月島からの手紙

木曾克裕



 職住接近の月島で24時間を過ごすようになって2カ月余りになります。月島は中央水産研究所の位置する職場の旧称です。現在の地名は「勝どき」で「月島」の町名も現存するのですが、「勝鬨」より風流な名前なので現在でもこの名を使っていることがあります。私も月島の方が勝ちどきより好きです。月島やその周辺はいま流行の「ウォーターフロント」開発とやらで、かつての倉庫地帯からマンションなどの高層ビル地帯に変わりつつあります。水研の窓からものっぽビルやクレーンを載せた建設中のビルが見えます。
 東北水研には11年間お世話になりました。もっとも昨年の7月から今年の3月まで東京大学海洋研究所に国内留学していましたので、口の悪い人たちからは「おまえの東京転出は1989年7月だ。」といわれます。
 東北水研に転任した当所、関東と西九州の海しか知らなかった私には、三陸の魚はとても地味で単調に見えました。でも、サケ・マスの研究を通じ、沿岸域や河川で仕事をしているうちに初夏の沿岸海域の寒流系の魚と暖流系の魚の劇的な入れ替わり、サケ・マスの降海時期(春)の河川の賑やかな魚たちの動きなどに、魅力的な「動」を感じるようになりました。
 親切で優秀な所内外の研究者、漁業者、漁協の人たちと知り合うことができ、すばらしい自然環境の中で楽しく仕事をさせていただきました。これを書いている今も志津川湾の風景、北上川や大川の流れ、石巻や気仙沼の魚市場の様子、定置網の漁業者、魚市場の職員、それに渓流釣りの人々の顔がはっきり浮かんできます。
 中央水研の私たちの研究室は、旧農林省水産試験場貴賓室にあります。中央水研は1993年4月までに月島から完全に移転し、60年の月島時代の幕を閉じることになっており、目下移転準備作業中です。淡水区水産研究所の伝統を引き継ぐ私たちの研究室は月島から信州上田へ移転の予定で、実験室の設計などの作業が始まっています。自称「フィールドワーカー」「渓流釣師見習い」「山屋」「鳥屋」そしてもちろん「魚屋」の私にとって、月島は研究環境も生活環境も決してよいとは言えませんが、この時期を30代の自分の仕事や生活を見直し、新たな展開を図るための調整期間にしたいと思っています。
 最後に長い間お世話になった水研、水試、県庁の職員の皆様、漁業関係者の皆様、渓流釣師の方々に心からお礼申し上げます。また、サクラマス(ヤマメ)を初めとする東北の野生生物諸君の繁栄を祈ります。合掌
中央水産研究所内水面利用部漁場管理研究室

Katsuhiro Kiso

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