高橋祐一郎

”どちて坊や”


 かつて放映されていたTVアニメ”一休さん”をご存じでしょうか。
 時は室町文化の真只中、見かけは明るくとも、人々は自分が生きてゆくためにさまざまな業をさらしていたという時代背景の中でストーリィは展開してゆくのですが、少年時代の一休さんが数々の難題をとんちで解決してゆくさまには毎回感心させられただけでなく、デフォルメされた脇役たちの行動にも思わずうなずけるものがあり、次回の放映にはどんな話が出て来るのだろうと楽しみにしていたものでした。
 さて、この番組に登場するいわば、”準レギュラー”の中に、”どちて坊や”と云うあだ名の子供がいます。まだ社会の常識を理解していない幼い彼は、何か不思議なことに出会うやいなや、そこにいた人に誰かれかまわず質問を浴びせます。ところが何を答えてやっても納得してくれないばかりか、いつもその答えに対して必ずまた新しい疑問を思いつき、”どちて?”としつこく問いかけるので、しまいには相手はうんざりさせられてしまいます。そんなわけで彼が近づいて来ると、皆はなるべく避けようとするのですが、自分が相手にされないと気付くと泣きだしたりするので始末におえません。一休さんをはじめその友達、果ては和尚さんや将軍様さえもが彼の質問責めにはほとほと手を焼いているようですが、そんな大人たちの嘆きは露ほども知らない彼は、世の中のいろいろなことを知ってゆく喜びをかみしめ、そしてまた何かを誰かに問いかけることでしょう。
 彼そのものであった幼い頃の私は、周りの社会や環境に目覚めた頃から、大人たちに知らず知らず迷惑をかけながら自らの疑問を解決していくとともに、少しずつ自分の未来を空想していたものでした。しかし時が経ち現実を知らされてゆくにつれ、そのころ見ていた淡い夢は一つ一つ消え去り、そのたびに修正を余儀なくされました。そして体の成長と心の成長のバランスが取れてきた頃に、「近い将来”食糧”と”資源”の欠乏が世界的に大きな問題になってくるだろうから、この勉強をやってゆけば何かの役に立つだろう」という漠然とした考えに達し、その後食糧、そして食品科学のほうに惹かれ、大学時代は食品学を専攻していました。
 少しは食品の中身がわかりかけ、できれば食品学の研究をずっとやっていきたいと思っていた私ですが、今度は水産資源学の勉強をしていくことになりました。はっきり言ってゼロからのスタートで、いまも戸惑うことばかりの日々を送っていますが、また”どちて坊や”のころの自分に戻るつもりで、判らないことなんでも貪欲に吸収し、一生懸命頑張っていきたいと思っています。
資源管理部浮魚資源第一研究室

Yuichiro Takahashi

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