河村 知彦


 当地に移り住んでまだ半年もたたないというのにもう何年も住み慣れた土地のような気がしてならない。どうもこれは“臭い”のせいであるようだ。私は中学2年の時に社会科の先生の影響で貝の収集を始め、それ以来暇さえあれば海岸や漁港に出かけるようになった。実家の私の部屋には苦労して集めた貝殻の詰まった標本棚が所狭しと並んでいる。外見は美しい貝殻であるが、中には肉が完全に抜けていないものもあり、夏になると潮の香りとともに何とも言えない臭いを放つ。水産加工団地と同質の臭いである。塩釜の街に奇妙な親しみを感じるのはこの“臭い”のせいであった。趣味の延長が大学での付着珪藻(貝類の餌となる)の研究になり、とうとう職業になった。今、私は、なつかしいがやはり不快な臭いに悩まされながら好きな研究ができることを大変幸せに思っている。
資源増殖部 魚介類増殖研究室

Tomohiko Kawamura

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