多獲性浮魚類の魚種交代と資源管理について

−産卵調査による結果を中心として−

渡部泰輔


  目次

1.漁獲量・産卵量の経年変化からみた魚種交代現象
2.資源変動に伴う生活型の変化と魚種交代
3.再生産関係による資源管理
4.魚種交代と資源管理

 現在,マイワシ資源は著しく高水準にあるが,この高水準はいつまで続くのであろうか,いずれは急激に減少し始めることは,過去の経過からみても明らかである。マイワシ,マサバ,サンマ等温帯回遊性の多獲性浮魚類には,卓越魚種が入れ替わるいわゆる魚種交代現象が知られている(例えば福島・小川1988)。これらの多獲性浮魚類は,環境条件の影響を大きく受け,年級群の大きさは,産卵量と産出されて後の発育初期(卵・仔稚魚期)における生き残りの良否により決まることが多い。また親魚の成熟状態はその年の産卵数・卵質に影響を与えている。このように多獲性浮魚類は自然の要因による加入量変動が大きく,これと漁獲による影響が複合して,大きな資源変動をしていると考えられる。それでは,このような多獲性浮魚類の資源管理はどのように考えればよいのであろうか。
 ここでは東北海域を索餌・成育場とするマイワシ・マサバ・サンマ・カタクチイワシ・スルメイカ(頭足類)の多獲性浮魚類5種について,主として調査船を用いた産卵調査(プランクトンネット・稚魚ネットによる卵稚仔調査)による再生産研究の結果を中心に,魚種交代と資源管理の問題について,考えてみることとする。

1.漁獲量・産卵量の経年変化からみた魚種交代現象

 太平洋側の本州中部以北のマイワシ・サバ類・サンマ・カタクチイワシ・スルメイカの漁獲量の経年変化を図1に示した。
 マイワシ,サバ類(マサバ主体)の漁獲量は,長期にわたり周期的に大きな変動をしており,サバ類の漁獲量は100万トン台の高い水準から減少して現在30〜50万トン前後に維持され,マイワシの漁獲量はサバ類漁獲量の減少とは対照的に,数千トンの低水準から300万トン台にまで急増している。このように漁獲量の変動幅は,マイワシでは著しく大きく,サバ類では近年の強い漁獲にもよるが,マイワシほどの大きな変動はみられず,中位の水準に維持されている。
 サンマの漁獲量は短期的な年変動をするが,サバ類,マイワシ漁獲量の小さい時期に漁獲量が大きく(30〜50万トン台),それ以後やや減少したが,マイワシの漁獲量が著しく増加しても20万トン台と中位の水準 に維持されている。カタクチイワシ,スルメイカはマイワシの漁獲量が少ない時期には相対的に漁獲量が大きく(カタクチイワシ15〜20万トン台,スルメイカ30〜50万トン台),マイワシ漁獲量が増加している時期には,両種とも漁獲量は著しく減少している(カタクチイワシ3〜5万トン台,スルメイカ4〜7万トン台)。
 このような漁獲量の経年変動から,戦前のマイワシ漁獲量の大きかった時期を含めると,マイワシ−サンマ・カタクチイワシ・スルメイカ−マサバ−マイワシと卓越魚種の交代する現象がみられており,このことを一般に魚種交代と呼んでいる。
 これらの浮魚類の漁獲量変動は,漁業の変化による偏りはあるにしても,資源の相対的な変動傾向をある程度示していると考えられる。マイワシの資源量が低水準の時期には,サンマ,カタクチイワシ,スルメイカの資源量は相対的に高水準で,それに遅れてマサバ資源が増加する。マイワシの資源量が著しく大きい時期には,マサバ,カタクチイワシ,スルメイカ,サンマの資源量は,種によりその程度は異なるが,全般に低下する。 
 マイワシ,マサバ,カタクチイワシは分離浮性卵を産出する。これらの太平洋側本州沿海(潮岬以東常磐にいたる海域)における産卵量の経年変化を図2に示した(なお,マイワシについては潮岬以西薩南海域にいたる産卵量も同時に示した)。
 マイワシ,マサバの産卵量の経年変化は漁獲量の変化とおよそ対応している。両種の産卵量は増加し始める時期がほぼ一致しており,その後の増加・減少の経過が異なっている。また,1978年以降のマイワシ産卵量の潮岬以東における減少,潮岬以西における著しい増加とマサバの産卵量の減少が時期的によく対応してる。カタクチイワシは産卵量の年変動が著しく,数年にわたる増減をくりかえしており,漁獲量の変動とはあまり対応していない。

2.資源変動に伴う生活型の変化と魚種交代


 多獲性浮魚類は資源量水準によって,産卵場や回遊範囲、生活年周期が変化し,系群構造も変化することがよく知られている。ここでは,資源変動に伴うこのような生態的変化を生活型の変化と呼ぶこととし,それぞれの種のもつ適応戦略であると考えた。魚種別に,資源変動に伴う生活型の変化と産卵場・成育場における種間関係をマイワシを中心にみると次のとおりである(図3)
 マイワシ(太平洋系)
 太平洋側におけるマイワシの主産卵期は冬春期であるが、資源量水準により次の3つの生活型に分けられる(渡部1981)
 沿岸回遊型:資源の低水準期には、土佐湾周辺(足摺系群)、房総・伊豆諸島海域(太平洋系群)に、小産卵場を形成し、沿岸域を小回遊する地域性の強い魚群で構成される。
 沖合回遊型:資源の増加期に見られる型で、北部の系群である太平洋系群が房総・伊豆諸島海域を産卵場に、東北海域を成育場として、産卵量が急増し、資源は一つの水準にまで増加する。
 沖合大回遊型:資源の高水準期に見られる型で、主産卵場は薩南海域を中心とする潮岬以西の黒潮沿いの沖合域となる。しかし、従来からの産卵場も、産卵量は低水準ながら存在する。このような産卵場の南偏沖合化と濃密な産卵は産卵親魚の回遊範囲の南への拡大・沖合化を示しており,稚仔魚期の分布域は四国・本州南方から東北海域はるか沖合域にまで拡大し,末成魚・成魚は大集団を形成して,大回遊をするようになる。また,これに伴い成長の遅れ,成熟年齢の遅れ(2歳から3歳)が認められている。
 (大発生の終息)マイワシは分布域を最大限にまで拡大し,過密状態が続くなかで,環境の変化に適応できなくなり,親魚の質の低下,初期生残率の低下による加入量の減少が数年にわたり続くことにより,沖合 大回遊型の生活型の崩壊へとつながると考えられる。
 マサバ(太平洋系群)
 太平洋側には太平洋系群と太平洋南部群が知られているが,太平洋系群を中心に大きな資源変動が行われており,2つの生活型に分けられる(渡部1986)。
 集中産卵型:資源の高水準期にみられる型で,房総・伊豆諸島海域の越冬・産卵場に濃密に集群し,春季に集中して大産卵を行い,東北海域を成育場として 資源は維持される。
 分散産卵型:資源の低水準期には,房総・伊豆諸島海域の越冬・産卵場への親魚の濃密な集群がみられず,集中した産卵は行われない。産卵場はそれ以西の海域にも分散して形成され,分散産卵型の生活型を示す。
 マサバとマイワシは要求する環境が互いに類似している。両種とも資源が低水準から増加し始める時期には,房総・伊豆諸島海域を産卵場とし,東北海域を成育場として,ほぼ同時期に増加し始めるが,その後の環境変動が両種の増加の仕方に影響する。例えば両種は1960年頃には増加し始めたが,1963年の異常冷水はマイワシ親魚の分布を潮岬以西の海域へ西偏させ,その後,マイワシは土佐湾周辺を産卵場として,ゆるやかな増加傾向(資源の著しい増加への準備期)を示した。一万,マサバは房総・伊豆諸島海域を産卵場として短期間に高水準に達した。その後,マサバは一時的に減少するが,1972年頃から,両種は房総・伊豆諸島海域を産卵場として著しく増加した。このように,東北海域の成育場に隣接した,最も北部に位置する産卵場が資源の急激な増加に重要な役割を果たしている。
 このようにして,両種とも資源は一つの水準にまで増加する。マイワシ資源がさらに高水準に達すると,マサバ資源は減少し,マサバは分散産卵型の生活型へ移行する。この時期はマイワシの主産卵場が薩南を中心とする潮岬以西の海域へ変化する時期に当っている。マサバの分散産卵型の生活型はマイワシ資源の高水準期に対する適応形態と考えられ,山口(1989)は前号でマサバの質的変化としてとらえている。この生活型はマイワシ資源が低水準になる時期にも継続する。このようなマイワシとマサバの競合関係は,索餌海域における未成魚・成魚の間でも厳しく,川崎(1989)によると,マサバはマイワシの個体群圧に押されて,道東海域から撤退し,三陸沖では勢力を弱め,常磐・房総海域では,マイワシと拮抗していると述べている。
 サンマ(北西太平洋系群)
 サンマの卵は纏絡卵として産出され,定量採集が困難なため,稚仔を対象に調査が行われる。
 サンマは分散産卵型の生活型を示し,資源量水準によって顕著な生活型の変化はみられない。サンマの産卵場は,その他の多獲性浮魚類とは地理的に相違しており,多くは黒潮水域内に広く分散して形成される。秋季・冬季・春季の各発生群で構成され,各発生群の生き残りの良否が大・中・小型群の加入量変動に掛っている。サンマ稚仔は発育に伴って黒潮前線をこえ,稚魚期以降の成育場は東北沖合域に形成される(小坂、林1981)。マサバ・マイワシ資源の著しい増加は,この海域におけるサンマの分布様式に影響を与える。しかし,サンマ資源はマイワシ資源が高水準の時期でも中位の水準にあり,他の種ほど大きな影響は受けないと考えられる。
 カタクチイワシ(本州太平洋系群)
 カタクチイワシ本州太平洋系群は本州南方の沿岸海域を主産卵場として,産卵期はほぼ周年にわたるが,産卵量は5〜8月に多い。そして,次の2つの生活型をもつグループ(渡部1977)が形成される。
 沿岸・内湾回遊型:本州南方沿岸域・内湾域間での小範囲の回遊を行う。
 沖合回遊型:本州南方沿岸域で産卵されたものが,卵・稚仔期に東北沿岸・沖合域に分散・補給され,東北海域を成育場とする。
 このほか,潮岬以西の海域での発生群が両生活型グループへ相当量加入する。
 マイワシ資源の低水準の時期には,沖合回遊型の資源量が大きく,マイワシ資源の高水準の時期には,沖合回遊型の資源量が低下し,本州南方の沿岸・内湾回遊型の生活型グループにより資源は維持される。東北海域の漁獲量は減少するが,この時期においても本州太平洋系群の産卵量は高水準に維持される。
 スルメイカ(冬生まれ群)
 卵は卵塊として海底に生み出されるとされ,定量採集が困難なため,稚仔を対象として調査が行われる。
 スルメイカは沿岸大回遊型の生活型を示し,資源量水準による顕著な生活型の変化はみられない。
 太平洋側のスルメイカ資源は冬季発生群が主体であり,薩南から東シナ海の産卵場における稚仔発生量と太平洋側への稚仔の補給・生き残りが問題とされる(Okutani&Watanabe1983)。
 スルメイカ資源はマイワシ資源の低水準期には大きく,マイワシ資源の高水準期には低水準となる。マイワシ資源の高水準期には,スルメイカ稚仔の分布はマイワシ稚仔の分布域と重なっており,稚仔期以降の成育場におけるマイワシとの厳しい競合が考えられる。
 以上に述べたことから,魚種交代は,マサバ・マイワシ繁栄期とその衰退期(サンマ・カタクチイワシ.スルメイカ繁栄期)に大きく分けられる。
 マサバ・マイワシ繁栄期:両種とも寿命は7〜8年と長く,資源は長期にわたる周期的な大きな変動をする。しかし,両種は要求する環境が類似しており,種間の競合は厳しい。マイワシ資源が著しく高水準となると,マサバ資源は減少する。この期には,サンマは中位の資源量水準を,スルメイカ,カタクチイワシ(沖合回遊型)は低位の資源量水準にある。
 サンマ・カタクチイワシ・スルメイカ繁栄期(マサバ・マイワシ衰退期):これらの種は,いずれも寿命が1〜2年と短く,産卵生態・産卵場が異なっており,これらの種間の競合は比較的ゆるやかである。それぞれの種の資源は年変動をしながら,この期に増加するが,マイワシ・マサバほど資源量は増大しない。
 このように,マイワシの長期的な大きな資源変動に連動して,産卵場・成育場における種間の競合関係(好適な成育場を確保できるかどうか,餌を巡る競合等)が変化しており,ある程度の必然性をもって,魚種交代が進行していると考えられる。
 マイワシは生活型の変化により,昆虫類の大発生にも似た大きな資源量(過密)に達した後,急激に減少し,きわめて低水準の資源状態(過疎)となる大変動を数十年から100年にもわたる長周期で繰り返している。このようなマイワシ資源の増加が地球的規模で, いくつかの海域において,ほぼ同時期に起こっていることはよく知られており(川崎1980),このことは何等かの気候的な長期変動が海洋環境に影響を与え,マイワシに好適な環境条件が共通して形成されることを示している。
 カタクチイワシ・マアジ・ゴマサバは,マイワシ・マサバにくらべ,より温暖な海域に適応しており,相対的に南方系種とみることができ,マイワシ・マサバ資源が高水準の時期(東北海域が相対的に低温期)には、これらの種は低水準に推移している。マイワシ・マサバの資源量の低下とともに、これらの種類は、東北海域へも分布域を拡大し、とくにカタクチイワシ資源が増加する。また、サンマ・スルメイカはそれぞれ産卵場が異なり、独自の再生産様式をもち、資源はそれぞれ変動しながら、マイワシ資源の高水準期には低下するものと考えられる。

3.再生産関係による資源管理

 親世代と子世代の量的関係を再生産関係と呼んでいる。再生産関係は、種または系群を単位として年級群ごとに求められるが、系群構造や生活型の変化を考慮したものでなければならない。
 ある年の親魚の産卵量を横軸に、それが発育して親魚となって何年かにわたり産卵した累積産卵量を縦軸にとって、両者の関係を再生産関係としてよく用いている。年級ごとにプロットされた点が、45゜線上にあれば、資源は維持され、これを上回れば資源は増加し、下回れば資源は減少することとなる。
 マイワシ、マサバ、カタクチイワシ、スルメイカの親世代と子世代の量的関係を模式的に図4に示した。 
 マイワシ:資源が低水準から高水準に達するまでには、段階的に生活領域が拡大し、生活型が変化しており、資源の低水準期、増加期、高水準期の3つの密度依存的(親世代の産卵量の増加とともに子世代の累積産卵量の増加割合が低下する)な再生産関係が認められる。資源が減少期へ移行すると、45゜線を大きく下回る年が何年かにわたって続き、密度独立的(環境条件により子の世代の累積産卵量は変動するが、基本的には親世代の産卵量に比例する)に資源は急激に減少していく。
 マサバ:親世代の産卵量の増加とともに、子世代の累積産卵量は密度依存的に変化し、資源が減少期へ移行すると、マイワシ同様、45゜線を下回る年が何年かにわたり続き、資源は密度独立的に減少し、低水準期(分散産卵型)へ移行する。産卵量がある水準まで減少した段階で増加期にみられた高い加入量が得られれば資源は回復する。
 カタクチイワシ:子世代の産卵量は、45゜線を下回る年と上回る年が何年かにわたり続き、再生産関係は45゜線をはさんで時計回りに変化しながら、増・減を繰り返しており、産卵量が著しく低水準にまで減少してしまうことはない。本種は親魚の密度や餌条件によりって産卵数を調節することが、飼育実験により明らかにされている。(鶴田1989)。
 サンマ:再生産関係は明らかではないが、資源の年変動が大きいことからみて、再生産関係は45゜線をはさんで年変動しながら、長期的には時計回りに資源は増加あるいは減少傾向を示し、資源が著しく低水準にまで減少してしまうことはない。
 スルメイカ:子世代の稚仔量は資源の高水準期には45゜線の回りを変動しながら 時計回りに変化し、資源は維持される。資源の減少期には45゜線の回りを変動しながら低水準にまで減少し、やがて増加期へ移行するものと考えられる。
 このように多獲性浮魚類の再生産関係は、それぞれの種間関係のもとで、これらの種の寿命、産卵生態等の生き残り戦略が反映されており、種による特性が認められる。
 再生産関係の経年変化をみることにより、資源は現在どのような水準にあり、増加傾向にあるか、減少傾向にあるかを判断することができる。そして、資源を維持するに必要な産卵量が確保されているかどうか、再生産関係をさらに解析することにより、加入量を予測し、資源を維持するのに必要な親魚資源量を確保するための許容漁獲量の推定を行うことができる。
 また、ある年の親魚の産卵量を横軸に、初期減耗を終えたある時点(発育期)における加入量を縦軸にとると、発育初期の生き残りの良否を反映した関係が与えられる。
 この再生産関係は、マイワシ・マサバでは前述の再生産関係と同様に、資源の増加期には密度依存的に、減少期には増加期に比べ低い生残率で密度独立的に変化し、加入の時点で、その年級の大きさはほぼ決まっている。したがって、多獲性浮魚類の資源管理には、加入量の的確な予測が不可欠であり、資源の増加期(高水準期)から減少期(低水準期)から増加期へどのようなメカニズムで移行するのか、成熟・産卵と発育初期の生き残りに係わる加入量変動機構の解明が急務といえよう。
 このように、再生産関係は資源管理に必要な情報を与えるものであり、全生活史を通じた資源変動機構の総合的解析のための基礎として重要である。

4.魚種交代と資源管理


 東北海域における多獲性浮魚類の魚種交代現象が、ある程度の必然性をもって進行しているとすれば、異なる生活型をもち、異なった資源状態にあるそれぞれの種に対して、異なった漁獲の圧力が加われば、ある種に対しとくに強い影響を与え、魚種交代が促進されたり、比較的緩やかに進行したりすることは、十分考えられる。魚種交代のメカニズムはまだ明らかではないが、ここではマイワシ資源の長期的な大きな変動が、他の多獲性浮魚類の資源変動に深く係わっており、これが魚種交代の引き金になっていると考えた。そしてマイワシの資源量水準の各期ごとに、多獲性浮魚類のそれぞれの種に対する漁獲の影響、資源管理について考えてみた。
 マイワシの資源の高水準の時期:マイワシ資源は、現在、高水準にあるが、いずれ資源は急激な減少期へ移行すると考えられ、この高水準期をできるだけ長く保つことが必要である。現在のマイワシに対する高水準の漁獲は、資源の過密化を防ぐ上で、資源を適当に間引き、加入量の急激な低下を遅らせているとも考えられる。常に加入量の動向をモニターし、適正漁獲量を求めていくことが必要であろう。この時期には、マサバ及びサンマの漁獲量は中位の水準に維持されているが、取りすぎになりやすく、資源の維持に細心の注意を払う必要がある。カタクチイワシは沿岸・内湾を生活の場とする生活型をもつ魚群の資源量が大きく、産卵量も多いことから、本州南方の沿岸域でのより高度の利用を図ることは可能であろう。
 マイワシ資源の減少期:マイワシ資源は、加入量の著しい低下が、数年にわたって続くことにより、急激に減少する。資源を回復させるためには、加入量変動を常にモニターして、必要な産卵量が確保されるよう許容漁獲量を設定し、加入量の回復を期待する以外に方法はない。加入量が回復しないときは、資源の減少はやむを得ないとせざるをえない。
 サンマ・カタクチイワシ・スルメイカの資源は増加し始めるが、とくにスルメイカは漁獲により資源増加の芽を摘みとらないよう注意することが必要であろう。 
 マイワシ資源の低水準期:サンマ・カタクチイワシ・スルメイカの資源量は、資源が低水準となったマイワシ・マサバ・生活領域を埋める形で相対的に高まる。しかし、これらの種類は、マイワシ・マサバほど大きな資源量にならず、再生産の場も異なり、それぞれに資源変動をしていると考えられる。この時期においても、サンマ・スルメイカは漁獲の影響を受けやすく、資源を望ましい水準に維持するために、適正漁獲量を設定し、有効利用を図ることが必要であろう。 マイワシ資源の増加期:マイワシマサバが増加し始め、サンマ・カタクチイワシ・スルメイカは減少傾向に移行するが、これら各種の資源の維持・増加を図るため、同様に慎重な資源管理が必要である。マサバ・マイワシ資源が増加して一つの水準に達した後のマサバに対する強い漁獲は、マサバ資源を急激に減少させ、マイワシとの魚種交代を促進させることも考えられる。
 以上に述べてきたように、多獲性浮魚類全体の資源管理は、自然におけるマイワシ資源の大きな変動にともなう魚種交代の流れの中で、自然の生産力をいかに効率的に生かし、それぞれの種を望ましい資源量水準に維持し、有効に利用するかということであろう。
 これまで、多獲性浮魚類のそれぞれの種を対象に、資源評価・動向の予測が行われてきた。そして、許容漁獲量は、再生産関係の変動傾向から加入量を予測し、資源を維持するに必要な親魚資源量(産卵量)を確保するという観点から設定されている。しかし、多獲性浮魚類は、自然環境の影響による加入量変動が大きく、これに漁獲の影響が複合されて魚種交代しており、人為的に制御することはむずかしいとされてきた。今後、多獲性浮魚類全体の総合的な資源管理システムを構築し、的確な加入量予測による資源動向の見通しのうえにたって、漁獲を通じて各魚種を望ましい資源状態へ近づけていく努力が必要であろう。
 このためには、魚種交代を伴う資源の増加・減少がどのような非生物的・生物的環境条件の影響により起こっているのか、種の各発育期における生理・生態的基礎知見を蓄積するとともに、種間関係、食う食われるの関係等生態系の中で占める位置付けを明らかにし、低次から高次にわたる、生物生産機構の中で捉えていくことが必要となっている。このことは、長期のスケールでの地球温暖化による生物生産機構の変化を予測する上にも重要であると考えられる。
 さらに、これらを基礎とした漁業経済学的な視点から、また消費者のニーズを配慮した浮魚類の漁業管理のあり方について考えていく必要があろう。
(企画連絡室長)

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