八戸支所談話会について

武藤 清一郎



 6月15日に第1回の談話会を行ってから、比較的順調に開かれ、8月25日で第4回となりました。
 従来、支所に来訪された方々に研究談義をお願いし、夜のアルコールの入った交流会につなげてきました。
 八戸支所も人事の交流が進み、研究者の移り変わりも目立ってまいりましたので、それぞれの研究のまとめの叩き台のようなものを話そうということで始まった次第です。今後、9〜11月は乗船調査が立て混んでおりますので、この間はお休みし、年内にひと回りする予定です。来訪される方々にも従前通り研究談義を希望しますので、この紙面を借りてお願い致します。
(八戸支所長)

第1回(6月15日)

東北海区のスケトウダラ

橋本 良平


 これまでのスケトウダラ調査研究をもとに漁場,系群,生物特性,漁獲物年齢組成,漁獲量,補充,資源評価等について報告し,ご批判とご意見を戴きました。その報告のなかから漁獲量と年齢組成の経年変動について概略を記します。
 東北海区のスケトウダラ漁獲量のほぼ7〜8割を占める沖合底びき網漁業の漁獲量は昭和46年以降急増し,昭和53〜55年にかけて一時減少しますが,昭和56年から再び増加し,昭和57年の4.8万トンをピークに減少して昭和60年は3.0万トンとなっています。 漁獲物年齢組成は昭和55年までは1〜3歳魚が主体であったのに昭和56〜57年は0〜1歳魚,昭和58年は2歳魚,昭和59年以降は0〜1歳魚が,それぞれ漁獲の主体となって一層小型化しています。
 昭和53〜55年にかけてスケトウダラ漁獲量が一時減少していますが,その漁獲量の減少を補うために深海域のソコダラ類が新たに漁獲対象になります。しかし,ソコダラ類の漁獲量にも陰りがみえ始めた昭和56年にスケトウダラの0〜1歳魚の分布量が多く,そのスケトウダラ幼魚に漁獲努力が集中した結果、漁獲量が増大しています。昭和57年も0〜2歳魚が引き続いて多獲されましたが,昭和58年からは分布量が少なくなって漁獲量は減少傾向にあります。このように昭和56年以降は0〜2歳魚が漁獲の主対象になり,漁獲量の変動は卓越年級の存在に影響されているようにみられます。本年のスケトウダラ稚魚の分布量は少ない模様なので,来年の東北海区のスケトウダラ漁獲量の増大は期待できないように思われます。
(八戸支所第1研究室)

第2回(7月10日)

200カイリ内の漁業管理と底魚類資源量調査

稲田 伊史


 日本の200カイリ水域内の沖合底びき網漁業の管理手法の開発のため,総合的な資源評価システムの一環として資源量調査の導入を図る必要性とその問題点について述べた。
 この基本的な考え方は資源評価のために漁業に依存しない独立した情報収集システムを確立することにある。すなわら,従来のPopulation dynamics等を用いた資源解析に基づく資源の評価手法に代るものとして,資源の現存量とその構成群及び加入量を把握し,それが適正な水準に保たれるように漁獲量を調整しようとするものである。そのためにはトロールの可能な調査船を用いて断続的に底魚類の資源量調査を実施し,得られる現存量の推定値とその特性値の経年変化に基づいて資源の評価を行う必要がある。この調査システムにはかなりの資金と労力が必要とされるが,すでにアメリカ,カナダでは漁業管理のための資源評価の基礎として実施されており,日本周辺での取り組みが望まれる。
 なお,これは東北水研ニュース31号に「底魚資源管理へのひとつの提案」として述べたものに,関係する研究者の批判を頂き,手直し整理したものであるが,詳細は海洋水産資源開発センター機関誌「JAMARC」第32号を参照願いたい。
(八戸支所第1研究室長)

第3回(7月28日)

 八戸沖のスルメイカ漁業について

久保田 清吾


 八戸支所において,スルメイカ資源調査研究に本格的に取組んだのは昭和38年からである。当時の八戸港への水揚げは,年間4〜6万トンであって魚市場も活況を呈していた時代であった。この年代の水揚状況は1箱が40〜50尾入れと一定していて,1隻の聞き取り調査で,1漁獲努力単位が水揚げした箱数で1漁獲努力当りの漁獲量を把握することができた。
 このようなイカ釣り漁業も昭和45年頃を境にして急速に減少し,昭和55年に9,500トンの水揚げがあったもののその後も減少を続け,最近の2ヶ年では450〜980トンまで落ち込み調査用資料の入手が難しい状況になってきた。また,漁業者から要望される漁況予測も困難な状態になっている。
 近年のスルメイカ水揚げ形態は,当時とは大きく変貌して30種類以上の名柄別(スチロール箱2.5kg入)に変ったため,資料を得る際にはこれらを把握して入手しなければ,魚群の生物的特性が反映されないという問題がおきてくる。資源回後の見通しも立たない現状では,今後の調査研究をどのような体制で進めて行ったらいいのか模索しているところである。
 また,当支所ではアカイカについても調査研究対象魚種として調査しているところであるが,資料入手が困難なため大型流し網標本漁船の資料は北水研資源第3研究室と共同研究として実施している。釣りによって漁獲される資料は青森県水試の標本船の漁獲物を,沿岸のアカイカについては200カイリ水域内資源調査として共同で実施している現状である。今後これら各機関と協力して研究の向上を計ることはもとより,どの漁業にも増して漁獲の大きいイカ類漁業であるので,当支所としても標本船を導入し精力的に研究を進めていく必要があると考えている。
(八戸支所第2研究室)

第4回(8月25日)

 東北海区のババガレイについて

石戸 芳男


 ババガレイの分布は千島・樺太附近から太平洋岸では駿河湾まで,日本海岸では博多まで広く分布していると言われている。しかし,漁獲量の多い海域は北海道太平洋岸から東北沖合であり,主に底びき網・底刺網・底はえ縄などで漁獲されるが,魚価が高いことから沿岸漁業では主要な魚種である。
 東北海区における本種の調査研究は,八戸支所が開所以来沖合底びき網漁業の重要魚種としてとりあげられてきた。その間,生物学的知見や資源解析などについて,当支所および釧路水試・函館水試・岩手水試などの調査研究によって多くの知見が得られている。これまでの生物学的知見や標識放流結果によると,現在考えられている系統群構造は,北海道太平洋岸から三陸沿岸にかけて産卵回遊する群と,釧路海谷部以東に産卵場をもつ群および津軽海峡西部を中心とする産卵場をもつ群,その他三陸北部沿岸には成長・成熟体長の異なる根付群の存在も推定されている。現在の調査研究は,1.沖合底びき網漁業漁獲統計資料による資源解析,2.漁獲物の年齢組成の把握,3・三陸沿岸における卵稚仔調査などを行っている。
 ババガレイの漁獲量は,東北の沖合底びき網(かけまわし漁法)で昭和46年には447トンであったものが,60年には70トンと減少傾向の一途をたどっている。この傾向は北海道太平洋岸の漁獲量でも同様で,40年頃には2,000トン程度であったものが,60年には56トンまで急激に減少している。沖合底びき網漁業漁獲統計資料により資源量指数や密度指数などを求めて,生活年周期に対応した区分によって経年変動をみると,北海道太平洋岸・東北海区とも急激な減少を示し,現在の資源は低位の状態であるから資源が減少している時期の生物学的知見の再検討も必要である。
 次に,年齢組成については,八戸港の陸揚物が東北海区の陸揚物を代表するものと仮定して,その漁獲物の体長組成から年齢組成を推定しているが,体長一年齢変換のKeyの吟味と,漁獲物の系統群識別などが問題点となっている。一方,ババガレイ卵の月別出頭や分布海域については知見が得られたが,今後は産卵量の推定と産卵親魚量との関連の解明と,ババガレイ稚仔の採集方法および調査時期・海域などが検討課題である。   
(八戸支所第1研究室)

目次へ戻る

東北水研日本語ホームページへ戻る