木村記念事業会シンポジウムに参加して
永沼 璋
昭和61年11月84歳でなくなられた東北水研の初代所長故木村喜之助先生の3回忌にあたる昨年11月14日、水産海洋学会と木村記念事業会との共催で、先生が生涯情熱をかたむけられた漁海況予報に関する研究の偉業を偲び、東北海域における海洋環境と浮魚資源の動向について下記の内容で、追悼シンポジウムが塩釜市で開催された。
記 |
趣旨説明:小達 繁:杉本隆成 |
座長:福島信一(前東北水研) |
1. 海洋環境の特徴・・・黒田隆哉(前東北水研) |
2. 主要浮魚資源の動向・・・資料提供 |
| 1) マイワシ・・・ | 山口ひろ常(東北水研八戸) |
| 2) マサバ・・・・ | 小滝一三(東海水研) |
| 3) サンマ・・・・ | 小坂 淳(東北水研) |
| 4) カツオ・・・・ | 飯塚景記・浅野政宏(東北水研) |
| 5) ビンナガ・・・ | 永沼 璋(東北水研) |
| 6) クロマグロ・・・ | 塩浜利夫・西川康夫・林 繁一(遠洋水研) |
| 7) スルメイカ・・・ | 村田 守(北水研) |
| 8) アカイカ・・・ | 村田 守(北水研) |
| 9) 餌料プランクトン・・・ | 小達和子(東北水研) |
3. | 漁海況予報の現状と将来・・・ | 高橋英雄(情報サービスセンター) |
座長:渡部泰輔(東北水研) |
4. | 浮魚漁業の展望 | |
| 1) 主要資源の動態・・・ | 川崎 健(東北水研) |
| 2) 漁業経営・漁業経済・・・ | 大海原宏(東京水産大学) |
5. | 総合討論 | 座長:平野敏行(東海大学) |
| | 安井達夫(前東北水研) |
| 討論1) 海洋研究の立場から | ・・・川合英夫(京都大学) |
| 討論2) 資源研究の立場から | ・・・佐藤祐二(東海水研) |
| 討論3) 地域対応の立場から | ・・・秋元義正(福島水試) |
| 討論4) 漁業者の立場から | ・・・渡会邦彦(塩釜市水産振興協議会) |
このシンポジウム終了後、木村記念事業会総会がもたれ、設立経過報告、事業計画等が承認された。
このシンポジウムは先生の研究活動の良き理解者であり協力者であった喜代子未亡人から、水産海洋研究を発展させるための基金の提供があり、これをもとに川崎 健(東北大学教授)、杉本隆成(東京大学教授)、小達 繁(海洋資源開発センター)、黒田隆哉(情報サービスセンター)の各氏が世話人となって木村記念事業会(会長 川崎 健、会員178名)を設立し、水産海洋学会との共催で第一回の行事が、先生ゆかりの大学、水研、水試の研究者をはじめ地元治自体・県内外の業界関係者100名が参加して行われた。
この企画は、200海里体制の定着化による諸外国への入域規制の強化や減船、魚価の慢性的な低迷など、日本漁業をめぐるきびしい情勢の中で、安定した漁業経営を模索している業界の期待と共感をよび意義ある集会となった。これは偏に先生が海を愛し、漁業者と一体となった研究活動を続けてこられた賜物である。
先生は昭和2年東京大学を卒業後、水産講習所へ入所。昭和4年農林省水産試験場へ移り、昭和24年6月の農林省設置法改正に伴い8海区制となり、初代の東北区水産研究所長に就任し、多くの研究者の指導と育成のかたわら旺盛な研究活動を続けられた。昭和37年からは東北大学農学部の専任教授。昭和42年には仙台大学教授。退職後の昭和45年からは松島湾を一望し、常時潮影の観察できる自宅に木村漁場研究室をつくり、毎年春秋には水産海洋関係の著名学者を招いて各種の研究討論会を開くかたわら三陸沿岸の潮影観測写真の解析による潮影と沿岸漁海況などの研究や東北水研主催のカツオ・サンマ研究会や予報会議に出席され、暖水塊の形成とカツオ・サンマ漁況との関係についての漁場図を基にユーモア溢れる講演を行うなど精力的な研究活動に専念された。先生は、昭和18年の「沿岸の大急潮について」で理学博士を授与され、昭和43年の「東北海区潮境漁場の漁況および海況に関する研究」で日本水産学会賞功績賞第一号の受賞。退職後の「暖水塊の発生機構と長期変動に関する研究」など戦前・戦後を通じて一貫して水産海洋研究の発展にご尽力され、昭和56年に勲3等旭日中綬章を授与された。先生はこの章について、長年の海洋研究の努力賞であると記されていることからも水産海洋研究・漁業理論の究明にひたすら情報を傾けてきたことが推察される。特に、漁海況予報に関する研究では、昭和22年には海洋図を復刊する一方、半旬報の漁況速報を発行し、昭和24年にはカツオ漁場図集の刊行など、漁業指導と広報活動の迅速化を図り、操業の効率化や漁業経営の安定化、更には漁業資源の合理的利用・管理などに大きく寄与している。これらの先駆的な研究により、現在では漁海況予報は全国的な事業として更に大きく発展し、また、200海里体制の中での日本漁業・水産研究に課せられている重要課題となっている。先生が東北水研でこの問題に取り組まれた当時の事を振り返ると、戦後のカツオ船は水温計をもたず、海水をなめれば漁場が分かると豪語する漁労長を相手に、ある時は長靴をはいて漁船に乗込み船員と談笑しながら漁場探索における海洋観測の意義について懇切丁寧に指導される先生の姿が今でも思い出される。この集会に参加した一人として、木村記念事業会シンポジウムが成功裡に終わったことを記して終わりとする。
資源管理部 浮魚資源第2研究室
Akira Naganuma
目次へ戻る
東北区水産研究所日本語ホームページへ戻る