魚を飼うこと─着任の挨拶にかえて─

つる田義成



 昨年10月に、小達姉、小谷兄のいる資源第3研究室(4月から漁場生産研究室)の室長として赴任し、早くも6カ月が過ぎた。この間に、多くの人から今度は何をするのか、イワシはもう飼育しないのか、と聞かれた。イワシは無理だし、折角新しい処に来たので、今度はプランクトンの繁殖システムと生産速度の関係を、また、夏眠に焦点をあてイカナゴの再生産力の変動と資源変動の関係を飼育しながら明らかにすることを話した。
 私は、昭和55年に東海水研に入所し、7年半の間マイワシやマサバなどの産卵調査に従事した。その傍ら、資源の増大に伴って生じたマイワシの成熟年齢の遅れや産卵場の変化が再生産力にどのように影響を及ぼすかを明らかにするために、神奈川水試の三谷兄の援助でマイワシの飼育を城ヶ島で始めた。その後、場所を東海水研荒崎庁舎に移し、マイワシとカタクチイワシの生殖腺の発達や産卵期間、産卵間隔、1回当り産卵数、卵の大きさ等が生活履歴や生活環境によってどのように変化するのか、その調節の仕方を繁殖生理の専門家の広瀬慶二兄(現在、養殖研)と共同で研究した。この研究をとおして、私は、資源研究にもっと実験的手法を導入すべきことと分野の異なる人と共同で仕事をすることの重要性を痛感した。
 飼育は、現場で起こっているであろうことを、条件を限って実証できる。そして、現場の現象を解析する手法と技術を開発する手段である。また、野外調査では思いもつかないことが、飼育の中から見えて来て、研究の飛躍と新規の研究の発展をもたらす。飼育することの忘れてはならない最大の効用は、研究者として最も大切な感性を高めることであろう。
 我が国の資源研究では、増養殖研究で日常的に行われている飼育実験がほとんど行われていない。これは資源研究それ自体の特殊性にもよろうが、現時点では、資源研究の中心的な推進機関である水研の研究体制に在るように思われる。1研究室1魚種、あるいは、1人1魚種対応で全生活史から資源評価までが要求され研究が深化できない状況にある。
 今般の浮魚生態機構プロジェクトでは、課題のおよそ2割が飼育実験を計画している。このプロジェクトを契機に現在の研究体制と不十分な飼育施設の改善が推し進められることを熱望している。
資源第3研究室長

Yoshinari Tsuruta
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