着任挨拶

服部茂昌


 4月1日付けで東北区水産研究所長を命ぜられ、三陸・常磐の浅海域から太平洋はるか東方海域まで、広い海域の水産研究に携わっておられる方々の仲間入りをさせて頂くことになりました。
 昭和47年まで東海区水産研究所によるイワシ類などの産卵・稚仔調査のため、春季に調査船蒼鷹丸でほぼ毎年のように常磐から仙台湾にかけて海域を調査していたことを想い出しております。それから凡そ14年経過し、その間200カイリ時代に入り、わが国の漁業も大きな変貌を見せております。特に、この新しい秩序の中でその体制の定着化が進むにつれて、それぞれの国の200カイリ水域内の資源に対する沿岸国の考え方が、これまでの資源管理あるいは資源の有効利用という方向から、国益を重視した政策的利用の方向に移ってきているようにみられ、このような状況の中でわが国の漁業とりわけ北太平洋北部における漁業にさまざまな制約がかかるようになってきています。
 わが国ではこのような中で、近年、漁船漁業の経営改善及び沿岸域の漁業開発の重要性がますます重視されています。一方、わが国の漁業にとって今年は昨年にくらべ、さらに一段と生産及び需要の両面で厳しい状態が続いておりますが、このため水産関係試験研究機関に対しても漁業生産現場からの切実な問題提起が一層多くなり、また、行政部局からの早急な対応を必要とする課題が増加するものと思われます。
 東北海域は暖・寒両流に挟まれ、世界でも有数の好漁場であり、上記のような近年の漁業をめぐる困難な条件のもとでも漁業生産量はわが国全体の1/4を揚げ、多獲性魚類及び中・高級魚介類の供給基地として地位を保持し、わが国の食糧の自給と日本型食生活の維持に一層の期待がかけられています。当研究所では、重要漁業生物種について、資源状態を把握し、その変動の法則性を解明することによって、漁業生産を安定的に発展させることを重要な目的として業務を展開しておりますが、この目的は我が国の食生活が魚から完全に離れてしまわない限り継続するものと確信しております。これらを生産する漁業経営の持続・安定を図るためには資源の適正利用、漁獲効率の向上、需給の均衡化など生産構造の整備を推進することが重要な問題となっております。一方、沿岸漁業や海面養殖業は主として中・高級魚介類を対象として、蛋白質の供給と同時に豊かな食生活を維持発展させるために重要な役割を担っておりますが、これらの生産基盤は今もって貧弱であり、資源状態及びそれを適切に利用するための条件を明らかにすることが急務といえましょう。試験研究機関としては、これらの要望・要請に応えていかなければならないことは申すまでもありませんが、同時にこれまで長年に亘って努力を積み重ねてきた将来の水産業及び水産研究の発展の基盤となる重要な調査・研究を継続して実施していくことが必要です。当研究所も発足以来35年にわたり、関係各県水産試験場をはじめ関係諸機関と協同して蓄積された調査研究資料があり、これらの知識と経験を大いに活用し、足りないところは補い、現在の水産業に課せられた難関を突破していきたいと念願しております。
 また、昨年から今年にかけて水産業研究目標及び各水産研究所における研究基本計画を作成することになっており、これらは21世紀に向けての研究方向が打ち出されようとしております。
 このような状況下で、限られた人員と予算の中で多くの問題に対処し、十分な成果をあげていくためにはブロック内あるいは関係漁業に携わる試験研究機関とこれまで以上に緊密な連携・協力体制をつくり、それぞれの成果を相互に活用していくことがより重要となってきていると思いますので、関係各位のより一層のご協力をお願いいたします。
東北区水産研究所長
昭和61年8月

Shigemasa Hattori

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