリ名で指定した以下のファイルやディレクトリはすべてテープに記録されます。この作業は、各自行って頂きたいと思います。そこで次の合言葉は、“定期的にテープにバックアップが大切”。
     今までは、システムの破壊の防止策についてでしたが、万一マシンが壊れた場合に備えて、XER0Xと保守契約を結んでいます。この保守契約はマシンが破損した場合、無償で修理をしてもらう、というものです。この保守費は定価の約7%/年となっているので、定価1千万のもので、年70万維持費がかかることになります。このような維持費を研究費でまかなうのは大変なことで、施設管理費で本来支出されるべきものと考えますが、如何でしょうか。現実問題としては、この保守費をどの部がどのような割合で負担するか、という問題があり、平成3年度は海洋環境部と資源1研との間の話合いで2:1の比率で負担しました。
     また、今後、機器やソフトを新しく導入する際に、誰がどれだけ負担するのかということも重要な問題となってきます。というのは、WSはネットワークで連結されているために、どこからでもその機器やソフトを使えるからです。不公平のないようにするためには、今まで以上に、部や研究室の壁を越えた話合いが必要になるでしょう。妥当な線としては、各部に1台ずつは、システムとハードディスク、プリンタを持つマシンを各部の負担で持ち、保守費は各部で負担、そのマシンの管理も各部で行う、という案があります。共通のソフトウエアやバージョンアップは共同で行うべきものでしょう。
     最後に、もう一つ重大な問題があります。それは、新しく導入された機器をとりつけたり、新しいソフトをインストールしたり、マシンの異常を修復したり、いろいろな質問に答えたり、会社に問い合わせたり、マシンの電源を入れたり切ったり、という任務をする“システム管理者”を誰がやるか、ということです。
     現在まで、筆者と大関技官が知識のない状態から、XEROXに問い合わせをしたり、自分でマニュアルを読んだりしながら、何とか対応してきました。しかし、この任務はかなりの負担で、導入の際には、良く理解できない厚いマニュアルを何冊も読んでなんとか対応してきました。システム管理の仕事だけで給料分位は働いているなぁ、というのが実感ですが、私たちの本来の仕事である研究業務をおろそかにすることはできず、勢い残業の嵐になってしまうのです。今後の課題としては、システム管理者を育成し、その負担を分散することが重要なポイントです。電算機会社等から、WSに精通している人に月2回位来てもらい、いろいろ教えてもらったり、ソフトウエアの動作の講習をしてもらうことも一つの案でしょう。
     前に挙げた種々なソフトウエアは現在のところ、使い込んでいるものは少ないのです。この辺のことを御理解頂き、WSを使って現在あるソフトウエアの動作を研究し、皆に講習等をしてもらえることを、切に希望しております。

  7. さいごに
     ワークステーションについて何ができるか、何が問題か、という点に絞って述べてきました。最近つらつら考えることは、「私達研究者にとって、コンピュータと、どこまで深くおつきあいをすべきなのか?」という事です。私達はコンピュータ研究者でも技術者でもなく、あくまで、コンピュータを道具として扱う、海洋なり生物研究者です。最も重要なことは、コンピュータを変幻自在に操る技術ではなく、研究のアイデアや仮説が優れているか、そのアイデアを検証するに足るような観測ができるかどうか、なのだと思います。ただ、アイデアを検証する道具・データを処理する道具としてのコンピュータはかなり有力であり、コンピュータを熟知していると便利なことは疑いありません。今後、研究とコンピュータのバランスをとってゆくことが肝要であり、コンピュータを専門とする技術者を研究チームの中に入れて、研究を進めてゆくことが必要になってくると思いますが、皆さんはどう考えるでしょうか。
     今後も、WSの講習会を順次開いてゆく考えです。是非便利になったWSを利用して、良い研究をされんことを心から願う次第です。最後に、東北水研の庶務課始め、WS導入に際してお世話になった、多くの方々に感謝したいと思います。

(海洋環境部海洋動態研究室)

Ichirou Yasuda

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