東北海区の動物プランクトン現存量分布図集の刊行

小達和子


 東北海域は寒暖流が交錯するため生物生産が極めて高く、三陸沖は世界的にも有名な好漁場です。海洋の生物生産は、栄養塩類と光エネルギーによる基礎生産をベースに、プランクトンから小型・大型魚類に至る複雑な食物連鎖の上に成り立っていることは、周知のことです。
 プランクトンと呼ばれる浮遊生物の中には、微細な細菌類から巨大なクラゲ類までその大きさや形態は多種多様です。しかも、その分布量は海域における生物群集の構成、海流系や水塊の指標ともなります。ここで取り扱っているのは動物プランクトンですが、その現存量は水域、水塊、水温等環境条件の季節による変化や年によっても大きく変動します。したがって、直接これらを餌とする回遊性浮魚類の漁場形成機構の解明やこの海域の生物生産量を推定するためには、時空間的な存在状態を把握することが重要です。
 東北水研では昭和24年に創立以来今日に至る40数年の間、関係試験研究機関の協力を得つつ、この海域における動物プランクトンの採集を行い、漁業資源や漁況変動を解析するための基礎資料の蓄積に努めてきました。
 この度、関係者の御協力を得て別記図集を刊行し、関係試験研究機関に配布しました。その内容は次のようなものです。
1 調査の方法
 東北水研及び関係試験研究機関では、動物プランクトンを採集するため、各種の資源海洋調査を開始した当初から丸特プランクトンネット(口径45cm、側長100cm、網目0.33cm:GG54)を使用してきました。このネットは1949年からイワシ資源協同調査で推奨されたもので、煩雑な海洋調査作業において比較的取り扱いが容易であるところから、継続して使用してきました。このネットを深さ150m層(もしくはワイヤー長150m)から海面まで曳網したものです。したがって、鉛直またはそれに近い状態で23.8立方メートルの水柱を濾過したことになります。
 採集した標本は直ちに10%ホルマリンで固定し、東北水研の実験室でその湿重量(wet weight:比較的大きい魚類稚仔やクラゲ類などを取り除き、濾紙で十分に水分を除去したもの)を計測し、基礎データとしました。
2 データの処理
 ここに収録した1956年から1988年の38年の間に、これら試料の採集に参加した各種調査船は、水産庁調査船延10隻、道都県水産試験場指導船延33隻、各県水産高等学校・大学等練習船延10隻、各種調査のための用船延16隻、総計70隻に及び、総航海数は延1,035回、総採集点数は16,550点に達しました。年平均433点採集したことになります。また、調査は周年行われましたが、年内では5〜9月の採集が約3分の2を占めています。
 各採集点ごとに測定した湿重量を、年別・月別に海洋白図にプロットし、緯度・経度1度升目内の平均値を算定して、その升目内の現存量の指標としました。極く沿岸域で曳網水深150m以浅の採集点のデータは割愛しました。
 これら調査航海の範囲は、北西太平洋の全域に及んでいますが、編集の便宜上、北緯30〜46度東経140〜170度の範囲に限って図示しました。また、このデータは全てフロッピーディスクに収録してあります。
 このネットで採集された動物プランクトンは、小型(micro plankton:0.05〜1mm)、中型(meso plankton:0.5〜10mm)、大型(macro plankton:10mm以上)などです。これらは主として海の200m以浅に生活する表層性の浮遊生物(epiplankton)であって、なかでもかいあし類(copepoda)が圧倒的に多く出現します。調査開始以来この海域で採集された動物プランクトンの種類数は、21目61科161種に及び、これは日本の周辺に出現する種類を殆ど網羅しており、東北海域のプランクトン生物相の豊富さを示しています。種類組成については、東北水研研究報告等に掲載してあります。
 第2次大戦後の混乱期から現在に至るまで、調査船の運航に関わる多くの社会情勢の変化はありましたが、長期間にわたって継続して調査が実施された意義は大きいものと思われます。御協力された調査船はじめ関係者の御努力に心から敬意を表します。
 この資料が東北海域の海洋生産力や漁場形成の解明に、活用されることを期待するとともに、今後ともこのような調査が継続して行われることを願って止みません。

北西太平洋(東北海区)における1951〜1988年の動物プランクトン現存量の分布
年別、月別、緯・経度1度升目の平均湿重量
小達和子(編)
平成3年3月 B4版 370頁
参考
動物プランクトン採集点の分布
平均湿重量分布
(資源管理部 漁場生産研究室)

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